データヘルス時代の幕開けなるか。保健医療にAI活用
厚労省が推進へ初会合。20年度から情報インフラを本格稼働へ
厚生労働省は、保健医療分野への人工知能(AI)活用に向けた検討に乗り出す。12日に「保健医療分野におけるAI活用推進懇談会」の初会合を開き、AI活用領域の特定、開発基盤の整備、安全性確保などについて検討していくことを確認した。春に報告書をまとめる。
懇談会では、ディープラーニング(深層学習)と従来の機械学習などとでは、実用化が見込まれる時期やサービス内容などが異なると判断。状況に応じた方策を検討する必要があるとした。
発症前疾患の探知や、個々の状態に応じた治療などでのAI活用を想定する。
また、同日に「データヘルス改革推進本部」の初会合を開いた。大規模な健康・医療・介護分野を連結した情報通信技術(ICT)インフラを2020年度から本格稼働させるよう、課題を議論していく。
深層学習に代表される人工知能(AI)を活用して、がんの診断や治療法の選択、さらには創薬にまで役立てることを目的に、国立がん研究センター、日本を代表するAIベンチャーのプリファード・ネットワークス(PFN、東京都千代田区)、2015年5月に設立された産業技術総合研究所人工知能研究センターの3者が、統合的ながん医療システムの開発に共同で乗り出すことになりました。
めどとする実用化時期は今後5年以内。この分野で日本は出遅れ感が否めませんが、「今回のプロジェクトには日本のベスト・オブ・ベストのメンバーが結集した」(国立がん研の間野博行研究所長)というだけに、大きな期待がかかります。
同プロジェクトでは、国立がん研に蓄積されている、がん患者の膨大な臨床情報やゲノム(全遺伝情報)・エピゲノム(DNAなどへの化学修飾による遺伝情報)、CT・MRIの画像データなどをAIで統合的に解析し、日本人のがん患者個人に最適化された医療(プレシジョンメディシン)の実現を目指します。
ゲノムなどの生体分子情報をもとにしたがんの早期診断をはじめ、画像診断、抗がん剤の効き目や副作用の予測、放射線の最適な照射方法などにつなげていくとのことです。
医療の分野では、世界的にAIの活用が急速に進められています。その代表格といえるのが米IBMの「ワトソン」。世界トップレベルのがん専門研究・医療機関である米メモリアル・スローン・ケタリングがんセンターなどとの共同研究に使われているほか、日本でも東京大学医科学研究所が導入しています。
つい先日、12月1日にはIBMと世界大手の製薬会社である米ファイザーが、免疫を使ったがんの創薬研究にワトソンを活用すると発表しました。
では、日本の強みは何でしょうか。11月29日に開かれた記者会見で間野研究所長は、「深層学習は膨大な量のデータを読み込まなくてはならない。
国立がん研には質の高い臨床データ、画像データがあり、それらを使えるのがメリット」とし、プロジェクトの研究代表を務める国立がん研の浜本隆二がん分子修飾制御学分野長も「ワトソンはAIではなく(自然言語処理の)コグニティブ(認知)システムであり、大量の文献データを解析している。
それに対し、我々は深層学習によるマルチモーダル(異なる種類のデータを扱う手法)解析を目指している。勝ち負けより、両者は共存でき、不得意な分野をワトソンと補いながら、患者さんにより良い医療を提供できる」と強調しました。
一方で、3月に世界最強クラスのプロ棋士にAIソフトで圧勝し、世界をあっと言わせた英グーグル・ティープマインドも医療分野でのAI応用を進めています。
英国民健康サービス(NHS)が運営する病院と連携して、糖尿病性網膜症や加齢黄斑変性症(AMD)といった目の難病の早期発見や、がん治療で放射線の照射範囲の確定などへの活用を目指しています。
PFNでAI研究を引っ張る岡野原大輔副社長は「ディープマインドは尊敬する会社」とした上で「先方はクラウドベースだが、我々の技術はエッジ(末端)に近い部分で深層学習の処理ができる点に特色がある。結果としてセキュリティー面でも有利」と話します。
イノベーションはとりわけ、融合領域で起こりやすいと言われます。このほか、PFNはマイクロアレイを使ったがんの早期診断研究プロジェクトに関わり、成果をあげつつあります。
産総研人工知能研究センターの目指すブラックボックスではない、判断に至ったプロセスを説明できるAI、それに産総研のバイオインフォマティクス(生命情報科学)の知見もフル動員しながら、専門家の知見や技量に頼る部分が大きいといわれる医療技術が、近い将来、大きく変貌を遂げていくかもしれません。
(文=藤元正)
<次のページ、電子カルテ連携した診療画像ソリューション>
懇談会では、ディープラーニング(深層学習)と従来の機械学習などとでは、実用化が見込まれる時期やサービス内容などが異なると判断。状況に応じた方策を検討する必要があるとした。
発症前疾患の探知や、個々の状態に応じた治療などでのAI活用を想定する。
また、同日に「データヘルス改革推進本部」の初会合を開いた。大規模な健康・医療・介護分野を連結した情報通信技術(ICT)インフラを2020年度から本格稼働させるよう、課題を議論していく。
日刊工業新聞2017年1月13日
期待されるがん医療へのAI応用
深層学習に代表される人工知能(AI)を活用して、がんの診断や治療法の選択、さらには創薬にまで役立てることを目的に、国立がん研究センター、日本を代表するAIベンチャーのプリファード・ネットワークス(PFN、東京都千代田区)、2015年5月に設立された産業技術総合研究所人工知能研究センターの3者が、統合的ながん医療システムの開発に共同で乗り出すことになりました。
めどとする実用化時期は今後5年以内。この分野で日本は出遅れ感が否めませんが、「今回のプロジェクトには日本のベスト・オブ・ベストのメンバーが結集した」(国立がん研の間野博行研究所長)というだけに、大きな期待がかかります。
同プロジェクトでは、国立がん研に蓄積されている、がん患者の膨大な臨床情報やゲノム(全遺伝情報)・エピゲノム(DNAなどへの化学修飾による遺伝情報)、CT・MRIの画像データなどをAIで統合的に解析し、日本人のがん患者個人に最適化された医療(プレシジョンメディシン)の実現を目指します。
ゲノムなどの生体分子情報をもとにしたがんの早期診断をはじめ、画像診断、抗がん剤の効き目や副作用の予測、放射線の最適な照射方法などにつなげていくとのことです。
医療の分野では、世界的にAIの活用が急速に進められています。その代表格といえるのが米IBMの「ワトソン」。世界トップレベルのがん専門研究・医療機関である米メモリアル・スローン・ケタリングがんセンターなどとの共同研究に使われているほか、日本でも東京大学医科学研究所が導入しています。
つい先日、12月1日にはIBMと世界大手の製薬会社である米ファイザーが、免疫を使ったがんの創薬研究にワトソンを活用すると発表しました。
日本の強みは何か
では、日本の強みは何でしょうか。11月29日に開かれた記者会見で間野研究所長は、「深層学習は膨大な量のデータを読み込まなくてはならない。
国立がん研には質の高い臨床データ、画像データがあり、それらを使えるのがメリット」とし、プロジェクトの研究代表を務める国立がん研の浜本隆二がん分子修飾制御学分野長も「ワトソンはAIではなく(自然言語処理の)コグニティブ(認知)システムであり、大量の文献データを解析している。
それに対し、我々は深層学習によるマルチモーダル(異なる種類のデータを扱う手法)解析を目指している。勝ち負けより、両者は共存でき、不得意な分野をワトソンと補いながら、患者さんにより良い医療を提供できる」と強調しました。
一方で、3月に世界最強クラスのプロ棋士にAIソフトで圧勝し、世界をあっと言わせた英グーグル・ティープマインドも医療分野でのAI応用を進めています。
英国民健康サービス(NHS)が運営する病院と連携して、糖尿病性網膜症や加齢黄斑変性症(AMD)といった目の難病の早期発見や、がん治療で放射線の照射範囲の確定などへの活用を目指しています。
PFNでAI研究を引っ張る岡野原大輔副社長は「ディープマインドは尊敬する会社」とした上で「先方はクラウドベースだが、我々の技術はエッジ(末端)に近い部分で深層学習の処理ができる点に特色がある。結果としてセキュリティー面でも有利」と話します。
イノベーションはとりわけ、融合領域で起こりやすいと言われます。このほか、PFNはマイクロアレイを使ったがんの早期診断研究プロジェクトに関わり、成果をあげつつあります。
産総研人工知能研究センターの目指すブラックボックスではない、判断に至ったプロセスを説明できるAI、それに産総研のバイオインフォマティクス(生命情報科学)の知見もフル動員しながら、専門家の知見や技量に頼る部分が大きいといわれる医療技術が、近い将来、大きく変貌を遂げていくかもしれません。
(文=藤元正)
日刊工業新聞2016年12月5日
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