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揺れる東芝「半導体から初の社長」悲願がこういう形で・・

セミコン社のDNAとは?室町会長兼社長の素顔は?
揺れる東芝「半導体から初の社長」悲願がこういう形で・・

21日の会見で田中社長(右)と同席した室町氏


システムLSI、幻の再編劇。今でも課題事業として残ったまま


 90年代、東芝はDRAMで惨敗し工場閉鎖など巨額な損失を出した苦い経験を持つ。NANDも「苦しい時期にサムスンに二束三文で技術供与したことが今の格差を生んでしまった」(国内半導体メーカートップ)。今後、戦略を見誤れば、同じ轍(てつ)を踏むことになる。

 収益が厳しいシステムLSI事業にも08年問題が存在する。05年度下期からようやく黒字化する予定だが、事業基盤は依然脆弱(ぜいじゃく)。日本メーカー共通の課題だが、世界に通用する強い標準品がない。次世代の45ナノ(1ナノは10億分の1)メートルプロセスで月産3万枚を生産する300ミリメートル工場を新設するとなると、最低3000億円以上はかかる。東芝1社では到底無理。2010年ごろから45ナノ製品の生産が始まることを想定すると、08年には大きな決断を迫られる。

 昨年11月、NECエレクトロニクスと45ナノのプロセス共同開発で電撃提携。今年に入り、すでに協業関係にあったソニーを加え「3社プロジェクト」に発展した。NECエレとはシステムLSI事業での包括提携も検討している。NECエレが業績悪化で、東芝を”駆け込み寺“にしたという見方もあるが、事業の力関係はそう単純ではない。「携帯電話やデジタル家電分野ではNECエレの方がシステム力は上」(国内家電メーカー幹部)という声も多い。

 もともと東芝の半導体事業は外販中心で社内に目が向いていない。数年前に自社の音響・映像(AV)機器の競争力強化を目的に半導体部門との連携を打ち出したが、デジタルプロダクツの利益率をみると成果が上がっているとはいえない。東芝のDVDレコーダーの中核LSIは初期からNECエレが継続して供給しているほどだ。

 今後、45ナノで生産する製品はソニーなどと開発した新型プロセッサー「セル」とその周辺チップが最も有力だろう。ただ東芝内でセルを大量消化できるセット機器が現状で見当たらない。さらに言えば、東芝自身がデジタル家電単体の収益性にそれほど期待していないフシがある。

 ならばこそ外販中心の半導体ベンダーとしての地位確立が先決。「システムLSIは投資負担が多い分、メモリー以上にスケールメリットを意識する必要がある」(国内半導体メーカー幹部)。3社の共同開発プロジェクトの期間は07年9月まで。NECエレ、ソニーと生産、供給面でどこまで協力関係を深められるかが焦点になる。
 
 東芝の経営にとって半導体事業は極めて重い存在になった。重くなりすぎたゆえ、社内の1カンパニーが支えることが難しくなりつつある。「08年問題」の克服はヒト、モノ、カネの経営資源をより外部に求めることであり、当然、事業統治の変革は避けられない。
 (肩書き、年齢は当時)

明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
東芝のトップは長い間、年明けに電力会社にあいさつに行くのが慣例だった。だから他の電機メーカーのトップは1月のCES(ラスベガス)などに出向くことが多かったが、東芝は担当役員どまり。その慣例も東日本大震災でなくなった。 セミコン社もフラッシュメモリーは堅調といえ、システムLSIなどは長い間赤字基調で、構造改革をしっかり実行してきたかといえば「?」も付く。しかも半導体部門は、田中社長と意思疎通がしっかりできていなかった。今回、社長を決めるプロセスにも問題があることが浮き彫りになった。東芝の場合、カンパニー制で独立心も強いので、カンパニーのトップが社長になると、その後の人事で歪みが出やすい。マネジメント層の人事や育成も見直していく必要がある。

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