AIで米中のプラットフォーム対決が激化、どうする日本?
「CESアジア」で見えてきた新たな潮流
中国のIT大手が人工知能(AI)を核に新たなプラットフォーム(基盤)戦略を推し進めている。電子商取引(EC)大手アリババ集団は、自社のスマートスピーカー「天猫精霊」(Tモールジニ)で「つながる家電」の連合を構築。検索大手の百度(バイドゥ)は自動運転で世界100社以上と提携を深める。産業構造を大きく変えるAIをめぐり、米中の競争が激化しており、その間に身を置く日本企業も対応を迫られる。
「機械に知能を持たせ、人々の生活を豊かにする」。上海市で先週開かれた家電・IT見本市「CESアジア」で、アリババAIラボを率いる陳麗娟総経理はこう話した。
天猫精霊はアリババが2017年に発売したスマートスピーカーで、独自の音声認識アシスタント「アリ・ジニ」を搭載する。
近距離無線通信「ブルートゥース」の新規格「ブルートゥースメッシュ」を使い、機器同士を低コストに接続できるのが特徴。出荷台数は中国を中心に300万台を超え、陳総経理は「天猫精霊は(中国)国内で首位、世界でも第3位のスマートスピーカーになった」と強調する。
同社はCESアジアで家電メーカーとの協業プロジェクト「天猫精霊AI連盟」の取り組みなどを発表。東芝の白物家電事業を買収した中国の美的集団やハイアール・グループ、米アイロボットといった電機大手と協業してAI家電の開発を進める。パナソニックもアリババとの協業を検討している。
AIを核に企業の囲い込みを図るアリババのプラットフォーム戦略は、同分野で2強の米アマゾン・ドット・コムや米グーグルと重なる部分が多い。
1月に米ラスベガスで開かれた“本家”のCESでは、冷蔵庫や照明などの家電から自動車まで2社の音声認識AIを使って操作する機能の発表が相次いだ。実用化で先行するアマゾンの「アレクサ」を、グーグルの「グーグル・アシスタント」が猛追する展開だ。
特にアレクサは北米を中心に車載システムへの対応が拡大しており、トヨタ自動車や米フォードモーターも北米の一部車種に搭載した。
車の音声操作はAIの言語認識能力や騒音対策などの課題があり、操作は一部機器に限られるのも事実だが、AI機能進化とともに搭載が拡大していくことは確実だ。
家電や自動車に限らず、デジタル技術を駆使した「知能化」が進んでおり、AIをはじめとするソフトウエアの開発が勝敗を分ける時代を迎えている。
一方、百度はCESアジアで自動運転プロジェクト「アポロ(阿波羅)計画」の進捗(しんちょく)を発表した。韓国の現代自動車と連携し、屋外の特設スペースで自動車が自動で駐車する「自動バレー駐車」のデモを実施するなど存在感を示した。ブースでは約100社の参加企業のロゴを掲載したパネルに人だかりができていた。
アポロは米国の月面着陸計画にちなんで付けられた名称で、中国政府からも支援を受けている。その特徴はソフトウエアからハードウエアに至るまでシステムがほぼ開放される「オープンプラットフォーム」である点。
参加者は高精度地図やシミュレーション技術、深層学習(ディープラーニング)といった自動運転の要素を共有することで、実用化を早める。百度で自動運転部門を率いる顧維灝ゼネラルマネージャーは「アポロ計画は最もアクティブな自動運転プラットフォームだ」と主張する。
開発は清掃車や物流などの用途として時速10キロメートルで走る小型車と乗用車の2種類で進める。7月には限定空間の自動運転技術を量産化するほか、20年には高速・一般道路両方で完全自動運転の「レベル4」の実現を目指す。
百度はもともと米シリコンバレーに自動運転開発の拠点を設置して研究を進めてきた。シリコンバレーはグーグル系の自動運転開発会社「ウェイモ」のほか、トヨタ自動車など世界の自動車メーカーも拠点を置く自動運転の中心地だ。各社は自動運転に欠かせないAIのアルゴリズムの開発に巨費を投じる。
百度が母国中国でアポロ計画を立ち上げたのは17年春。当初は世界の自動車大手など約50社と立ち上げたが、わずか1年間で参画企業は100社以上に倍増。日本企業でもホンダやルネサスエレクトロニクスなどが加わった。日本の自動車部品大手幹部は「来年はさらに倍の規模になっているのでは」と予測する。
中国は河北省に自動運転などの技術を注ぎ込んだスマートシティー(次世代環境都市)「雄安新区」を作る計画がある。自動運転の分野でも、これまで開発の中心地だった米国に対して中国勢が挑む構図が強まっている。
(上海=杉本要)
アリババ、家電と協業「人々の生活豊かに」
「機械に知能を持たせ、人々の生活を豊かにする」。上海市で先週開かれた家電・IT見本市「CESアジア」で、アリババAIラボを率いる陳麗娟総経理はこう話した。
天猫精霊はアリババが2017年に発売したスマートスピーカーで、独自の音声認識アシスタント「アリ・ジニ」を搭載する。
近距離無線通信「ブルートゥース」の新規格「ブルートゥースメッシュ」を使い、機器同士を低コストに接続できるのが特徴。出荷台数は中国を中心に300万台を超え、陳総経理は「天猫精霊は(中国)国内で首位、世界でも第3位のスマートスピーカーになった」と強調する。
同社はCESアジアで家電メーカーとの協業プロジェクト「天猫精霊AI連盟」の取り組みなどを発表。東芝の白物家電事業を買収した中国の美的集団やハイアール・グループ、米アイロボットといった電機大手と協業してAI家電の開発を進める。パナソニックもアリババとの協業を検討している。
AIを核に企業の囲い込みを図るアリババのプラットフォーム戦略は、同分野で2強の米アマゾン・ドット・コムや米グーグルと重なる部分が多い。
1月に米ラスベガスで開かれた“本家”のCESでは、冷蔵庫や照明などの家電から自動車まで2社の音声認識AIを使って操作する機能の発表が相次いだ。実用化で先行するアマゾンの「アレクサ」を、グーグルの「グーグル・アシスタント」が猛追する展開だ。
特にアレクサは北米を中心に車載システムへの対応が拡大しており、トヨタ自動車や米フォードモーターも北米の一部車種に搭載した。
車の音声操作はAIの言語認識能力や騒音対策などの課題があり、操作は一部機器に限られるのも事実だが、AI機能進化とともに搭載が拡大していくことは確実だ。
家電や自動車に限らず、デジタル技術を駆使した「知能化」が進んでおり、AIをはじめとするソフトウエアの開発が勝敗を分ける時代を迎えている。
百度の自動運転プロジェクトに100社以上参加
一方、百度はCESアジアで自動運転プロジェクト「アポロ(阿波羅)計画」の進捗(しんちょく)を発表した。韓国の現代自動車と連携し、屋外の特設スペースで自動車が自動で駐車する「自動バレー駐車」のデモを実施するなど存在感を示した。ブースでは約100社の参加企業のロゴを掲載したパネルに人だかりができていた。
アポロは米国の月面着陸計画にちなんで付けられた名称で、中国政府からも支援を受けている。その特徴はソフトウエアからハードウエアに至るまでシステムがほぼ開放される「オープンプラットフォーム」である点。
参加者は高精度地図やシミュレーション技術、深層学習(ディープラーニング)といった自動運転の要素を共有することで、実用化を早める。百度で自動運転部門を率いる顧維灝ゼネラルマネージャーは「アポロ計画は最もアクティブな自動運転プラットフォームだ」と主張する。
開発は清掃車や物流などの用途として時速10キロメートルで走る小型車と乗用車の2種類で進める。7月には限定空間の自動運転技術を量産化するほか、20年には高速・一般道路両方で完全自動運転の「レベル4」の実現を目指す。
百度はもともと米シリコンバレーに自動運転開発の拠点を設置して研究を進めてきた。シリコンバレーはグーグル系の自動運転開発会社「ウェイモ」のほか、トヨタ自動車など世界の自動車メーカーも拠点を置く自動運転の中心地だ。各社は自動運転に欠かせないAIのアルゴリズムの開発に巨費を投じる。
百度が母国中国でアポロ計画を立ち上げたのは17年春。当初は世界の自動車大手など約50社と立ち上げたが、わずか1年間で参画企業は100社以上に倍増。日本企業でもホンダやルネサスエレクトロニクスなどが加わった。日本の自動車部品大手幹部は「来年はさらに倍の規模になっているのでは」と予測する。
中国は河北省に自動運転などの技術を注ぎ込んだスマートシティー(次世代環境都市)「雄安新区」を作る計画がある。自動運転の分野でも、これまで開発の中心地だった米国に対して中国勢が挑む構図が強まっている。
(上海=杉本要)
日刊工業新聞2018年6月18日