「老人介護」、過去最高の倒産件数もビジネスチャンスは大きい!?
零細に厳しい経営環境も、大手はデジタル化で付加価値狙う
深刻化する高齢化社会を背景に、サービスへの需要拡大などから市場は潤っているかに思える老人福祉業界。しかし、この業界における倒産が今まさにピークを迎えている。東京商工リサーチがまとめた1―6月の「老人福祉・介護事業」倒産状況によると、倒産は前年同期比12・5%増の45件となり、過去最多の記録を更新した。このペースで推移すると、介護保険法が施行された2000年以降で年間最多だった17年の111件を上回る可能性がでてきた。
18年度の介護報酬改定は0・54%のプラス改定になったが、過当競争が続くなか、小規模事業者を中心に厳しい経営状況を反映した。
国内倒産件数は、リーマン・ショックが発生した08年度にピークを迎えたが、09年度以降は中小企業金融円滑化法と同法終了後の実質的な効果延長により、16年度まで8年連続で減少した。
17年度は9年ぶりに前年度を上回り潮目が変わってきたものの、増加率は1・6%にとどまっている。そうした倒産減少基調のなか、全業種を見渡しても今まさに倒産ピークを迎えている業界はほぼ見あたらない。どうしてだろうか。
振り返ると00年4月の介護保険法施行をきっかけに、老人福祉事業に新規参入する事業者や新設事業者が相次ぎ、帝国データバンクによると、01年に2万782だった訪問介護・通所介護の施設・事業所数は2006年には4万357にまで激増。
しかし、そのほとんどは専門的なノウハウや実績をもたない零細事業者で、サービス開始に至らないケースも少なくなかった。仮に事業を開始しても、資金が調達できない、利用者に対する信用・知名度を高めることができない。また、近年は人手不足が一因となって事業を断念するケースも相次いだ。
90件の業歴(設立から倒産までの期間)を分析すると、「5年未満」の構成比が28・9%を占めた。17年度の全国倒産(8285件)のうち「5年未満」が9・8%であることからも、いかに生き残りが難しい業界であるかが分かる。
そんな中、大手企業がデジタル技術などを活用し介護施設事業に成長性を見いだすケースも増えている。SOMPOホールディングス(HD)は6月に米国介護事業者のカールトン・シニア・リビング(カリフォルニア州)と提携。介護施設向けのデジタル技術をカールトンの施設で試験運用し、日本の介護事業に応用できるか探るのが狙いだ。
両社は人工知能(AI)を利用した介護施設入居者の転倒防止技術の実証実験を始めており、連携を強める。
SOMPOHDは2015年、ワタミ子会社「ワタミの介護」を買収し、介護事業に参入。全国で有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅を運営している。
デジタル技術を使った介護サービスの導入を積極的に進めており、今後、入居者の安全や従業員の負荷軽減につながる新技術の取り込みを加速する方針だ。
住友林業は子会社のフィルケアを通じ、木造の介護付き有料老人ホーム「グランフォレスト練馬高松」(東京都練馬区)をこのほど開設した。情報通信技術(ICT)を活用し、入居者の健康を「見える化」する介護サービスを提供する。
同施設では入居者の運動機能や健康状態、服薬の状況などを管理するシステムを導入する。健康状態を管理するシステムでは、睡眠、湿温度、活動量をセンサーで収集・分析し、各自に最適な介護方針を立案。
また、服薬支援システムでは、服薬のスケジュールを管理し、トラブル対応や人違いなどによる投薬ミスを防止。これらのデータを基に個人に合わせた介護サービスの提供と、介護者の負担軽減を図る。
長谷工シニアホールディングスは、センサーで睡眠状態を把握するIoT機器を施設に導入した。認知症の兆しや生活の変化を早期に把握し、入居者の健康寿命を延ばすことが目的だ。
2017年12月に開設した有料老人ホーム「ライフハウス新所沢」(埼玉県所沢市)は、重度の介護を必要としない、高齢者を対象とした入居施設。食堂や大浴場、コミュニケーション施設を備えて生活をサポートする。
同ホームは睡眠をモニターして医師が変化をチェックする非接触型のIoTサービス「ライフリズムナビ+Dr.」を採用した。ライフハウス新所沢のでは「睡眠の質に不安を持つ高齢者は多い。ライフリズムナビは医師がデータを分析して助言してくれる点が他の睡眠管理と違う」と利点を挙げる。
日帰り介護(デイサービス)など介護サービス大手のツクイは専門職を活用し中重度の要介護者向けケアなどを充実させることで、拠点数、利用者数を増やし業容を拡大している。
同社は理学療法士(PT)などの専門職を積極的に採用し機能訓練の充実を強みに利用者を増やせると見る。加えて有料老人ホームやサービス付高齢者向け住宅(サ高住)は自治体と一体となった開発が中心で、初期費用はかさむものの中期的に業容拡大をけん引する可能性が高い。
厚生労働省によると2025年の介護サービス利用者は11年比1・5倍の641万人へ増加すると見込まれる。
18年度の介護報酬改定は0・54%のプラス改定になったが、過当競争が続くなか、小規模事業者を中心に厳しい経営状況を反映した。
国内倒産件数は、リーマン・ショックが発生した08年度にピークを迎えたが、09年度以降は中小企業金融円滑化法と同法終了後の実質的な効果延長により、16年度まで8年連続で減少した。
17年度は9年ぶりに前年度を上回り潮目が変わってきたものの、増加率は1・6%にとどまっている。そうした倒産減少基調のなか、全業種を見渡しても今まさに倒産ピークを迎えている業界はほぼ見あたらない。どうしてだろうか。
振り返ると00年4月の介護保険法施行をきっかけに、老人福祉事業に新規参入する事業者や新設事業者が相次ぎ、帝国データバンクによると、01年に2万782だった訪問介護・通所介護の施設・事業所数は2006年には4万357にまで激増。
しかし、そのほとんどは専門的なノウハウや実績をもたない零細事業者で、サービス開始に至らないケースも少なくなかった。仮に事業を開始しても、資金が調達できない、利用者に対する信用・知名度を高めることができない。また、近年は人手不足が一因となって事業を断念するケースも相次いだ。
90件の業歴(設立から倒産までの期間)を分析すると、「5年未満」の構成比が28・9%を占めた。17年度の全国倒産(8285件)のうち「5年未満」が9・8%であることからも、いかに生き残りが難しい業界であるかが分かる。
そんな中、大手企業がデジタル技術などを活用し介護施設事業に成長性を見いだすケースも増えている。SOMPOホールディングス(HD)は6月に米国介護事業者のカールトン・シニア・リビング(カリフォルニア州)と提携。介護施設向けのデジタル技術をカールトンの施設で試験運用し、日本の介護事業に応用できるか探るのが狙いだ。
両社は人工知能(AI)を利用した介護施設入居者の転倒防止技術の実証実験を始めており、連携を強める。
SOMPOHDは2015年、ワタミ子会社「ワタミの介護」を買収し、介護事業に参入。全国で有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅を運営している。
デジタル技術を使った介護サービスの導入を積極的に進めており、今後、入居者の安全や従業員の負荷軽減につながる新技術の取り込みを加速する方針だ。
住友林業は子会社のフィルケアを通じ、木造の介護付き有料老人ホーム「グランフォレスト練馬高松」(東京都練馬区)をこのほど開設した。情報通信技術(ICT)を活用し、入居者の健康を「見える化」する介護サービスを提供する。
同施設では入居者の運動機能や健康状態、服薬の状況などを管理するシステムを導入する。健康状態を管理するシステムでは、睡眠、湿温度、活動量をセンサーで収集・分析し、各自に最適な介護方針を立案。
また、服薬支援システムでは、服薬のスケジュールを管理し、トラブル対応や人違いなどによる投薬ミスを防止。これらのデータを基に個人に合わせた介護サービスの提供と、介護者の負担軽減を図る。
長谷工シニアホールディングスは、センサーで睡眠状態を把握するIoT機器を施設に導入した。認知症の兆しや生活の変化を早期に把握し、入居者の健康寿命を延ばすことが目的だ。
2017年12月に開設した有料老人ホーム「ライフハウス新所沢」(埼玉県所沢市)は、重度の介護を必要としない、高齢者を対象とした入居施設。食堂や大浴場、コミュニケーション施設を備えて生活をサポートする。
同ホームは睡眠をモニターして医師が変化をチェックする非接触型のIoTサービス「ライフリズムナビ+Dr.」を採用した。ライフハウス新所沢のでは「睡眠の質に不安を持つ高齢者は多い。ライフリズムナビは医師がデータを分析して助言してくれる点が他の睡眠管理と違う」と利点を挙げる。
日帰り介護(デイサービス)など介護サービス大手のツクイは専門職を活用し中重度の要介護者向けケアなどを充実させることで、拠点数、利用者数を増やし業容を拡大している。
同社は理学療法士(PT)などの専門職を積極的に採用し機能訓練の充実を強みに利用者を増やせると見る。加えて有料老人ホームやサービス付高齢者向け住宅(サ高住)は自治体と一体となった開発が中心で、初期費用はかさむものの中期的に業容拡大をけん引する可能性が高い。
厚生労働省によると2025年の介護サービス利用者は11年比1・5倍の641万人へ増加すると見込まれる。
日刊工業新聞2018年7月12日の記事に加筆