「私の弟子はAI」人材不足が深刻化する土木業界の一手

土木研究所・西川理事長に聞く

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土木研究所公式ホームページより
 高度成長期に建設された橋や道路が一斉に老朽化する一方、少子高齢化で技術者は不足し、インフラ維持管理の高度化が急務となっている。また、豪雨による土砂災害も頻発。土木研究の重要性が改めて示されている。土木研究所(土木研)は、土木事業に関する調査研究、国や自治体への技術指導に加え、災害時の技術的支援にも取り組む。西川和廣理事長に土木研のあり方や展望を聞いた。

 ―2018年度からAI(人工知能)を研究の重点課題に位置付けています。

 「以前は道路橋の劣化診断などでのAI活用に懐疑的だったが、方針転換した。AIについて勉強してみて、近年話題のディープラーニング(深層学習)ではなく「エキスパート(専門家)システム」が使えると気付いたからだ。エキスパートシステムは廃れたとも思われているが、医療現場では医師の診断を助ける情報として使われている。暗黙知を取り込んだエキスパートシステムは、結果だけではなく、その根拠を論理的に説明できるため、診断に適している」

 ―どのようなAI活用を考えていますか。

 「信頼できる技術者の知見をAIに引き継いでいく。私の弟子はAIということだ。すでに若手への継承が手遅れとなりつつある分野もある。道路橋点検の場合、損傷の種類ごとに診断に必要な調査などを一連の流れとしてAIに学ばせる。若手はAIに手伝ってもらいながら診断する」

 ―土木分野の人材不足は深刻です。

 「17年に土木研に戻ってきて、35歳以下の若手が1割に満たないことに驚いた。そこで19年度採用から、採用要件だった公務員資格を外した。中途採用も検討する。従来は、政策を考える本省(国土交通省)と土木研を行き来し、行政の感覚を身につけてきた。より柔軟なキャリアパスを考え、処遇など制度も改める。将来は土木研から本省に人材を送り込みたい」

 ―土木研のあるべき姿は。

 「理化学研究所などが科学の最先端なら、土木研は需要の最先端であるべきだ。27ある国立研究開発法人の中で土木研は浮いた存在。インフラを管理する事業官庁である国交省の研究所であり、発想がまるで違う。常時動いている現場の需要を捉える必要がある。研究成果や論文数ではなく、現場でどれだけ役立ったかが全てだ」

 「災害や事故が起きたときに、すぐ現場の支援に飛んでいく専門家を抱えていることも重要。近年の豪雨災害などを見ると、今まで誰も見たことがないことが起こっている。こうした時に、理論的な知識をもとに助言し、解決策を示していく」

西川和廣理事長

【略歴】にしかわ・かずひろ 78年(昭53)東工大院理工学研究科修士修了、同年建設省(現国土交通省)土木研究所研究員、09年国交省国土技術政策総合研究所長、13年橋梁調査会専務理事、17年より現職。東京都出身、65歳。

(聞き手=曽谷絵里子)

日刊工業新聞2018年8月24日

COMMENT

情報通信技術で建設現場の生産性を高める「アイ・コンストラクション」の推進など、土木分野の変革が進む。その一方で、これまで積み上げた膨大な知や技術の継承は進まず、西川理事長は「手遅れの分野もある」と危機感を隠さない。弟子として将来を託されたAIが、技術を支える基盤となると期待したい。 (日刊工業新聞社・曽谷絵里子)

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