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最新宇宙ビジネス、簡単早わかり

小型衛星打ち上げから衛星データ利用まで
最新宇宙ビジネス、簡単早わかり

国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」を利用した民間ビジネスも始まっている(JAXA/NASA提供)

 人類初の月面着陸から半世紀あまりー。いま、宇宙産業が大きな転換点を迎えている。かつては国の威信をかけ各国が開発競争を繰り広げた宇宙分野に民間企業が相次ぎ参入。テクノロジーの進展によって、機器開発や衛星打ち上げコストが引き下げられ、宇宙を利用したビジネス拡大に拍車をかける。さらに衛星データを分析することによって得られる価値は革新的なビジネスをもたらす可能性を秘めている。身近になる宇宙-。その最前線に迫る。

ベンチャー勃興


 宇宙産業の昨今の変化を象徴する一人といえば、宇宙開発ベンチャー、スペースXを率いるイーロン・マスク氏だろう。再利用ロケットによる商用衛星の打ち上げ成功によって宇宙開発のハードルが一気に下がる可能性が出てきたからだ。米国ではほかにもアマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏が宇宙飛行の商業化を目指し立ち上げたブルー・オリジンなど注目のベンチャーが勃興する。

 日本でもさまざまな民間ベンチャーが宇宙を目指す。アクセルスペース(東京都中央区)は超小型衛星を活用した衛星網を構築するほか、アストロスケール(日本の開発・製造拠点、東京都墨田区)は小型衛星を開発して宇宙ゴミ(デブリ)回収構想を進めている。

 無人探査機や着陸船などを開発し、世界初の民間月面探査を目指すispace(アイスペース、東京都港区)は、総額103億円という巨額の資金調達で話題を呼んだ。

 米国やロシア、日本など歴史的に宇宙開発をリードしてきた国ばかりでなく、新興国も台頭してきた。中国はすでに有人飛行に成功し宇宙ステーションの建設構想を進めているほか、インドも1機のロケットで史上最多の104基の人工衛星を軌道投入し世界を驚かせた。

 サウジアラビアは政府系ファンドが、起業家・冒険家として知られるリチャード・ブランソン氏率いるヴァージン・グループへの大型投資を発表。同グループは有人宇宙旅行事業を進めている。アラブ首長国連邦(UAE)は宇宙庁を創設し、火星探査プロジェクトを進める計画だ。

 ビジネスモデルも変わってきた。小型の通信衛星を低軌道上に多数打ち上げて、協調動作させる「衛星コンステレーション」構想が欧米で急拡大しているほか、衛星から得られるデータを積極活用する動きもある。大量の衛星画像にビッグデータ解析やAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)といった情報技術を組み合わせれば、地上で起きている変化をより詳細に分析でき、ビジネスに新たな価値を生み出せるようになるからだ。

第4次産業革命の駆動力


 宇宙産業をめぐる環境が大きく変わる中、政府も、長らく官需に依存してきた宇宙産業を、国際競争力のある一大産業に生まれ変わらせるべく2017年5月に「宇宙産業ビジョン2030」を策定。宇宙産業を「第4次産業革命を推進させる駆動力」と位置づけ、宇宙技術の革新とビッグデータ・AI・IoTによるイノベーションの結合を目指す方針を掲げた。

 一見すると遠い存在である宇宙を、他産業の生産性向上や新たな産業創出の駆動力と位置づけた点に特徴がある今回のビジョン。実現の中核を担うのが11月に本格運用が始まる準天頂衛星「みちびき」だ。数センチメートルレベルの精度の測位能力を生かし、すでに自動車やトラクターの自動走行や無人航空機(ドローン)の自律飛行などの実現を目指した実証実験が企業や大学を中心に進む。

 衛星から得られるデータの活用を進める宇宙利用産業のすそ野拡大において、ひとつのエポックとなる出来事があった。政府機関が保有する衛星データを公開し、民間や個人などが原則無料で使えるようにする、日本初の取り組みである。容量が大きく、取得や加工に労力がかかることが民間利用の障壁となっていたこれらデータの利用環境を整えることで、衛星利用の新たなイノベーションにつながることが期待される。

 さくらインターネットは、経済産業省の「政府衛星データのオープン&フリー化及びデータ利用環境整備事業」を受け、衛星写真などのデータの民間利用を促す団体「xData Alliance(クロスデータアライアンス)」を2018年7月末に発足。データプラットフォームの開発を進め、18年度中にパイロット版の提供を始める予定だ。

 経済産業省で宇宙政策の指揮を執る宇宙産業室の國澤朋久室長補佐は「データ利用が増えればこれに呼応してデータへのニーズが強まり、ひいては宇宙機器の需要に還元される。こうしたエコシステムを作りたい」と話す。

 さまざまな変革の波が同時多発的に押し寄せる世界の宇宙産業-。こうした中で日本はいかに存在感を発揮していくのか。特集ではさまざまな企業や団体の取り組みを紹介します。
               

衛星データの民間利用を促す団体「xData Alliance(クロスデータアライアンス)」の代表メンバー(2018年7月末の発足記者会見。写真はさくらインターネット提供)
    
神崎明子
神崎明子 Kanzaki Akiko 東京支社 編集委員
今月のMETIジャーナルの政策特集は「宇宙産業」。次回は衛星データの利用拡大が日本にもたらす可能性について慶応義塾大学特別招聘教授の夏野剛氏に聞きます。

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