健保組合に“通信簿”…試されるコラボヘルスの実効性

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 健康保険組合へ“通信簿”を送ります―。厚生労働省と経済産業省、日本健康会議は、各健保組合の加入者の健康状態や医療費などについて、全国平均や業界平均と比較した「健康スコアリングレポート」を8月末ごろに通知する。企業と保険者が問題意識を共有しつつ疾病予防や健康づくりに取り組むコラボヘルスの推進につなげる狙いがある。コンサルティングファームや生命保険会社なども、コラボヘルスを支援するサービスの拡販に力を注ぐ。個々の健保加入者の行動変容にまでつなげられるか、注目される。

 「自社の立ち位置を再確認するのに有用ではないか」。野村総合研究所の西尾紀一主任コンサルタントは、健康スコアリングレポートをこう評価する。

 厚労省と経産省、日本健康会議はレセプト(診療報酬明細書)や特定健診などのデータを基に保険者単位のレポートを作成。8月末ごろに約1400の健保組合および20の国家公務員共済組合に対して通知する。通知後は保険者が企業の経営者にレポートを説明し、従業員の健康状態について認識してもらうことを想定する。その上で企業と保険者が問題意識を共有し、コラボヘルスの活性化につなげる考えだ。

 保険者はこれまで健診・医療情報を活用して保健事業の効率化を図る「データヘルス計画」を実行してきた。ただ政府は、より効果的に疾病予防や健康づくりを実施する観点でコラボヘルスが重要になると認識。2017年6月に閣議決定した「未来投資戦略2017」において、保険者のデータヘルス強化とコラボヘルス推進のため、スコアリングを行って経営者に通知する施策を18年度に始める方針を示した。

 

 有限責任監査法人トーマツの折本敦子グレイスマネジャーは「健保組合が保健事業を推進しようとしても、強制力がきかないのが従来の課題だった。コラボヘルスは企業側がもう少しガバナンス(統治)を効かせて健康に取り組んでいこうということだ」と解説。一方で「企業は体制作りはできるが、エビデンス(根拠)となると健保組合のレセプトや、健診のデータが必要になる。このため互いのニーズがマッチしている」と分析する。

 ただ、コラボヘルス関連の施策を企業の現場に根付かせるには課題も残る。野村総研の西尾氏は健康スコアリングレポートについて「現場へ(情報や対策を)展開する時は、保険者という区分では大きすぎる」と指摘。「例えば、トップダウンで禁煙をしろと言うだけでは動かない。この部署の喫煙率は今これくらいで、社内で比較すると高いからまずい、などという“見える化”と“自分事化”をまずやるのが大事だ」と提言する。

 野村総研はこの観点で、地域や職種、子会社といった切り口ごとに健康度合いを明示するサービスを展開。「平均値の種類を多く用意し、自分事化のための軸を提供する」(西尾氏)。

 当事者意識をどれだけ喚起できるかが、コンサル企業の腕の見せどころだ。

健康経営と相乗効果


 政府は、企業と保険者が問題意識を共有しつつ疾病予防や健康づくりに取り組むコラボヘルスを推進している。ただ、有識者からは、個々の健保加入者に当事者意識を持ってもらう工夫も必要だとの提言がされている。

 デロイトトーマツコンサルティング(DTC、東京都千代田区)の田中公康シニアマネジャーは、このような“自分事化”への実行支援は必要だとの見解を示した上で、「(コラボヘルスは)働き方との相関性が結構ある」と分析する。

 昨今は多くの企業が働き方改革を推進し、業務の創造性や生産性の向上につなげようとしている。「健康であれば、そういうところにも余裕を持って取り組める」(田中氏)。DTCは企業の健康経営を後押しするアプリケーション(応用ソフト)「WellMe(ウェルミー)」を提供しており、顧客に対してIT活用のあり方も含めた助言や指導をしていく考えだ。

 中小企業に関しては、コラボヘルスより先に健康経営を浸透させる必要性が高いとの意見もある。大同生命保険で健康経営推進プロジェクト・マネージャーを務める松田俊介氏は「弊社の顧客は、従業員20人以下が大半。そうした企業が全国健康保険協会(協会けんぽ)とコラボする例は、現時点ではあまりない」と話す。

 協会けんぽには、主に中小企業の従業員とその家族が加入している。大同生命の松田氏は「協会けんぽもコラボヘルスを意識している」と分析しつつも、「日頃、協会けんぽと接点を持つ企業は少ない」との構造問題を指摘。自社の営業活動の状況としては、「健康経営とはどういったものなのかを説明し、普及がまだ始まったばかり」だという。

 大同生命が中小企業向けに展開している「KENCO SUPPORT PROGRAM(ケンコウ・サポート・プログラム)」は、生活習慣病の発症リスクを分析する仕組みや、食事・運動・睡眠を管理する機能などを備える。「こういったものは日々進化させていかないと、(末端の利用者にとって)飽きが来る。先進技術を積極的に取り入れ、機能を強化していきたい」(松田氏)。

 協会けんぽも2018―20年度を対象とした「保険者機能強化アクションプラン(第4期)」において、「協会けんぽ版健康スコアリングレポート(仮称)」の導入をうたっている。大同生命の松田氏は「協会けんぽの情報発信で企業が自社のリスクに気付き、(対策を)実践する際に我々がツールを提供できれば相乗効果が働く」と期待をかける。

大同生命は個々の従業員が健康リスクを知るためのツールを提供している(イメージ)

(文=斎藤弘和)

日刊工業新聞2018年8月2、7日

COMMENT

健康経営にせよコラボヘルスにせよ、意識啓発には時間がかかる。導入後の成果確認となると、なおさらだ。関係者には、無理のない形で地道に活動を続けていける枠組みの構築が求められる。 (日刊工業新聞社・斎藤弘和)

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