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東北大院生らが事業化する文章推敲するAI

19年度に開始
 東北大学の大学院生らが人工知能(AI)ベンチャー企業「Langsmith」(ラングスミス)を立ち上げた。自然言語処理とディープラーニング(深層学習)を組み合わせ、文章推敲(すいこう)AIサービスを2019年に事業化する。AIは研究と社会実装が不可分な領域だ。実際にサービスを提供しないと開発技術の性能や使い勝手を評価しきれない。若手研究者にとって起業が研究を加速させる手段になっている。

 東北大大学院修士課程1年の伊藤拓海さんと栗林樹生さんが共同で起業した。伊藤さんは17年度の東北大総長賞に、栗林さんは工学部長賞に表彰された。5月に会社を登記し、今夏に技術を論文として発表。18年度内にAIの商用モデルを構築して19年度に推敲サービスを始める。

 ラングスミスは文章の推敲支援を事業の柱に据える。書き手が「こんなことを言いたい」と思う粗い文章を入力すると、AIが多数の文書候補を提案する。言葉選びや言い回しを“考える”から“選ぶ”に変える。作業負荷を大幅に減らせる。

 まずは英語論文の推敲支援としてサービスを始める。論文は文章の構造がそろっていてAIで扱いやすい。公開されている100万報以上の文章をAIが学習できる。栗林さんは「推敲はほとんどの研究室で困っていて需要はある。まず論文で成功させ、技術書やビジネス文書、教育、医療などに広げたい」としている。

 起業してサービスを始めるのは研究のためでもある。推敲支援など文章を生成する技術は性能を評価しづらい。誤り判定や単語の予測変換は正解率として性能を評価できる。だが良い言い回しが一つではないように、文章生成AIは正解率では評価できない。被験者を集めて文を書く時間を計り、短くなれば有効とする研究が多い。

 伊藤さんは「研究のために被験者を集めるなら、事業化してサービス提供した方がフェアだ」という。AIは研究と社会実装が不可分だ。AIで人間のより深い思慮を支援しようとすると効果評価や論文化が難しくなる。だがサービスとして認められると、よりデータが集まり、より面白い問題に挑戦できる。

 ラングスミスの経営面は、AIの技術開発や事業化を支援するマシンラーニング・ソリューションズ(東京都千代田区)がサポートする。若い2人は技術開発に集中する。

 生命科学や材料などの実験中心の領域では博士号をとると一人前として認められ、自分のしたい研究ができるようになる。AIでは修士課程在学中でも自分たちで起業し、実用化するチャンスがある。2人は「(新規株式公開など)一発当たればうれしいけれど、それよりも自然言語処理を皆が手放せない技術にしたい」と声をそろえる。普通の若手研究者の道に、起業や社会実装が転がっている。
日刊工業新聞2018年7月20日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
AI分野の若手は大学の枠を飛び越えて、どんどん挑戦しています。彼らは論文もアルゴリズムもプログラムもオープン化されて、世界と戦っていかないといけないので、それが必定、それが普通でもあります。翻って日本の大学や研究機関にこれをサポートする力があるでしょうか。大学は起業を奨励こそしますが、片道切符が多いです。マシンラーニング・ソリューションズはかなり特殊で、チームラボの成功体験があるため息の長い支援を約束しています。こうした機会がもっと広がればと思います。

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