小泉文明メルカリ社長「個人売買の権限と能力を開放」
【連載】シェアリングを創る人たち~価値の大変革~(1)
シェアリングエコノミー(共有型経済)が既存の社会や経済の中で無視できない存在にまで高まりつつある。これまでの単純な生産や消費とは異なる経済活動として、世界中に拡大。急速な拡大は、未上場ながら企業評価額が10億ドル(約1100億円)を超える“ユニコーン”企業を生み出した。シェアビジネスを中心とするCツーC(消費者間)市場は現行の国内総生産(GDP)に反映しきれないほか、個人がプロの映画監督さながらの動画を撮り、個人のスキルや時間にまで値札が付く時代を迎えた。
今回はそうしたシェアリング時代を先導する開拓者にインタビュー連載で迫る。初回はメルカリの小泉文明社長兼最高執行責任者(COO)に聞いた。
-メルカリは世の中の何を変えたのでしょうか。
「ライフスタイルだ。何かモノを買うときにメルカリで対象物を検索して『メルカリで売れる(モノだ)から買おう』という声を町なかで聞く。こんな世界を作ることができたのは感慨深い。最近は40-50代にも広がっている。子どものお小遣い制をやめて、メルカリ(でもうけたお金をお小遣い)にしたなんて人もいる。『家のいらないものを売ってお小遣いにしていいよ』と。売ることを前提にモノを買って利用し、市場を“クローゼット”と捉える方もいる」
「モノの所有から一時的な利用に変わり、個人売買の可能性を広げたと感じている。シェアリングエコノミーやCツーCとはつまるところ、個人への権限付与・能力開化だ。会員制交流サイト(SNS)は個人に対して一方的な情報供給から多角的な情報の場を提供した。同じように、我々は個人に対してモノの売買における権限と能力を開放した」
-上場という節目を迎えました。
「新規株式公開(IPO)はただの資金調達でしかない。やりたいことは上場してもぶれない。可能性やチャンスが目の前にあったときに挑戦できる会社であり続ける。社会的責任という点でも変わらずに果たしていきたい。すでに個人間で売買ができるフリマアプリ『メルカリ』のダウンロード数は1億件を突破。多数の人々に利用されているため、非上場時から社会的な立場を考えてきた。今後も安心・安全を求めつつ、ライフスタイルを変えるような取り組みを進める」
-上場で得た資金は何に使いますか。
「米国のメルカリ事業や、メルカリで得たお金や信用を決済などに利用する金融事業『メルペイ』などに投資していく。米国事業は18年の流通月額が17年比で2倍に成長したが、まだ赤字が続いている。黒字化の時期はわからないが、引き続き広告宣伝費などに充てていきたい」
「また、メルペイ事業は単独では完成させることはできないだろう。実際に、決済が利用される飲食店や小売店などと協業する必要がある。今、そうした企業にとってのメリットは何かなど、サービスの構造を設計している。チャンスがあれば、他社への出資やM&A(合併・買収)も実施していくつもりだ」
-上場すると、赤字事業への投資やシナジーが見えにくいM&Aはやりづらくなるのでは。
「(米国事業などを含む)我々のビジネスはインターネット上で売り手と買い手の間で行われる取引が自律的に拡大し始める『ティッピングポイント』というものがある。これは事業が拡大し、過ぎ去ってみた後で『あそこがティッピングポイントだった』と結果的に分かるものだ。逆にそこまで投資が耐えられるかが肝心だ。日本のメルカリ事業も同様で、黒字化までに総投資額は数十億円を費やした。固定資産を抱えるビジネスではないので、ティッピングポイントを超えれば収益性が急伸する。要は胆力の勝負」
「さらにシナジーは狙いすぎてもだめだ。個人的な経験では挑戦する前から(シナジーを)狙うと思ったよりシナジーが創出できない。むしろ補強するのではなく、ある程度、単体事業の完全性を求めていくべきだろう」
-御社の競争力の源泉は何ですか。
「技術革新や流行の動きが速い業界のため、あらゆる可能性に対して即座に対応する必要がある。例えば仮想通貨は事業としては距離を置いている。だが、ブロックチェーン(分散型台帳)技術に対する期待は大きい。チャンスがあった時に挑戦したい。そのためにはマーケティングや経営判断のスピードも大事だが、1番はやっぱり技術力だ。スピードを意識して、技術力、つまり人材に投資ができる企業は多くない。世界と戦い、勝つためには技術力が生命線になる」
-米グーグルや米フェイスブックなども同様の思想を持っています。
「エンジニアが持つ技術力こそがアプリケーション(応用ソフト)の開発や人工知能(AI)の応用につながる。ただ、例えばグーグルの検索能力などは裏側で起動する技術は高度かもしれないが『その技術がすごい』とユーザーにひけらかしていない。それでいい。ユーザーはシンプルにサービスの利便性や使いやすさだけを感じることが大切だ」
-今後、企業規模が拡大する中では人材確保が課題になります。
「エンジニアだけでなく全業種を募集中だ。日本だけでなく、インドや英国など世界20カ国以上に採用地域を広げた。新卒など基本的な採用のほかに、自社でメディアなどで情報発信を行い、人材を発掘している」
「また、人材採用こそリアルの場が望ましい。そのため、交流を兼ねた勉強会や説明会などを多数実施している。直近ではベンチャーの広報担当者を約100人集めた。ベンチャーの広報の裏側を伝え、悩み相談を受ける場になった。そこで人材交流などが生まれればいいと期待している」
(文=渡辺光太、写真=森住貴弘、デザイン=堀野綾)
【01】小泉文明メルカリ社長 個人売買の権限と能力を開放
【02】重松大輔スペースマーケット社長 空間と時間を価値として細かく再定義
【03】甲田恵子アズママ社長 子育てシェアという最大の難所に挑む
【04】中山亮太郎マクアケ社長 進化するクラファン、金融機関や自治体へ拡大
今回はそうしたシェアリング時代を先導する開拓者にインタビュー連載で迫る。初回はメルカリの小泉文明社長兼最高執行責任者(COO)に聞いた。
ユニコーンがつくった「メルカリで売れるから買おう」という世界
-メルカリは世の中の何を変えたのでしょうか。
「ライフスタイルだ。何かモノを買うときにメルカリで対象物を検索して『メルカリで売れる(モノだ)から買おう』という声を町なかで聞く。こんな世界を作ることができたのは感慨深い。最近は40-50代にも広がっている。子どものお小遣い制をやめて、メルカリ(でもうけたお金をお小遣い)にしたなんて人もいる。『家のいらないものを売ってお小遣いにしていいよ』と。売ることを前提にモノを買って利用し、市場を“クローゼット”と捉える方もいる」
「モノの所有から一時的な利用に変わり、個人売買の可能性を広げたと感じている。シェアリングエコノミーやCツーCとはつまるところ、個人への権限付与・能力開化だ。会員制交流サイト(SNS)は個人に対して一方的な情報供給から多角的な情報の場を提供した。同じように、我々は個人に対してモノの売買における権限と能力を開放した」
-上場という節目を迎えました。
「新規株式公開(IPO)はただの資金調達でしかない。やりたいことは上場してもぶれない。可能性やチャンスが目の前にあったときに挑戦できる会社であり続ける。社会的責任という点でも変わらずに果たしていきたい。すでに個人間で売買ができるフリマアプリ『メルカリ』のダウンロード数は1億件を突破。多数の人々に利用されているため、非上場時から社会的な立場を考えてきた。今後も安心・安全を求めつつ、ライフスタイルを変えるような取り組みを進める」
胆力の勝負
-上場で得た資金は何に使いますか。
「米国のメルカリ事業や、メルカリで得たお金や信用を決済などに利用する金融事業『メルペイ』などに投資していく。米国事業は18年の流通月額が17年比で2倍に成長したが、まだ赤字が続いている。黒字化の時期はわからないが、引き続き広告宣伝費などに充てていきたい」
「また、メルペイ事業は単独では完成させることはできないだろう。実際に、決済が利用される飲食店や小売店などと協業する必要がある。今、そうした企業にとってのメリットは何かなど、サービスの構造を設計している。チャンスがあれば、他社への出資やM&A(合併・買収)も実施していくつもりだ」
-上場すると、赤字事業への投資やシナジーが見えにくいM&Aはやりづらくなるのでは。
「(米国事業などを含む)我々のビジネスはインターネット上で売り手と買い手の間で行われる取引が自律的に拡大し始める『ティッピングポイント』というものがある。これは事業が拡大し、過ぎ去ってみた後で『あそこがティッピングポイントだった』と結果的に分かるものだ。逆にそこまで投資が耐えられるかが肝心だ。日本のメルカリ事業も同様で、黒字化までに総投資額は数十億円を費やした。固定資産を抱えるビジネスではないので、ティッピングポイントを超えれば収益性が急伸する。要は胆力の勝負」
「さらにシナジーは狙いすぎてもだめだ。個人的な経験では挑戦する前から(シナジーを)狙うと思ったよりシナジーが創出できない。むしろ補強するのではなく、ある程度、単体事業の完全性を求めていくべきだろう」
技術力が生命線
-御社の競争力の源泉は何ですか。
「技術革新や流行の動きが速い業界のため、あらゆる可能性に対して即座に対応する必要がある。例えば仮想通貨は事業としては距離を置いている。だが、ブロックチェーン(分散型台帳)技術に対する期待は大きい。チャンスがあった時に挑戦したい。そのためにはマーケティングや経営判断のスピードも大事だが、1番はやっぱり技術力だ。スピードを意識して、技術力、つまり人材に投資ができる企業は多くない。世界と戦い、勝つためには技術力が生命線になる」
-米グーグルや米フェイスブックなども同様の思想を持っています。
「エンジニアが持つ技術力こそがアプリケーション(応用ソフト)の開発や人工知能(AI)の応用につながる。ただ、例えばグーグルの検索能力などは裏側で起動する技術は高度かもしれないが『その技術がすごい』とユーザーにひけらかしていない。それでいい。ユーザーはシンプルにサービスの利便性や使いやすさだけを感じることが大切だ」
-今後、企業規模が拡大する中では人材確保が課題になります。
「エンジニアだけでなく全業種を募集中だ。日本だけでなく、インドや英国など世界20カ国以上に採用地域を広げた。新卒など基本的な採用のほかに、自社でメディアなどで情報発信を行い、人材を発掘している」
「また、人材採用こそリアルの場が望ましい。そのため、交流を兼ねた勉強会や説明会などを多数実施している。直近ではベンチャーの広報担当者を約100人集めた。ベンチャーの広報の裏側を伝え、悩み相談を受ける場になった。そこで人材交流などが生まれればいいと期待している」
(文=渡辺光太、写真=森住貴弘、デザイン=堀野綾)
シェアリングを創る人たち~価値の大変革~
【01】小泉文明メルカリ社長 個人売買の権限と能力を開放
【02】重松大輔スペースマーケット社長 空間と時間を価値として細かく再定義
【03】甲田恵子アズママ社長 子育てシェアという最大の難所に挑む
【04】中山亮太郎マクアケ社長 進化するクラファン、金融機関や自治体へ拡大
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