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ディー・エヌ・エーはAIで“第二の創業”をなし得るか

自動運転やヘルスケアも狙う
ディー・エヌ・エーはAIで“第二の創業”をなし得るか

スマートフォンからタクシーを呼び出せる「タクベル」の実用化を目指す(タクベルを導入したタクシー)

 ディー・エヌ・エー(DeNA)は人工知能(AI)を武器に第2の創業を成そうとしている。得意のゲームだけでなく、新規事業として他社と連携するヘルスケア、オートモーティブ関連などでもAIを駆使して成長を図る。AIの活用が当たり前となる中、DeNAは自社のAI技術と他社の技術の使い分けや事業の幅広さを有利に使い「AIのよろず屋」となって存在感を高めたい考えだ。

 「インターネットと同じような存在になる」。守安功社長は、AIがいずれ社会や生活を一変させるツールになると確信し、2016年ごろからAIの研究開発や事業での活用を積極化した。

 同年10月には全社横断的にAIを使ったサービスを研究開発するAIシステム部と、AIによる新規事業開発を担うAI戦略推進室を設けた。

 AIシステム部は自前のAI基盤を開発するほか、ゲームやオートモーティブ、スポーツといった各事業のデータ分析担当者と連携してAIの事業での活用を推進している。

 システム本部の山田憲晋AIシステム部長は「DeNAはかねてゲームや電子商取引(EC)事業でビッグデータの分析を手がける。技術や人材面からもAIの利活用に向く」と胸を張る。

 近年は優秀なデータサイエンティストの採用や、社内でのAI人材育成にも熱心だ。4月からは社内での技術者育成の新制度も始めている。

 一般的にAI基盤などを開発する企業とAIを活用する企業は別だ。だが、DeNAはAI関連の技術を自前で開発しつつ、ゲームや創薬、自動運転といったさまざまな分野で自ら応用できる。

 加えて「ゲーム事業のようにAIをすぐ採用し試せる事業もあるし、オートモーティブなどパートナー企業と腰を据えて取り組むような事業へのAI活用もある。数多くのAI活用の場面を持つ」(AI事業推進室の村上淳室長)ことも、DeNAにとって有利に働く。

 DeNAは神奈川県タクシー協会(横浜市中区)と協力してスマートフォンからタクシーを呼び出せるサービス「タクベル」の実用化を目指す。車両情報と需要データをAIで解析し、タクシーがどこに必要かを予測するシステムを検証した。

 また、ヤマト運輸と取り組む自動運転車の利用を視野に入れた配送サービス「ロボネコヤマト」、塩野義製薬や旭化成ファーマ(東京都千代田区)との創薬など企業連携を盛んに進めている。パートナー企業や自治体の数は12を超える。これらコラボレーションでもAIを使った効率化や品質向上を行う。数多くの協業でAIを使うことで、得がたい経験値をためることができる。

 山田AIシステム部長によると、AI技術の利活用で問題になっているのは応用の部分、特にサービスでのAI活用の点で課題が多い。

 DeNAが多くのコラボレーションでAIを活用し成功例を出せば信頼度が増し、より多くの企業と連携できるようになる。そうすればより多くの事業で成長軌道を描ける。DeNAは自らのユニークさをフルに生かし、AIのことなら何でも分かる「よろず屋」的な立場を目指していく。

ゲーム事業で応用


 DeNAにとって、AIは相性の良いツールだ。DeNAはAIの活用に不可欠なIT系に強くビッグデータ(大量データ)も豊富。ヘルスケア、オートモーティブ、電子商取引(EC)など数多くの事業を持ちAIを使う舞台も整う。中でもゲーム事業は、AIを導入する妨げが少なく、試行錯誤するにはうってつけと言える。

 AIは早く実戦投入して経験値を得た方がライバルに差をつけられる。だが信頼性や安全性の保証が難しく、導入の難点となる。

 DeNAは各事業でAI活用を進める方針だ。AI導入の事業ごとの特性を見て進捗(しんちょく)のスピード感を判断する。例えば、パートナーと進めるオートモーティブ事業は信頼性などを重んじて中長期的な視野でAIによる利点創出を目指す。

 反対に、迅速にAIを採り入れやすい事業がゲームだ。不具合が出た場合のリカバーをしやすい。豊富なデータがありソフトウエア上で完結するためAI導入に向く。ゲームで最新のAI技術を積極的に試し、事業全体を効率化する。

 モバイルゲームの「逆転オセロニア」はオセロとトレーディングカードバトルを融合したもの。カードに書かれたキャラクターの特性を生かして、6×6マスの盤面でキャラが戦い陣地を取り合う。新しいカードを引くときの運も勝負を決める要素だ。

 現在、このゲームにAI技術を採り入れ、ゲーム運営を効率化する取り組みが進む。AI導入を担当するAIシステム部の奥村純氏によると、昨今のモバイルゲームは何年間も長期で運営するケースが多い。

 オセロニアは2016年にサービスを開始、近くダウンロード数が2000万件に届く。数多くのユーザーを飽きさせないコツの一つに「新しいキャラカードを増やして魅力を高める」(奥村氏)ことがある。

 だが、1枚のカードが圧倒的に強すぎるとゲームバランスを崩すことになる。どの程度の特性や強さを持たせるかのパラメーター調整が大事で、現在は熟練者の経験と勘で調整しているという。

 この作業をAIで効率化する。まずAIを二つ用意する。一つのAIに新キャラ予定のカードを持たせ、もう一方は持たせない。それらAI同士が戦い、対戦バランスに狂いがでないかチェックする。双方のAIに新キャラを持たせるケースなども含め、数十万回戦わせる。

 利用するAI技術は試行錯誤しながらこつをつかむ「深層強化学習」。対戦を繰り返すとカード運用が飛躍的にうまくなる。人があれこれ教える必要がないことが利点だ。

 DeNAは年内にもこのAI技術を実用化する考えだ。オセロニアのキャラは2000以上。もう人間がチェックできる範疇(はんちゅう)を超えている。奥村氏は「やってみるとAI活用は難しい」とこぼすが、ゲームで鍛えたAI技術を他の事業で使うことになれば苦労も報われる。

創薬プロジェクト 


 一方、再成長に向けた新規事業育成を進めている。新規分野のノウハウがないため、事業ごとにパートナー企業と連携し、DeNAと連携先が互いの良さを出し合う。

 これによりDeNAはオートモーティブ、マンガ・雑誌アプリケーションなど多分野を同時並行で育てられる。DeNAの持ち味はAIなどの先端技術を使いこなす力と連携ノウハウだ。

 「AIを使って事業の革新を遂げたい企業は多い。だが、どうAIを活用すれば最善かが分からず躊躇(ちゅうちょ)している」。AIを使ったサービスの開発を担うAIシステム部の山田憲晋部長はAIを巡る企業の状況をこう分析する。

 DeNAは、各事業部とそこに属するデータ分析家、AIシステム部が一体でAIに関わる。事業組織と研究開発組織が一緒にサービスを作り、運用する。

 技術課題が見つかると同時に解決策を探れるため、迅速にAIの導入や活用を進められる。必要な専門家もそろう。一般的なAIを扱う企業は事業と研究開発が分かれており、コミュニケーションで遅れをとる。

 DeNAと外部企業との連携は、AI戦略推進室がパートナーとAI活用の青写真を描き進める。現在は小規模を含め10―20のプロジェクトがある。

 同推進室の村上淳室長は「せっかくビッグデータ(大量データ)を持っていても活用しきれない企業は数多い。当社は社内外のAI技術を使いこなし、連携の経験値も豊富。AIで困ったら声をかけてもらいたい」とさらなる外部連携に積極的だ。

 だがまずは今ある連携先とのプロジェクトの成功が第一。成功事例あってこそ「DeNAと組むと得する」ことを衆知できる。

 注目される連携プロジェクトの一つが創薬だ。1月、DeNAは旭化成ファーマと塩野義製薬が持つ化合物データをAIで分析し、創薬の基礎研究でリード・オプティマイゼーションという工程の効率化を目指す共同研究を始めた。

 同工程は薬の候補となった化合物(リード化合物)が、体内でどう作用するかを分析する。肝臓への負担や、がんの影響はないかといった体内での安全性と有効性を検証する作業で、金利などを含めると創薬プロセスで最もコストがかかるという。

 製薬企業出身で同プロジェクトを担当するヘルスケア事業本部の佐野毅ディレクターは「同工程は臨床実験に入る前の重要なプロセス。

 だが、数多くのリード化合物を実験・分析して安全や有効性に問題があれば構造式を作り直し再挑戦するため手間がかかる。経験と勘も必要で難しい」と課題を挙げる。

 この工程をAIで効率化することがプロジェクトの使命だ。2年後にAIでの予測や構造式生成の効率化の実現を目指す。佐野ディレクターによると、大量データがあり科学的なルールにのっとる創薬とAIとの相性は良い。

 創薬コストの低減は社会的な意義も大きい。同プロジェクトを成功させることは、DeNAがAI連携を「やりきる力」を持つことを証明する良い機会となる。
  
日刊工業新聞2018年4月18、20、27日
石橋弘彰
石橋弘彰 Ishibashi Hiroaki 第一産業部
DeNAとAI。この組み合わせで気になるのは、プロ野球のDeNAベイスターズや駅伝など、スポーツ事業への展開だ。いまのところ何も表には出ていない。だが、AIが得意とする画像や音声の認識、データ解析などの昨機能はスポーツ全般で生きるものだ。選手の技術や体力の向上、観客への演出やサービスなど、いろいろな場面でAIが活躍できるだろう。具体的な取り組みを早くみたい。

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