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ボーイングジャパン社長、MRJ・777…。日本との成長戦略をすべて話そう

ブレット ゲリー氏、ロングインタビュー
 日本の航空機産業は米ボーイングとともに発展を遂げてきた歴史がある。三菱航空機がYS―11以来、半世紀ぶりとなる国産旅客機MRJを開発し飛行展示を成功させた裏には、日本の航空機産業がボーイングの旅客機製造に携わり、主翼や胴体などの生産を通じて技術に磨きを掛けてきた事実があるはずだ。ボーイングはそんな日本との協業の「未来」をどう展望しているのか。日本法人のブレット ゲリー社長に聞いた。

65年にわたる歩み


 ―777型機、787型機をはじめとするこれまでの国際共同開発を踏まえ、日本の重要性をどう考えていますか。
 「ボーイングは世界で最も重要な航空宇宙市場のひとつである日本と65年以上にわたるパートナーシップの中でともに発展してきました。日本におけるボーイングのサプライヤー数は150社に上り、毎年50億ドル相当の部品やサービスを日本から調達しています。同時に何万人もの技術職を日米で創出しています。ボーイングの民間航空機はまさに『日本とともに』作られているのです」

 ―実際に日本企業はどのぐらいの生産を担っているのですか。
 「日本企業の生産分担比率は、767型機で16%、777型機は21%、そしてドリームライナーの愛称で知られる最新機種787型機は35%に上ります」 
 「ボーイングは『ここ、日本からともに将来を作っている』と表現します。787型機は世界的な需要増加を背景に現在の月産12機を来年には同14機に増やす計画です。787型機のみならず、次なる777X型機においても日本のサプライヤーは中核を担っています。同機は世界最大の双発機で、炭素繊維からなる主翼も世界最大です。日本のサプライヤーはその機体構造の21%を担い、東レは主翼の炭素繊維複合材を提供します」

 ―量産が始まる「777X」の最新状況を教えて下さい。
 「現在、777X型機への発注およびコミットメント数は340です。すでに岐阜、広島、そして名古屋から777X型機の胴体パネルなど主要部分がシアトルへ出荷されています。初号機の引き渡しは2020年を予定しています」

 ―生産のピークはいつ頃迎えそうですか。
 「予測は困難ですが、確信しているのは777X型機への強い需要です。ローンチ後の受注総額では、民間航空機製造史上、過去最高をおさめました。ボーイングによる今後20年間(2018年から2037年)の市場予測では、777X型機や787型機のようなワイドボディ機への将来需要は、8070機(金額ベースでは2兆5000億ドル)になると見込んでいます。したがって航空機製造における日本とボーイングのパートナーシップの未来は明るいと言えるでしょう」

 ―次世代中型旅客機構想「NMA」については。
 「ボーイングは、いわゆる新たな民間旅客機のローンチを検討しています。2025年の就航開始を目標に、座席数は220席から270席、航続距離は9260キロあたりを考えています」

 ―小型機737型機と中型機787型機の中間といったところですか。
 「そうですね。市場規模としては4000機から5000機程度の需要を見込んでいます」

 ―開発にあたり日本企業に期待することは。
 「この開発計画が決定した暁には、世界中のサプライヤー間で熾烈な競争が予想されます。すでに卓越した専門能力と技術力を誇る日本企業は有意な立場になると予想します」
777Xと787ドリームライナー

MRJのサポート


―小型旅客機事業をめぐっては、ブラジルのエンブラエルと戦略的提携に向けた覚書を結びました。
 「最終的に確定すれば、ボーイングとエンブラエルの戦略的パートナーシップは世界の航空市場において、両社をより強くします。そしてこの提携は、日本や世界のサプライヤーにとって、新たな機会の創造につながると考えます」

 ―ただ、「MRJ」を手がける三菱航空機はエンブラエルと競合関係あり、他方、ボーイングはMRJを導入する航空会社のアフターケアの一部を支援する契約を三菱航空機と結んでいます。日本にとっては今後の関係が気になるのですが。
 「三菱重工業はボーイングの最も重要かつ信頼のおけるパートナーのひとつです。787型機や777X型機におけるパートナーシップをはじめ、その他の分野や将来における協業も含め、今後とも協力していくことを楽しみにしています。エンブラエルとの提携は、すでにあるボーイングのMRJプログラムの契約には影響しません。今後とも同プログラムへの契約はサポートしていきます」

データ活用進める


 ―話題は変わって、IoT(モノのインターネット)や3Dプリンターの活用など次世代製造技術開発の方向性についてはどう考えますか。
 「ボーイングは将来の製造技術に積極投資しています。それは将来の成功に欠かせないからです。3Dプリンターを使った製造や自動化のほか、軽量かつ最新の製造素材もいち早く取り入れています」

 「製造におけるデータ分析にも焦点を当てています。膨大なデータを収集・分析することによって、効率化やfirst―time quality(設計の段階から製造工程まできちんと作り込んで、初回でやり直す必要がないほど高品質なものを製造すること)をさらに改善することが期待できます」

 ―具体的にどんな取り組みを進めていますか。
 「例えば航空機パーツの組立作業のデジタル化です。航空機の電子線を取り付ける作業は非常に複雑ですが、iPad上の拡張現実デバイスやスマートグラスを使った3D画像が何をどこに、どのように取り付ければよいかを表示します。これによってエラーは9割減少、取り付け作業時間も3割の短縮が実現できました」

 ―こうした取り組みをさらに加速すると。
 「これらはほんの一部ですが、我々はデータ活用をさらに進めていきます。これら技術はボーイングの工場のみならず、我々のパートナーであるサプライヤーにも広がり、すべての製造工程においてデジタル化が確立されることを目指しています。高度なデジタル化による製造の重要性を共有するパートナーを探していくことになります。この分野における日本の製造業は有利であるとみています。なぜなら企業は第四次産業革命への研究開発に積極投資し、経済産業省から強力な支援もあるからです」
 
 ―部品や部材事業の強化を打ち出しましたがその狙いは。サプライヤーからは仕事を奪われると警戒する声もあります。
 「ボーイングはこれまでも大きなサービス事業を行ってきました。これまで以上に民間航空機および政府のお客さまに対し、最も効率的なサービスを提供するため、2017年にサービスに特化した新たな部門を設立しました。修理や航空機の信頼を高めるさまざまなソリューションを提供するため、データ分析をさらに活用したサービスを提供していきます」

 ―この分野においても日本と新たな協業の可能性はありますか。
 「はい。世界のサービス市場は巨大で、今後10年間で2兆8000億ドルの市場規模に拡大することが予想されますが、中でもアジアは特に高い成長が見込まれます。もし適切なパートナーシップを築けたら、ともに大きな成長を享受できると期待しています」
 
 ―「787」の開発では、日本企業が防衛省向け戦闘機開発・製造で培ってきた炭素繊維技術などが貢献したと言われています。あらためて日本の防衛産業の強みをどう評価していますか。
 「航空宇宙および防衛分野は、人と技術への投資を最大限に活用し、イノベーションが必要とされる分野です。具体例として、戦闘機の製造に使われた炭素繊維の経験を787ドリームライナーの製造に適用したことが挙げられます」

  「日本には先進的かつ経験豊かな航空宇宙産業があります。ボーイングと同様に日本の航空宇宙産業も民間と防衛を兼ね備え、それが日本の航空宇宙企業の競争力を高めています。我々は、F―15Jイーグル戦闘機、CH―47Jチヌーク輸送ヘリコプター、そして国際宇宙ステーションなど幅広い分野において、日本の防衛宇宙産業と深いパートナーシップを築き上げてきました。これからも協業の機会があると信じています」
787型機の機体後部のドリル作業
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
大手の機体サプライヤーだけでなく中堅企業、あるいはサービスやIT企業でも日本との連携が増えてくることを期待したいですね。

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