甲田恵子アズママ社長 子育てシェアという最大の難所に挑む
シェアリングを創る人たち~価値の大変革~(3)
アズママは「子育て世代が助け合える社会をつくろう」という志のもとで、子育てシェアサービスを提供している。子育て世代が集まる地域内で託児や送迎などを助け合うことで、少子化や待機児童問題など社会課題の解決が狙いだ。ただ、子育てに関しては誰かとシェアし、子どもを他人に委ねることへの抵抗感は根強い。そのため、他のシェアリングビジネスとは異なる課題や難しさを持つ。企業としてビジネスを安定化できるかが、継続的に子育てを支援することにつながるため、収益性の向上も欠かせない。アズママの甲田恵子社長に子育てシェアで大切にしていることや独自の工夫を聞いた。
-子育てシェアはシェアビジネスの中でもハードルが高い分野ではありませんか。
「確かにそうかもしれません。ただ、むしろ『誰も頼れない』『自分一人で育てなくてはいけない』と自分自身を追い詰めていくのは精神的にもよくない。子育ては、一義的には親が行うものかもしれませんが、人間はコミュニティーを形成する生き物であり、そのコミュニティーの中で頼り合って子どもを育てていくという考え方もあります。加えて、少子化や待機児童など子育て支援が喫緊の課題となっていることも子育てシェアの利用を後押しするでしょう。子育てシェアはそうした社会課題を解決しつつ、新しいコミュニティーを創出するサービスです。現在の登録者数が6万人弱で、解決案件数約2万件まで拡大しています」
「また、子どもにとってもメリットは大きいはずです。子どもは構築されたコミュニティー内で多様な人に触れることで成長につながり、親は子どもの知らない一面を垣間見ることもできます」
-ベビーシッターとは、どんな違いがありますか。
「日本のベビーシッターはアンケートなどで『子育て支援のツールとして利用した』と答えた方が5%以下と、海外に比べて大幅に低い。ただ、低い理由は金額的なものではなく、知らない人が家に来るということへの抵抗感が強いためです。しかし、子育てシェアでは『子どもを親の友達の家へ遊びに行かせる』という感覚で利用できるサービスを目指しています。そのため、まずは、地域内で子育てをシェアできる人々が知人や友人になっていくことが重要なのです」
-実際、アズママの子育てシェアでは子どもを預ける人と、受け入れる人をどのようにマッチングしているのですか。
「地域で子育てシェアを促す認定サポーター『ママサポ』と会ってもらうことから始まります。ママサポとは自身も子育てシェアを利用しつつ、当社の託児研修などを受講した方々です。この中の4割程度が元保育士などで占めており、子育ての経験を有しています。子育てシェアは登録しただけでは誰ともつながりません。ママサポのメンバーを通して、知人や友人を作り、交流会などに数回、参加することで利用できるようになります」
-インターネット上のみで完結するマッチングを行わないのはなぜですか。
「我々は子育ての安心感や信頼感を最も大切にしています。そのため、ビッグデータなどを解析して、マッチングするというデジタル的なものではなく、子育て世代が集まる“リアルの場”での出会いに重きを置いています。利用者に自分の目で見てもらうように心がけており、素性が見えない方の利用を認めていません。提供者と利用者で信頼関係を築いてもらうために、イベントや交流会を提供しています。その代償として、子育てシェアのサービスは爆発的な速度で広がることはありません。それは信頼関係の構築には一定の時間が必要だからです」
-通常、シェアリングビジネスはマッチングの数などがビジネスの肝となります。
「子育てという分野であるため、通常のビジネススタイルでは通用しないのです。そのため、独自のビジネススタイルを構築する必要がありました」
「シェアリングビジネスは通常、登録会員料かマッチングなどトランザクション数ごとの手数料、広告料、アフィリエイト(成果報酬型広告)の四つに分けられます。しかし、当社のサービスはこのどれにも属しません。子どもを預ける人と、受け入れる人の間で1時間当たり500円の謝礼ルールを設定しているものの、それはあくまで利用者が気兼ねしないために設けていることです。当社は子育て世代の負担を減らすことを目的にしているため、登録料やマッチングの手数料などの費用を一切、徴収していません」
「また、全ての利用者に最高5000万円の保険が適用できるなど品質に最大限のコストを割いています。単純に利用者が増えればいいというわけではなく、安心・安全を最優先として健全に市場を形成するのが目的なのです」
-では、どのように利益をあげているのですか。
「交流会は生活や子育てに役立つ商品やサービスなどを持つ企業や商業施設と共同で実施しています。こうした企業や店舗を顧客として、来店やマーケティングを支援することで、利益を得ています。すでに年間2000回を超える開催を続けており、このビジネスモデルこそが当社の最大の特徴であり、強みになります」
-自治体との協業も増えていますね
「最近は、待機児童問題の解決を模索する自治体からの需要も増えています。自治体を中心とするケースは、実際に子育てシェアの市場がある地方自治体の予算を基に交流会などを実施します。すでに奈良県生駒市や秋田県湯沢市などと連携協定を結びました。企業を支援するタイプが主流でしたが、保育園を整備しきれない自治体なども市民間の共助によって、課題解決や多様なニーズに応える動きに変わってきているようです」
(文=渡辺光太、写真=編集委員・木本直行、デザイン=堀野綾)
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【03】甲田恵子アズママ社長 子育てシェアという最大の難所に挑む
【04】中山亮太郎マクアケ社長 進化するクラファン、金融機関や自治体へ拡大
-子育てシェアはシェアビジネスの中でもハードルが高い分野ではありませんか。
「確かにそうかもしれません。ただ、むしろ『誰も頼れない』『自分一人で育てなくてはいけない』と自分自身を追い詰めていくのは精神的にもよくない。子育ては、一義的には親が行うものかもしれませんが、人間はコミュニティーを形成する生き物であり、そのコミュニティーの中で頼り合って子どもを育てていくという考え方もあります。加えて、少子化や待機児童など子育て支援が喫緊の課題となっていることも子育てシェアの利用を後押しするでしょう。子育てシェアはそうした社会課題を解決しつつ、新しいコミュニティーを創出するサービスです。現在の登録者数が6万人弱で、解決案件数約2万件まで拡大しています」
「また、子どもにとってもメリットは大きいはずです。子どもは構築されたコミュニティー内で多様な人に触れることで成長につながり、親は子どもの知らない一面を垣間見ることもできます」
あくまでリアルの場を意識
-ベビーシッターとは、どんな違いがありますか。
「日本のベビーシッターはアンケートなどで『子育て支援のツールとして利用した』と答えた方が5%以下と、海外に比べて大幅に低い。ただ、低い理由は金額的なものではなく、知らない人が家に来るということへの抵抗感が強いためです。しかし、子育てシェアでは『子どもを親の友達の家へ遊びに行かせる』という感覚で利用できるサービスを目指しています。そのため、まずは、地域内で子育てをシェアできる人々が知人や友人になっていくことが重要なのです」
-実際、アズママの子育てシェアでは子どもを預ける人と、受け入れる人をどのようにマッチングしているのですか。
「地域で子育てシェアを促す認定サポーター『ママサポ』と会ってもらうことから始まります。ママサポとは自身も子育てシェアを利用しつつ、当社の託児研修などを受講した方々です。この中の4割程度が元保育士などで占めており、子育ての経験を有しています。子育てシェアは登録しただけでは誰ともつながりません。ママサポのメンバーを通して、知人や友人を作り、交流会などに数回、参加することで利用できるようになります」
-インターネット上のみで完結するマッチングを行わないのはなぜですか。
「我々は子育ての安心感や信頼感を最も大切にしています。そのため、ビッグデータなどを解析して、マッチングするというデジタル的なものではなく、子育て世代が集まる“リアルの場”での出会いに重きを置いています。利用者に自分の目で見てもらうように心がけており、素性が見えない方の利用を認めていません。提供者と利用者で信頼関係を築いてもらうために、イベントや交流会を提供しています。その代償として、子育てシェアのサービスは爆発的な速度で広がることはありません。それは信頼関係の構築には一定の時間が必要だからです」
子育て世代から費用を一切徴収しない
-通常、シェアリングビジネスはマッチングの数などがビジネスの肝となります。
「子育てという分野であるため、通常のビジネススタイルでは通用しないのです。そのため、独自のビジネススタイルを構築する必要がありました」
「シェアリングビジネスは通常、登録会員料かマッチングなどトランザクション数ごとの手数料、広告料、アフィリエイト(成果報酬型広告)の四つに分けられます。しかし、当社のサービスはこのどれにも属しません。子どもを預ける人と、受け入れる人の間で1時間当たり500円の謝礼ルールを設定しているものの、それはあくまで利用者が気兼ねしないために設けていることです。当社は子育て世代の負担を減らすことを目的にしているため、登録料やマッチングの手数料などの費用を一切、徴収していません」
「また、全ての利用者に最高5000万円の保険が適用できるなど品質に最大限のコストを割いています。単純に利用者が増えればいいというわけではなく、安心・安全を最優先として健全に市場を形成するのが目的なのです」
独自のビジネスモデル
-では、どのように利益をあげているのですか。
「交流会は生活や子育てに役立つ商品やサービスなどを持つ企業や商業施設と共同で実施しています。こうした企業や店舗を顧客として、来店やマーケティングを支援することで、利益を得ています。すでに年間2000回を超える開催を続けており、このビジネスモデルこそが当社の最大の特徴であり、強みになります」
-自治体との協業も増えていますね
「最近は、待機児童問題の解決を模索する自治体からの需要も増えています。自治体を中心とするケースは、実際に子育てシェアの市場がある地方自治体の予算を基に交流会などを実施します。すでに奈良県生駒市や秋田県湯沢市などと連携協定を結びました。企業を支援するタイプが主流でしたが、保育園を整備しきれない自治体なども市民間の共助によって、課題解決や多様なニーズに応える動きに変わってきているようです」
(文=渡辺光太、写真=編集委員・木本直行、デザイン=堀野綾)
シェアリングを創る人たち~価値の大変革~
【01】小泉文明メルカリ社長 個人売買の権限と能力を開放
【02】重松大輔スペースマーケット社長 空間と時間を価値として細かく再定義
【03】甲田恵子アズママ社長 子育てシェアという最大の難所に挑む
【04】中山亮太郎マクアケ社長 進化するクラファン、金融機関や自治体へ拡大
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