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米中摩擦の余波懸念、住友化学がシンガポール収益基礎固め

石化3社競争力強化へ
米中摩擦の余波懸念、住友化学がシンガポール収益基礎固め

PCSは84年に商業運転を始めた

 住友化学は石油化学部門の約4割の売上高を占めるシンガポールで現地グループ会社の収益基盤を固める。2016年、17年と石化市況高の追い風が吹いていたが、18年は原油高などで利ザヤが縮小する傾向にあるほか、米中貿易摩擦の余波も懸念される。東南アジアの石化事業を担うシンガポール3グループ会社の競争力をさらに高める。

 住友化学や英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルグループなどが出資するペトロケミカル・コーポレーション・オブ・シンガポール(PCS)は、84年にシンガポール南西部のジュロン島で商業運転を始めた石化産業の老舗だ。エチレンやプロピレンなどのオレフィンを製造する。エチレンの年産能力は110万トン。

 PCSの米村啓社長は「中型のプロジェクトでできるものをやっていき、競争力強化につなげる」と基本方針を語る。18年夏に定期修理入りしたナフサクラッカーの第1系列で古いコンプレッサーなどを更新して、省エネルギー化を図る。従来比10%弱のエネルギー効率向上を目指す。

 今後の競争力強化策として、留分のさらなる活用、収率改善による増産、エネルギー効率の向上を主な柱に据える。「C4(ブタン・ブチレン留分)まわりの原料が手に入れば、さらに加工する能力がある。シンガポールや東南アジアで原料を絶えずスポットベースで探して、加工して利益を得る」(米村社長)と商機を探る。また、収率改善による増産についても「操業条件を変えたり、設備を一部改造したりして、小規模な収率改善を検討する」(同)と地道な取り組みを進める考えだ。

 17年に増設したナフサタンクも活用する。シンガポールは近年エチレンなどの原料となるナフサ(粗製ガソリン)の輸入国になり、中東品の輸入が増えたPCSも物流インフラの充実が必要だった。米村社長は「タンク能力を増やして大型船も入るようにして、より競争力のある原料を安定して調達できる力をつけた」と基盤強化に余念がない。

 PCSからオレフィンの供給を受けてポリプロピレンなどを製造するザ・ポリオレフィン・カンパニー(TPC)は、東南アジア中心に“プレミアム・ブランド”と認知されて良好な利ザヤを享受する。TPCの田丸育広社長は「ちょっと高いお金を払ってでもTPCの品物を買いたい顧客がまだまだ多くいる。顧客から『夜に枕を高くして寝たいから、おまえのところから買うんだ』とよく言われる」と強みを明かす。

 30年以上の事業実績を背景にした製品の品質安定性や納期、技術サービスなどで培った顧客との信頼関係は強固だ。「品質の指標に関して他社と比べて管理レベルがかなり高く、指標のブレを許さない。他社は同じ製品でもロットごとに品質が違うことが多いが、うちはどのロットを買ってもらっても同じだ」(田丸社長)とし、顧客側の調節する手間ひまで雲泥の差が出る。

 TPCは今後の競争激化を見据え、高付加価値品戦略を加速させる。田丸社長は「市場の伸びと同時に現在のハイエンドの上に、さらなるハイエンドが出てくる。顧客の要望に応じた高付加価値品をつくっていかないといけない」と競合他社の引き離しにかかる。その結果として21年度までに販売製品の高付加価値品比率を現状の7割から8割に引き上げる計画だ。

 自動車や家電製品、食品包装材など多くの用途で需要が堅調で、TPCはここ数年フル稼働が続く。年産能力はポリプロピレンが51万トンで、低密度ポリエチレンが10万トンだ。今後もポリオレフィン需要は伸びるものの、TPCの増産余地はほぼない。原料供給元のPCSも能力いっぱいで供給余力に乏しいからだ。住友化学が他の合弁相手とともに早急に検討しなければならない大きな課題だ。

 シンガポールと並ぶ石化事業の稼ぎ頭であるサウジアラビア石化合弁会社のペトロ・ラービグは第2期計画の本格稼働に向けて準備を進めている。生産される住化分の製品を引き取って販売する役割は地域統括会社の住友化学アジアが担う。同社の酒井基行社長は「販売が本格化するラービグの2期分を売り切るのがまず第一だ。(1期目のオレフィン約100万トンに加えて)新たに約130万トンの製品を売らないといけないので、実務的に大変になる」と今後の事業方針を明かす。

 ただ、人件費が年々上昇しているシンガポールで人員を大量に増やすのは難しい。そこで複数の部署へRPA(ソフトウエアロボットによる業務自動化)導入を進める。「人員は仕事のピークに合わせるもので、普段は余剰感が出る。ピークをRPAなどでしのげないかを考えている」(酒井社長)とITでの業務効率化を狙う。

 また、住友化学アジアは19年にアクリル樹脂原料のメタクリル酸メチル(MMA)工場で停止中の1系列を再稼働させる。人員確保や運転計画の見直しなど、プラント立ち上げに必要な準備は多い。

住友化学アジアのMMA工場
日刊工業新聞2018年8月15日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
住友化学グループ3社は東南アジアの高い成長を目の前にし、それぞれ仕事が山積している。 (日刊工業新聞社・鈴木岳志)

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