保育所の希望者割り振りや戸籍業務にも…自治体のAI活用進む
企業で人工知能(AI)の導入が進む中、自治体の現場でも活用が広がってきた。これまでマンパワーに頼りがちだった行政サービスをAIでの作業に置き換えたことで、効率が大幅に上がった自治体もある。自治体は効率化で浮いた人材をほかの行政サービスに回すことができるなど、メリットが多い。
川崎市は2016年9月と18年3月に1カ月ずつ計2回、市民からの問い合わせにAIが対応するサービスの実証実験を三菱総合研究所と共同で実施した。行政サービスの手続きや制度について、スマートフォンなどを使ってチャット形式で相談できる特設ホームページを同社が用意。あらかじめキーワードと関連する回答を設定し、問い合わせ内容に応じて必要な情報を自動で提供する。サービスが利用されるにつれ、問い合わせ内容をAIが学習するため、回答の精度も上がる。
初回は、子育て分野に特化したサービスを提供。実験後のアンケートでは「知りたい情報を得られた」という回答が全体の約7割を占めた。2回目は子育て以外も含めた全分野に広げた。
現在は2回目の実験結果をまとめている状況。市のICT推進課は「費用対効果など実現性を見極めて(本格導入について)判断したい」と話す。
北海道室蘭市は室蘭工業大学と共同で、市道の損傷状況の解析にAIを活用する。路面を動画で撮影し、AIで路面のひび割れ率を定量的に算出。損傷が激しい市道から優先的に改修する。
両者は4月、動画を使った道路の損傷状況の解析で共同研究を開始。6月15日、車にカメラを搭載して試験走行し、本格的な撮影に向け準備を進めてきた。8月中に総延長440キロメートルの市道の撮影を始め、月内に終える。AIが判定した路面のひび割れ率の精度を検証し、結果が良ければデータを活用する。
市は路面の損傷状況を目視で確認しているが、優先的に改修する道路を判断するには「AIで定量的に評価することが大切」(竹島裕人室蘭市都市建設部土木課主幹)と指摘する。
車載カメラで道路状況を把握できれば、専門車両を使った測定に比べて安価に実施できる。竹島主幹は「継続的な実施が可能になり劣化の進行速度を把握できる」と期待する。
大阪市は18年3月に東淀川と浪速の両区役所の戸籍業務でAIを活用するモデル事業「職員の知恵袋」を始めた。
戸籍業務は「出生」「婚姻」「転籍」など36項目の届け出書の内容を精査し、受理する仕事。従来、担当者は判断に迷うと文献の検索や先輩や法務局に聞いたりしていた。法務局は回答に2―3週間かかることもある。市はこの判断過程にAIを取り入れた。市のICT戦略室の中道忠和活用推進担当課長は「制度変更が少なく費用対効果が見込める」と話す。
市は約1000万円をかけ、「出生」「婚姻」「離婚」を中心に1万8000件の戸籍関連辞書をデータ化。検索画面にキーワードを入力し、参考文献を表示する。
「文献を探さなくて済む」との声がある一方、「若手やベテランといった職員の習熟度で使い勝手の評価は異なる」と言う。19年3月まで、データ最適化や再学習で検索精度を向上させながら実証。19年度は市内全24区役所に広げたい意向だ。
九州大学と富士通研究所(川崎市中原区)は、17年にAIを活用してさいたま市の認可保育施設への入所希望者を割り振る実証実験を行った。複雑な制約条件の中、最適な割り当てを自動で判断できるマッチング技術を開発。数理手法の一つゲーム理論を用いた。職員の手作業では3日以上かかっていたが、わずか数秒で終わった。
現在、市内10区の保育施設職員20―30人が1月の3連休を丸々使い、8000人以上の入所希望者を市内約300施設へ割り振っている。
AIと人手の結果を照合したところ、合致率はほぼ100%。省力化につながることは確か。ただ、「割り振るには事前のヒアリングが重要」と市の担当者は指摘。「選考に落ちた場合、『AIが決めました』では納得しない可能性もある。人間がワンストップで対応する強みもある。AIの本格導入は検討中」と慎重な姿勢だ。
(文=日刊工業新聞社横浜支局・大原翔、札幌支局・村山茂樹、大阪支社・青木俊次、さいたま支局・石井栞)
川崎市 市民の相談、的確に回答
川崎市は2016年9月と18年3月に1カ月ずつ計2回、市民からの問い合わせにAIが対応するサービスの実証実験を三菱総合研究所と共同で実施した。行政サービスの手続きや制度について、スマートフォンなどを使ってチャット形式で相談できる特設ホームページを同社が用意。あらかじめキーワードと関連する回答を設定し、問い合わせ内容に応じて必要な情報を自動で提供する。サービスが利用されるにつれ、問い合わせ内容をAIが学習するため、回答の精度も上がる。
初回は、子育て分野に特化したサービスを提供。実験後のアンケートでは「知りたい情報を得られた」という回答が全体の約7割を占めた。2回目は子育て以外も含めた全分野に広げた。
現在は2回目の実験結果をまとめている状況。市のICT推進課は「費用対効果など実現性を見極めて(本格導入について)判断したい」と話す。
北海道室蘭市 道路改修の優先順を判断
北海道室蘭市は室蘭工業大学と共同で、市道の損傷状況の解析にAIを活用する。路面を動画で撮影し、AIで路面のひび割れ率を定量的に算出。損傷が激しい市道から優先的に改修する。
両者は4月、動画を使った道路の損傷状況の解析で共同研究を開始。6月15日、車にカメラを搭載して試験走行し、本格的な撮影に向け準備を進めてきた。8月中に総延長440キロメートルの市道の撮影を始め、月内に終える。AIが判定した路面のひび割れ率の精度を検証し、結果が良ければデータを活用する。
市は路面の損傷状況を目視で確認しているが、優先的に改修する道路を判断するには「AIで定量的に評価することが大切」(竹島裕人室蘭市都市建設部土木課主幹)と指摘する。
車載カメラで道路状況を把握できれば、専門車両を使った測定に比べて安価に実施できる。竹島主幹は「継続的な実施が可能になり劣化の進行速度を把握できる」と期待する。
大阪市 戸籍業務、精査スムーズ
大阪市は18年3月に東淀川と浪速の両区役所の戸籍業務でAIを活用するモデル事業「職員の知恵袋」を始めた。
戸籍業務は「出生」「婚姻」「転籍」など36項目の届け出書の内容を精査し、受理する仕事。従来、担当者は判断に迷うと文献の検索や先輩や法務局に聞いたりしていた。法務局は回答に2―3週間かかることもある。市はこの判断過程にAIを取り入れた。市のICT戦略室の中道忠和活用推進担当課長は「制度変更が少なく費用対効果が見込める」と話す。
市は約1000万円をかけ、「出生」「婚姻」「離婚」を中心に1万8000件の戸籍関連辞書をデータ化。検索画面にキーワードを入力し、参考文献を表示する。
「文献を探さなくて済む」との声がある一方、「若手やベテランといった職員の習熟度で使い勝手の評価は異なる」と言う。19年3月まで、データ最適化や再学習で検索精度を向上させながら実証。19年度は市内全24区役所に広げたい意向だ。
さいたま市 保育所の希望者割り振り
九州大学と富士通研究所(川崎市中原区)は、17年にAIを活用してさいたま市の認可保育施設への入所希望者を割り振る実証実験を行った。複雑な制約条件の中、最適な割り当てを自動で判断できるマッチング技術を開発。数理手法の一つゲーム理論を用いた。職員の手作業では3日以上かかっていたが、わずか数秒で終わった。
現在、市内10区の保育施設職員20―30人が1月の3連休を丸々使い、8000人以上の入所希望者を市内約300施設へ割り振っている。
AIと人手の結果を照合したところ、合致率はほぼ100%。省力化につながることは確か。ただ、「割り振るには事前のヒアリングが重要」と市の担当者は指摘。「選考に落ちた場合、『AIが決めました』では納得しない可能性もある。人間がワンストップで対応する強みもある。AIの本格導入は検討中」と慎重な姿勢だ。
(文=日刊工業新聞社横浜支局・大原翔、札幌支局・村山茂樹、大阪支社・青木俊次、さいたま支局・石井栞)
日刊工業新聞2018年8月1日