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留学生を魅了する大学、なぜシンガポールにできて日本にできない

大学ランキングでアジアトップ
 深刻な人材不足に直面し、外国人材を本格的に受け入れ、活用しようとする機運が高まってきている。日本企業にとって、外国人材を積極的に活用し、ダイバーシティー経営の体制をつくり、グローバルな競争力を強めないことには展望は開けない。その際の一つの方法は、優秀な外国人留学生の誘致だ。留学生は雇用面だけでなく、グローバルな人的ネットワークづくり、日本の「民間アンバサダー(大使)」役などとして期待できる。

 厚生労働省の『「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(2017年10月末現在)』によると、外国人労働者数は前年同期比18%増の127万8670人と過去最高を記録している。うち、留学生は約26万人。

 経済産業省と文部科学省が2007-12年度に実施した「アジア人財資金構想」事業で始まった留学生支援ネットワークには現在、約100の大学が加盟している。同ネットワークは、留学生に就職試験対策の伝授、企業の雇用情報提供、ビジネス日本語学習に向けた動画配信などを実施している。

 同ネットワークによると、そうしたサービスを利用する留学生は毎年、3000人程度に上り、卒業ないし修学終了後の進路希望として、約60%の学生が日本での就職を希望する。

 しかし、就職できるのは40%程度という。日本の学生同様、就職先は首都圏・大都市圏に集中。中堅・中小企業への就職が70%程度のようだ。

 一方、アジアの国々では今、「教育ハブ(拠点)」づくり競争が展開されている。留学生の数では、中国が48万9200人(17年)と一番多いが、注目すべきはシンガポールの留学生対策だ。

 シンガポールの人口は90年、304万人だった。それが、00年に400万人を超え、10年には500万人を超えた。

 人口増の主因は海外からの人材の積極的な受け入れだ。97年のアジア通貨危機、08年のリーマン・ショックの際でも、同国政府はその政策を放棄せず、外国の大学キャンパス誘致、シンガポール国立大学(NUS)、南洋理工大学(NTU)の強化拡充に努めた。

 英タイムズ紙の世界大学ランキング(18年版)で、NUSはカナダのトロント大学と並び22位。3年連続でアジアの大学トップの座にあり、南洋理工大は52位へと急上昇した。筆者が90年代央に南洋理工大を訪れた時には、小規模な地味な大学の感じだったが、今では北海道大学を上回る広い敷地に最新鋭の教育・研究設備などが整備され、世界で最も急速に実力を付けた大学とされる。

 現在のNTUの学生数は3万3000人、うち31%は外国人留学生だ。ちなみに同ランキングのアジアの上位は、北京大学27位、清華大学30位、香港大学40位、香港科技大学44位、東京大学46位、香港中文大学58位、京都大学とソウル国立大学がともに74位など。

 NUSの17年の学生数は2万6837人で、うち外国人留学生は17・3%の4637人。外国人留学生比率が23%を超えていた13年頃から、政府はその比率抑制に努めてきているとはいえ、5・8人に1人は外国人留学生だ。その留学生の約80%は卒業時、永住権取得を申請するという。優秀な外国人留学生を集めると、教育ハブとしての輝きを増す。創造性に欠けるとされるシンガポール人の弱さを補う人材も得られる。
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
 日本政府も15日に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2018」、いわゆる骨太方針で、外国人材の受け入れ強化策を示している。留学生は言葉、文化をそれなりに理解しているという面で、日本企業のグローバル化の「触媒役」になり得る存在。留学生を活用した早期の人材手当と同時に、優秀な外国人学生を魅了するわが国大学の研究・教育体制を磨き上げ、日本を教育ハブ化することも中長期では有力な少子・高齢化策となるだろう。 (日刊工業新聞・中村悦二)

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