「沖縄 産業の島へ♯02」物流がつくる新ビジネス
日刊工業新聞社那覇支局開設記念特集より
長い間、沖縄の産業振興で課題だったのが物流だ。県外と海で隔てられた地理的環境は、原材料調達や製品出荷にコストがかかり、製造業の競争力低下と県外市場への参入障壁になっていた。しかし世界経済の環境変化と、那覇空港の国際物流ハブ拠点化で状況は一転。アジアという枠組みの中で優位性を発揮できる環境になった。
「日本中で沖縄でしかできない事業。しかも、それができるのは当社だけだ」とANAカーゴ(東京都港区)の高濱剛司沖縄統括室長は、自社のビジネスモデルの優位性を挙げる。全日本空輸(ANA)が沖縄県と共同で、那覇空港の国際物流ハブ拠点化に取り組んで6年目。運行路線の拡大と那覇空港の貨物取扱量の増大だけでなく、沖縄のビジネスチャンスを生む意味でも存在感を増している。
ハブ拠点化の最大の強みは沖縄の地理にある。沖縄を中心に描いた飛行時間4時間圏内の同心円には、東京を含めたアジアの数々の主要都市が入る。沖縄をハブ(基点)にして各都市を直行便のスポークで結ぶ「ハブ&スポーク」のネットワークが、沖縄をアジア経済の中心にする。「本土から離れていることが最大のメリット」(高濱室長)だ。
現在、那覇との貨物便はソウル、青島、上海、広州、香港、バンコク、シンガポール、台北の海外8都市が結ばれている。自社の貨物専用機は11機体制で運用しているが、16年中にもう1機を追加導入する予定。
24時間の離着陸と通関が可能な那覇空港の態勢もカギだ。通常は貨物が動かない夜間を活用できるため、リードタイムを大幅に圧縮できる。リードタイムの短さは効率化を追い求める機械系メーカーには必須。インターネット通信販売による、食品や雑貨でも顧客サービスを向上できる。
那覇と直行便がない日本国内の地域もメリットはある。成田、羽田、名古屋(中部)、関西の各空港からの那覇行き貨物便は夜中12時ごろの出発であるため、日本各地から羽田などに向かう(旅客)最終便に搭載し、貨物便に接続することにより、比較的遅い集荷時間でアジアへの翌日発送を実現できる。
ハブを経由することで3国間輸送も可能。例えば、上海―バンコク間で貨物を運ぶ場合、中国とタイの航空会社以外は直行路線を持てない。しかしANAは那覇のハブを経由することで、この2国間を実質的に自社輸送できる。しかも出荷した翌朝に仕向け地に到着する。
那覇空港のハブ機能を活用したビジネスも広がっている。6月に設立が発表された航空機整備会社「MROジャパン」はその一つ。ANAホールディングス、ジャムコ、三菱重工業などが出資し、中小型機の整備を沖縄で行う。“航空機整備基地”として那覇空港を活用するもので、部品調達でハブ効果を発揮できる期待がある。航行距離が短い小型機でも、アジア主要都市からほぼ等距離にある沖縄なら飛行できる。同事業と関連し、沖縄工業高等専門学校は2015年度から航空技術者プログラムをスタート。航空整備士やエンジニアの養成に向けたカリキュラムで、人材育成の体制も整いつつある。
さらに那覇空港のハブ拠点化を活用して、緊急輸送を必要とする保守パーツの保管などを行うパーツセンターを展開しているのがヤマトグループだ。那覇空港隣接のパーツセンターに保管している保守パーツを、必要に応じてアジアをはじめ世界各地に航空便で発送する。同社グループの沖縄ヤマト運輸(那覇市)が、サードパーティーロジスティクス(3PL)として在庫管理から発送手配までを一貫して提供している。
13年8月からパーツセンターを活用しているのが東芝自動機器システムサービス(川崎市川崎区)。自動紙幣処理機などの保守パーツを沖縄に集約している。120SKU(パーツの管理ユニット数)、2200ピースでスタートしたが、現在は3900SKU、12万ピースにまで取扱品目が増加。「評価していただき、パーツ数も増えている」と、沖縄ヤマト運輸グローバルエキスプレス事業部の喜納兼吉事業部長は話す。
今後、沖縄への企業立地が進む中で、ストックのニーズだけでなく、メーカーが沖縄県内で製品や部品を生産する選択肢も出てくる。機械部品に限らず、医薬品など企業のアイデア次第で利用の可能性は広がりそうだ。
またヤマト運輸は生鮮品などをアジアへ最短翌日に配送する「国際クール宅急便」も行っている。現在、香港と台湾がサービス対象地域だが、15年度の早い時期にシンガポールにも展開する。果物や魚介類を中心に出荷量は右肩上がり。ここでもポイントになるのは那覇空港の24時間通関体制。鮮度が命の生鮮品をスピーディーに送れることで、品質向上にもつながっている。
地方から生鮮品を1個単位で冷凍・冷蔵で送れるサービスは、同社ならではの強み。青森、熊本、愛媛の各県と特産品の海外輸出における連携協定を締結するなど、全国の生産者にとって、アジアへの輸出を身近にするビジネスチャンスを提供している。
ヤマト運輸は沖縄を「アジアのハブ拠点」として重要拠点に位置づけている。現在、パーツセンターとして運用している沖縄県が整備した物流センター3号棟に続き、4号棟にも入居が内定しており、今後の沖縄でのビジネス拡大が注目される。
“離島”がメリットに―アジア12都市へ24時間通関
「日本中で沖縄でしかできない事業。しかも、それができるのは当社だけだ」とANAカーゴ(東京都港区)の高濱剛司沖縄統括室長は、自社のビジネスモデルの優位性を挙げる。全日本空輸(ANA)が沖縄県と共同で、那覇空港の国際物流ハブ拠点化に取り組んで6年目。運行路線の拡大と那覇空港の貨物取扱量の増大だけでなく、沖縄のビジネスチャンスを生む意味でも存在感を増している。
ハブ拠点化の最大の強みは沖縄の地理にある。沖縄を中心に描いた飛行時間4時間圏内の同心円には、東京を含めたアジアの数々の主要都市が入る。沖縄をハブ(基点)にして各都市を直行便のスポークで結ぶ「ハブ&スポーク」のネットワークが、沖縄をアジア経済の中心にする。「本土から離れていることが最大のメリット」(高濱室長)だ。
現在、那覇との貨物便はソウル、青島、上海、広州、香港、バンコク、シンガポール、台北の海外8都市が結ばれている。自社の貨物専用機は11機体制で運用しているが、16年中にもう1機を追加導入する予定。
24時間の離着陸と通関が可能な那覇空港の態勢もカギだ。通常は貨物が動かない夜間を活用できるため、リードタイムを大幅に圧縮できる。リードタイムの短さは効率化を追い求める機械系メーカーには必須。インターネット通信販売による、食品や雑貨でも顧客サービスを向上できる。
那覇と直行便がない日本国内の地域もメリットはある。成田、羽田、名古屋(中部)、関西の各空港からの那覇行き貨物便は夜中12時ごろの出発であるため、日本各地から羽田などに向かう(旅客)最終便に搭載し、貨物便に接続することにより、比較的遅い集荷時間でアジアへの翌日発送を実現できる。
ハブを経由することで3国間輸送も可能。例えば、上海―バンコク間で貨物を運ぶ場合、中国とタイの航空会社以外は直行路線を持てない。しかしANAは那覇のハブを経由することで、この2国間を実質的に自社輸送できる。しかも出荷した翌朝に仕向け地に到着する。
ハブからの展開―整備、在庫保管拠点に
那覇空港のハブ機能を活用したビジネスも広がっている。6月に設立が発表された航空機整備会社「MROジャパン」はその一つ。ANAホールディングス、ジャムコ、三菱重工業などが出資し、中小型機の整備を沖縄で行う。“航空機整備基地”として那覇空港を活用するもので、部品調達でハブ効果を発揮できる期待がある。航行距離が短い小型機でも、アジア主要都市からほぼ等距離にある沖縄なら飛行できる。同事業と関連し、沖縄工業高等専門学校は2015年度から航空技術者プログラムをスタート。航空整備士やエンジニアの養成に向けたカリキュラムで、人材育成の体制も整いつつある。
さらに那覇空港のハブ拠点化を活用して、緊急輸送を必要とする保守パーツの保管などを行うパーツセンターを展開しているのがヤマトグループだ。那覇空港隣接のパーツセンターに保管している保守パーツを、必要に応じてアジアをはじめ世界各地に航空便で発送する。同社グループの沖縄ヤマト運輸(那覇市)が、サードパーティーロジスティクス(3PL)として在庫管理から発送手配までを一貫して提供している。
13年8月からパーツセンターを活用しているのが東芝自動機器システムサービス(川崎市川崎区)。自動紙幣処理機などの保守パーツを沖縄に集約している。120SKU(パーツの管理ユニット数)、2200ピースでスタートしたが、現在は3900SKU、12万ピースにまで取扱品目が増加。「評価していただき、パーツ数も増えている」と、沖縄ヤマト運輸グローバルエキスプレス事業部の喜納兼吉事業部長は話す。
今後、沖縄への企業立地が進む中で、ストックのニーズだけでなく、メーカーが沖縄県内で製品や部品を生産する選択肢も出てくる。機械部品に限らず、医薬品など企業のアイデア次第で利用の可能性は広がりそうだ。
またヤマト運輸は生鮮品などをアジアへ最短翌日に配送する「国際クール宅急便」も行っている。現在、香港と台湾がサービス対象地域だが、15年度の早い時期にシンガポールにも展開する。果物や魚介類を中心に出荷量は右肩上がり。ここでもポイントになるのは那覇空港の24時間通関体制。鮮度が命の生鮮品をスピーディーに送れることで、品質向上にもつながっている。
地方から生鮮品を1個単位で冷凍・冷蔵で送れるサービスは、同社ならではの強み。青森、熊本、愛媛の各県と特産品の海外輸出における連携協定を締結するなど、全国の生産者にとって、アジアへの輸出を身近にするビジネスチャンスを提供している。
ヤマト運輸は沖縄を「アジアのハブ拠点」として重要拠点に位置づけている。現在、パーツセンターとして運用している沖縄県が整備した物流センター3号棟に続き、4号棟にも入居が内定しており、今後の沖縄でのビジネス拡大が注目される。
日刊工業新聞2015年07月15日 特集「沖縄 産業の島へ」より抜粋