自動運転の事故を減らす、潜在的リスクマップの重要性
人とシステムの協調模索
市街地など一般道での自動運転を実現するためリスクポテンシャルマップの開発が進んでいる。リスクポテンシャルマップは駐車車両が急に動き出したり、路地の物陰から人が飛び出してきたりと、潜在的な交通リスクを地図上にまとめたものだ。自動運転車はリスクの低い経路を通れば事故を減らせると期待される。
「なぜ自動運転のシステムがこの経路を選んだのか、リスクポテンシャルマップなら搭乗者に伝えやすい」と東京農工大学のポンサトーン・ラクシンチャラーンサク准教授は説明する。リスクポテンシャルマップでは危険そうな場所を赤く、安全そうな場所を青く表示する。例えば道路の外側や駐車車両の周囲は飛び出しリスクがあるため赤く、道路の中央は歩行者がいないため青く表示される。自動運転車が通る経路と重ねて表示すれば、何が危険かとシステムが認識して経路を選んだか一目でわかる。
搭乗者が気が付かないリスクを自動運転車が避けたときに、その意図を伝えられる。ヘッドアップディスプレーやAR(拡張現実)技術でフロントガラスに表示する実用化方式が検討されている。
ポンサトーン准教授はこのリスクポテンシャルマップに基づいて実際に自動運転することに成功した。システムが駐車車両を認識すると歩行者が飛び出した場合の到達範囲を推定して十分止まれる速度に調整する。同時に方向を変える加速度が最小になるよう経路を選ぶ。乗り心地とリスク抑制を両立させる。この一連の処理をリアルタイムに実現した。「乗っていて違和感は少ない」と胸を張る。
これは神奈川工科大学や東京大学、トヨタ自動車、豊田中央研究所、日本自動車研究所との成果だ。完全自動運転の実用化は少し先になるため、トヨタはシステムが選んだ経路を運転手に伝えるインターフェース技術を開発する。難しいのは走行中にたくさんの情報を示せない点だ。情報量が多すぎると運転手を混乱させかねず、周辺への注意をそぐことにもなりかねない。
そこでハンドルに力をかけて運転手にハンドルをきる方向を伝える。トヨタ先進技術開発カンパニーの井上慎太郎主任は「ハンドルを握っていると、じわっと回転力を感じる」と説明する。13人の実験では運転の滑らかさが向上した。100人規模の試験も実施済みで解析を急ぐ。
課題は多様な交通シーンへの対応だ。すべての物陰や死角のリスクを最大評価すると自動運転車は身動きできなくなる。屋台とゴミ箱では物陰としては同じでも、その裏に人がいる確率が変わる。熟練運転手は学校の近くやバスの陰を注意して走るなど、シーンを踏まえて運転する。人工知能(AI)技術の進化で認識できる対象は増えた。次はリスク評価やシーンへの対応が焦点になる。
ポンサトーン准教授は「経路のどこに何があるかシーンを説明すると情報量が多くなってしまう。ただこのシーンで速度を少し下げるだけで安全性がいかに向上するか運転手に伝えたい」という。自動運転車を走らせるだけなら技術は確立しつつある。人とシステムの協調の模索が続く。
「なぜ自動運転のシステムがこの経路を選んだのか、リスクポテンシャルマップなら搭乗者に伝えやすい」と東京農工大学のポンサトーン・ラクシンチャラーンサク准教授は説明する。リスクポテンシャルマップでは危険そうな場所を赤く、安全そうな場所を青く表示する。例えば道路の外側や駐車車両の周囲は飛び出しリスクがあるため赤く、道路の中央は歩行者がいないため青く表示される。自動運転車が通る経路と重ねて表示すれば、何が危険かとシステムが認識して経路を選んだか一目でわかる。
搭乗者が気が付かないリスクを自動運転車が避けたときに、その意図を伝えられる。ヘッドアップディスプレーやAR(拡張現実)技術でフロントガラスに表示する実用化方式が検討されている。
ポンサトーン准教授はこのリスクポテンシャルマップに基づいて実際に自動運転することに成功した。システムが駐車車両を認識すると歩行者が飛び出した場合の到達範囲を推定して十分止まれる速度に調整する。同時に方向を変える加速度が最小になるよう経路を選ぶ。乗り心地とリスク抑制を両立させる。この一連の処理をリアルタイムに実現した。「乗っていて違和感は少ない」と胸を張る。
これは神奈川工科大学や東京大学、トヨタ自動車、豊田中央研究所、日本自動車研究所との成果だ。完全自動運転の実用化は少し先になるため、トヨタはシステムが選んだ経路を運転手に伝えるインターフェース技術を開発する。難しいのは走行中にたくさんの情報を示せない点だ。情報量が多すぎると運転手を混乱させかねず、周辺への注意をそぐことにもなりかねない。
そこでハンドルに力をかけて運転手にハンドルをきる方向を伝える。トヨタ先進技術開発カンパニーの井上慎太郎主任は「ハンドルを握っていると、じわっと回転力を感じる」と説明する。13人の実験では運転の滑らかさが向上した。100人規模の試験も実施済みで解析を急ぐ。
課題は多様な交通シーンへの対応だ。すべての物陰や死角のリスクを最大評価すると自動運転車は身動きできなくなる。屋台とゴミ箱では物陰としては同じでも、その裏に人がいる確率が変わる。熟練運転手は学校の近くやバスの陰を注意して走るなど、シーンを踏まえて運転する。人工知能(AI)技術の進化で認識できる対象は増えた。次はリスク評価やシーンへの対応が焦点になる。
ポンサトーン准教授は「経路のどこに何があるかシーンを説明すると情報量が多くなってしまう。ただこのシーンで速度を少し下げるだけで安全性がいかに向上するか運転手に伝えたい」という。自動運転車を走らせるだけなら技術は確立しつつある。人とシステムの協調の模索が続く。
日刊工業新聞2018年8月14日