東京五輪でも活躍!? 福島復興のシンボル「パワー・ツー・ガス」が動き出した

再生可能エネルギーの余剰電力から水素を製造・貯蔵する

 再生可能エネルギーの余剰電力から水素を製造・貯蔵する「パワー・ツー・ガス」で世界最大級の設備が福島で動きだす。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)などは9日、福島県浪江町で1万キロワット級のパワー・ツー・ガス施設を本格着工すると発表した。製造した水素は2020年の東京五輪・パラリンピックを開催する東京都で燃料電池車(FCV)バスに供給するなど、注目を集めそうだ。国と県は福島復興のシンボルとして整備を進める。課題は水素を使う需要の拡大だ。

 浪江町の吉田数博町長は同日、「浪江町の復興のシンボルとなる。これを契機に水素、再生エネを積極的に活用したクリーンエネルギーのまちづくりに一層取り組む」と談話を発表した。内堀雅雄福島県知事も同日、「復興が進む福島の姿を内外に示す重要拠点だ」と歓迎した。

 東日本大震災からの復興として、政府は再生エネの導入拡大を福島県で意欲的に進めている。今回、浪江町で本格着工した水素製造施設は、その一環。水素社会実現に向けた先導モデルとして期待されている。

 全国的に太陽光や風力など再生エネの導入が拡大すれば、電力系統の需給バランスが崩れる恐れがある。蓄電に加え水素システムと組み合わせることで、再生エネの余剰電力を利用すれば、水素製造で需給を保てるだけでなく、水素として貯蔵もできる。浪江町の施設では、技術実証の中で、こうした需給バランスの調整が最も重要なテーマだ。

 日本でのパワー・ツー・ガス設備では、NEDO事業として、千代田化工建設の水素実証サイトや北海道苫前町の風力発電からの水素製造のほか、仙台市の浄水場で太陽光発電での実証がある。さらに、山梨県企業局と東レ、東京電力ホールディングスなどが甲府市で中規模実証設備実現に向けて動いており、太陽光発電からの電気による水素発生装置の実用化を目指している。

 今回、浪江町で建設する施設は、東芝エネルギーシステムズ(川崎市幸区)、東北電力、岩谷産業が実施事業者となる。浪江町が東北電から譲り受けた用地などを利用して建設、太陽光発電からの電気を全量水素に転換する。

 中枢技術となる世界最大級の水素発生装置は、旭化成が開発したアルカリ水電解装置を導入。水素製造量は定格で毎時1200ノルマル立方メートル。1日の水素製造量で一般家庭約150世帯に電力を供給できる。FCVの燃料なら約560台分だ。20年7月の運用開始と水素輸送を目指す。

電解装置の大型化―効率的に高純度水素


 水素電解装置は固体高分子膜を用いた「PEM型」や固体酸化物型電解セル(SOEC)があるが、大型はアルカリ水電解がコスト面で最も優れているとして今回採用した。

 アルカリ型は陰極と陽極の間にセパレーター(隔膜)を挟み込んだ水素と酸素が混じらない構造の中を、抵抗が低い状態でイオンが動く。旭化成はカセイソーダ製造で食塩電解にこの技術を75年から実用化している。今回は食塩電解技術を応用、水素を高純度で作り出す装置となる。

 旭化成は、IHIが相馬市で実証する次世代社会インフラ(スマートコミュニティー)事業にも納入している。同市では、アルカリ型とPEM型(日立造船製)が設置されており、「アルカリ型は追従性や応答性が遅くベースロード型。PEM型は追従性、応答性に優れる。それぞれの特徴に合わせ利用する」(IHI)。

 今回、浪江町に設置する設備では、相馬市の装置よりセルの枚数を大幅に増やした。相馬市ではスタック(セルを重ねて一つのパッケージにしたもの)が4機だが、今回は170スタック。太陽光からの電力で1時間当たり最大2000ノルマル立方メートルの水素を製造できる。

 需給調整用としての実証を想定しており、太陽光の電力をパワー・ツー・ガスで水素として貯蔵するほか、天候が曇り発電量が少なくなれば、水電解能力を下げ、需給を一致させる。1日当たりの最も効率的な水素製造を実証する。太陽光の発電予測に基づいて水素を製造するが、太陽光発電の電力余剰を少なくする制御法の確立は重要なテーマだ。

 製造した水素は、20年の五輪に合わせて首都圏へ輸送し、FCVやFCVバスなどに供給するほか、福島県内へも供給する。

 パワー・ツー・ガスは、再生エネ電力から水素を取り出すプロセスだけではない。水素を利用しメタン化やメタノール化なども念頭に置く。

 福島県で始まった大規模水素製造プロジェクトは今後、県浜通り地区が風力発電を核にした日本の再生エネの拠点の一つとなるだけに、実証装置の継続的な利用を見込む。
 

施設で製造した水素は、東京都の燃料電池バスにも供給される

日刊工業新聞2018年8月10日

日刊工業新聞 記者

日刊工業新聞 記者
08月13日
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ただ、需要サイドでは燃料電池への利用はもとより、メタン化、ボイラでの利用、ガスタービン燃焼など、水素需要をどう拡充していくかが大きな課題だ。水素燃焼発電装置では1000キロワット級で年600トンの水素需要を見込む。ガスタービンへの混焼など、実用化を目指した技術開発が求められる。
(日刊工業新聞社・駒橋徐)

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