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現代のコミュニケーションを変えたLINEの魅力に迫る

LINE執行役員・江口清貴氏に聞く
 SNSアプリ「LINE」の登場は会話のあり方を変えたとも言われる。LINEの江口清貴執行役員にその認識を聞いた。

 ―LINEで使われる言葉やコミュニケーションにはどのような特徴がありますか。
 「了解を『り』、同意を『それな』など、独特の短い文でコミュニケーションが行われる。IT業界などで頻繁に利用される『コミットする』という言葉があるが、一般人が分からないような言葉でも仲間とのLINEでは伝わる。一方、ビジネスメールで使われる『お疲れさまです』などの前文や要件以外の丁寧なあいさつなどは省略されることが多い。関係性の強い集団で交流しているため、その中だけでしか通じない言葉の共通項やざっくばらんな会話を生み出す。そのため、文として未完成だったり、多少の誤字脱字があったりしても、関係の深さがコミュニケーションを補填してくれる」

内容より頻度


 ―関係性が重要ということですね。
 「関係性は物理的な対面で育んでいくわけでもない。関係を構築する上では、コミュニケーションの内容よりも頻度が大切だ。ある一定の閾値を超えるまでコミュニケーションを重ねる必要がある。例えば、部署異動やクラス替えなど新しい環境に身を置くことになった場合、従来の感覚では友情や信頼関係を構築するためには、早くて1カ月程度は要すると考える。学校や職場に行って、そこでコミュニケーションを取って、育んでいく。だが、LINE上で24時間365日つながっていれば、1カ月分のコミュニケーションを取ることが可能で、閾値を超えることは容易だ。ネットで知り合った友達の方が信用できるなどの意見があるのはこのためだ。SNSを用いることで、多くの人と関係を構築できる可能性が高まった」

 ―LINEが選ばれる理由はなんだと思っていますか。
 「現代はより気軽に多くの情報を伝えられる一方で、価値観の多様化や交流のグローバル化が進んでいる。そのため、時間や労力などのコミュニケーションコストは高くなりがちだ。一方で、人がコミュニケーションできる許容量は限られているので、一つひとつにかかるコミュニケーションコストは低くせざるを得ない。そうした状況で、LINEはぶつ切りの言葉や共通的な言葉などを生むことでコストの抑制に貢献している」

生き抜くためのツール


 ―災害時などスピードが求められる状況でもLINEは活躍しています。
 「SNSは、災害時など早く正確に伝える必要がある際にこそ、真価を発揮する。災害などの緊急時だけ用いられるツールもあるが、人間にとって普段使い慣れていないツールを使うことは、コストが高くなってしまう。不要な言葉を省き、低コストで会話できるからこそ、生き抜くためのコミュニケーションの分野でもLINEは有効になる」

【略歴】えぐち・きよたか 05年ゲームポットの最高財務責任者(CFO)として、株式公開や経営管理に従事。ゲーム業界団体によるガイドライン制定を担当し、不正行為対応や適正な競争環境を整備する。12年NHN Japan(現LINE)に入社。13年企業の社会的責任(CSR)活動などを推進する政策企画室(現公共政策室)室長。18年同社執行役員に就任。情報法制研究所の専務理事なども務め、個人情報保護法などを含む情報法制政策の研究や提言を行う。
日刊工業新聞2018年8月17日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
ビジネスシーンでもLINEの活用は増えている。目まぐるしい現代では、ホウレンソウなどを丁寧にやることは、無駄な時間と労力を生むこともある。LINEの強みを生かした円滑なコミュニケーションは今後も増えそうだ。一方で、LINEはCSR活動の中で、関係性や道徳を考えさせるリテラシー教育を進めている。例えば、『真面目』、『おとなしい』、『一生懸命』、『個性的』、『マイペース』という言葉を、言われたくない順番に並べるというものだ。一見、この言葉自体に問題は無さそうだが、相手との関係性やタイミングによっては、悪口になるという回答があったという。それだけLINEの気軽さの裏には難しさも潜んでいる。だからこそ、「当たり前だが、常に相手との関係を意識することを忘れてはいけない」(江口氏)としている。

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