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熊本・鹿児島エリアの地方鉄道、集客の起爆剤は“フレンチの鉄人”

肥薩おれんじ鉄道が展開
熊本・鹿児島エリアの地方鉄道、集客の起爆剤は“フレンチの鉄人”

内装に木材をふんだんに使う水戸岡鋭治氏のデザイン(「おれんじ食堂」車内)

 全国各地で、地方鉄道を中心に“レストラン列車”の運行が増えている。車窓を眺めながら、その土地ならではの食事を楽しむ観光列車は、鉄道を使って地域外から客を呼び込む仕掛けの一つ。レストラン列車のはしりが、熊本と鹿児島両県をエリアとする第三セクター鉄道、肥薩おれんじ鉄道(熊本県八代市、出田貴康社長、0965・32・5678)の「おれんじ食堂」だ。

 肥薩おれんじ鉄道は2004年3月、九州新幹線の新八代(八代市)―鹿児島中央(鹿児島市)間が開業した際、JR九州から並行在来線を引き継いだ。営業区間は八代(八代市)―川内(鹿児島県薩摩川内市)間の116・9キロメートル。第三セクター鉄道等協議会加盟の40社(7月現在)の中で最も営業路線が長い。

 肥薩おれんじ鉄道の薬丸剛営業課長は「乗客の7割が定期利用者で、このうち9割が高校生」と話す。04年度に年188万人あった利用者も、高速道路の開通や少子高齢化を背景に、12年度には年136万人までに激減。自治体株主からは、存廃を問う声も上がった。

 おれんじ食堂が誕生したのは13年3月。苦しい経営状況からの起死回生策として考えられたのが、観光列車の導入による交流人口の拡大だった。目をつけたのが“地産地消の食堂車”。かつて旅の楽しみの一つだった食堂車だが、ほとんど姿を消した状況にあった。

 ゆっくり走る車内で食事と景色を楽しむ新しい鉄道の旅は、シニアや女性グループに受けた。工業デザイナー水戸岡鋭治氏の手による木をふんだんに使った内装や、停車駅で土地の特産物が手に入る出店「マルシェ」などの趣向も喜ばれた。

 初年度の13年度は1万4000人が利用して鉄道利用者減少に歯止めをかけ、収益にも貢献した。14・15年度も1万2000人前後で推移。高単価で「運輸収入の14―15%程度稼げた」(薬丸課長)という。だが熊本地震が発生した16年度は8000人と客足が落ち込み、17年度も戻らない状況。全国にレストラン列車の“競合”が増えたというのも理由の一つにありそうだ。

 そこで、てこ入れを図ろうと、地元にゆかりのある“フレンチの鉄人”こと坂井宏行氏に、今春から料理メニュー監修を依頼。それが起爆剤となって、予約が回復しつつあるという。

 おれんじ食堂の利用客は「約6割が旅行会社の販売する県外からのツアー客」(薬丸課長)であり、利用客拡大には顧客満足度の向上が欠かせない。無人駅の薩摩高城(たき)駅(薩摩川内市)周辺を社員手づくりで開発し、海岸までの遊歩道を整備。停車中に散策を楽しんでもらえるようにした。薬丸課長は「クルーによる、おもてなしを大事にしたい」とし、印象に残る鉄道の旅を創り上げていく考えだ。

レストラン列車「おれんじ食堂」の専用車両

(文・小林広幸)
日刊工業新聞2018年7月27日
葭本隆太
葭本隆太 Yoshimoto Ryuta デジタルメディア局DX編集部 ニュースイッチ編集長
地方の電車に乗って気ままに揺られながら車窓を眺めるのが好きです。レストラン列車は人気でチケットを取るのが大変というイメージがあったのですが、競合が増えたことでテコ入れが必要になっているとは知りませんでした。

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