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揺れる東芝「半導体から初の社長」悲願がこういう形で・・

セミコン社のDNAとは?室町会長兼社長の素顔は?
揺れる東芝「半導体から初の社長」悲願がこういう形で・・

21日の会見で田中社長(右)と同席した室町氏

 皮肉な形で半導体部門出身で初の社長が誕生することになった。東芝は21日、不適切会計処理問題を受けて田中久雄社長(64)が同日付で辞任し、室町正志会長(65)が22日付で社長を兼務する人事を発表した。新経営体制について室町氏は「現在のところ白紙。外部の専門家、社外取締役の意見を聞きながら議論していきたい」と話し、暫定的な社長兼務である可能性を示した。新経営陣は8月中旬に公表する。

 東芝の半導体事業は全社利益の6-7割を稼ぐ大黒柱。室町氏がどこまで会長兼社長を続けるのか現時点では不明だが、事業面では当分、半導体に依存する状態が続く。これまで、どんなに利益を出しても「ボラタリティ(収益変動)の高い事業は信用できない」という声が、特に保守本流のインフラ部門から強かった。今回の事態を契機に、幹部人事の慣例にも影響が出るのは間違いない。

 利益だけでなく社内のマネジメントの中でも“セミコン族”の存在が徐々に高まっていったのは、NAND型フラッシュメモリーの事業が成長し始めた2005年前後。ちょうど西田厚聰氏が社長になった時期と重なる。当時、日刊工業新聞で掲載された記事から半導体部門のDNA、また室町会長兼社長の人物像についてふれてみたい。

WHの買収で半導体戦略は影響を受けた!?


 <2006年2月23付>
 東芝の収益をけん引する半導体。06年3月期の全社営業利益計画2100億円のうち実に6割強を稼ぎ出す。今期は売り上げ規模でも日本一の半導体メーカーになった。経営幹部にも”セミコン族“が台頭。ヒト(人材)、モノ(製品)、カネ(投資)すべての面で影響力が増している。成長軌道に乗ったかにみえる半導体事業だが、投資の決断が迫られる「08年問題」が大きな経営課題として立ちふさがる。

 2月9日。東芝本社(東京・浜松町)38階の役員フロアで経営会議が開かれた。通常は火曜日の午前中だが、その週は米ウエスチングハウス(WH)買収の件で西田厚聰社長がロンドンにいたため、木曜日に変更された。
 最大の議案はNAND型フラッシュメモリーへの630億円の追加投資。すでにカンパニー側から計画の根回しが済んでおり、難なく了承された。今期に入って3度目になる設備投資の上方修正。05年度の半導体投資総額は2890億円と過去最高になる。

 「以前に比べ投資判断が格段に迅速になった」(国内製造装置大手幹部)。理由は、経営会議のメンバーに半導体事業の経験者が多くいることも無関係ではないだろう。経営会議には原則、専務以上が出席する。ITバブル崩壊後、瀕死(ひんし)だった事業を立て直した中川剛氏、その後を引き継いだ古口榮男氏の両副社長はセミコンダクター社の社長を務めた。

 米澤敏夫専務も元セミコン社副社長。東芝松下ディスプレイテクノロジーの社長に転じ、同社を再建、本社に凱旋(がいせん)した。次世代DVD規格でソニー陣営を対峙(たいじ)する藤井美英デジタルメディアネットワーク社社長も、一時セミコン社の副社長として久多良木健ソニー・コンピュータエンタテインメント社長と蜜月関係を築き、半導体での”東芝・ソニー連合“を盤石なものにした。

 各人とも経験者ゆえに事業を見る目は厳しいが、成長への意欲にストップをかけることはない。そして西田社長も半導体の門外漢ではあるが、「就任後、ものすごく勉強した」と話すほど。東芝の半導体事業はヒトによってモノもカネも動く好循環に入った。

 「08年問題」―。中期経営計画(05―07年度)で示した世界トップ3(05年は第4位)入りに向け、この問題は避けて通れない。今期の半導体営業利益1300億円の大半を生み出すNAND。市場規模は08年に05年比で2倍の2兆円を突破する。確かに成長のドライブ役だが、競争環境は楽観できない。

 いくら増産を前倒ししても韓国サムスン電子とのシェアは開く一方。気になるのは、3位以下の勢力が追い上げていること。同ハイニックス半導体がDRAMの生産ラインを転用し、昨年シェアを急上昇させた。さらに米インテルが同マイクロン・テクノロジーとの合弁で市場に参入、07年には生産を始める。

 推定営業利益率が約30%を超え、サムスンと利益を分かち合った時代はもう長く続かない。「シェアを維持する」(室町正志セミコン社社長)には猛烈な投資合戦が待っている。今回の増産投資で、四日市(三重県)の300ミリメートルウエハー工場の生産規模を07年3月末までに月産7万枚に引き上げる。同工場の最大能力は同10万枚。”米連合“の攻勢なども考慮すると、08年中には新工場がどうしても必要になる。

 東芝は今後もNAND事業では単独での投資は行わない方針だ。新工場のパートナーの第1候補は、四日市で提携している米サンディスク。ただ、ほかのNAND勢はほとんどがDRAMとの混流生産で、市況の変化をリスクヘッジしている。そこでにわかに注目されるのが、国内で唯一のDRAM専業メーカー、エルピーダメモリだ。最近になって同社の坂本幸雄社長は気になる発言をするようになった。「これまで提携はNOだった。でもこれからはすべて話を聞く。もちろん東芝さんでも」―。

 エルピーダの現在の時価総額は約4000億円。最新の300ミリメートル施設や人材資源をからみても割安だ。東芝が毎年2000億円以上の投資を続けるなら、買収した方が得策という意見もある。坂本社長も「企業価値が向上するならどこかの連結対象になっても構わない」という割り切った経営哲学を持つ。

 しかし東芝側の事情をみると、WH買収によって新たな資金需要が発生。当面、その選択肢はとりにくい。吉原洋メリルリンチ証券シニアディレクターは「まずはパートナーの多様化が必要。中期的には東芝とエルピーダが一緒になり世界最強のメモリー企業をつくるべき」と提言する。

明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
東芝のトップは長い間、年明けに電力会社にあいさつに行くのが慣例だった。だから他の電機メーカーのトップは1月のCES(ラスベガス)などに出向くことが多かったが、東芝は担当役員どまり。その慣例も東日本大震災でなくなった。 セミコン社もフラッシュメモリーは堅調といえ、システムLSIなどは長い間赤字基調で、構造改革をしっかり実行してきたかといえば「?」も付く。しかも半導体部門は、田中社長と意思疎通がしっかりできていなかった。今回、社長を決めるプロセスにも問題があることが浮き彫りになった。東芝の場合、カンパニー制で独立心も強いので、カンパニーのトップが社長になると、その後の人事で歪みが出やすい。マネジメント層の人事や育成も見直していく必要がある。

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