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人気行楽施設には空調工事会社のノウハウが詰まっている

文化施設は展示品の管理ための工夫も
人気行楽施設には空調工事会社のノウハウが詰まっている

質の高い音響と快適さを両立(東京文化会館)

 今年のゴールデンウイークも、各地の大型商業施設や観光スポットがにぎわいをみせた。多くの来場者が快適に買い物や食事を楽しむためには、空調設備の役割が大きい。文化施設では展示品を管理するのに空調にも工夫が凝らされている。空調工事会社の技術やノウハウから、人気施設の裏側を探る。(孝志勇輔)

GINZA SIX 飲食店に植物性脱臭液


 高砂熱学工業が手がけた大型複合施設「GINZA SIX(銀座シックス)」は開業から1年を迎え、銀座を代表する人気スポットだ。商業エリアには有名ブランド店をはじめ、200以上のテナントが入居しているが、空調工事前には個別に綿密な打ち合わせを重ねた。

 高砂熱学が利用したのが自社のCADソフトウエア。3次元(3D)の画像にも変換でき、タブレット端末に表示しながら、空調機や点検口の位置を決めた。

 飲食店が入居することによる課題にも技術力を生かして対応した。周囲にはオフィスビルが立ち並んでおり、厨房(ちゅうぼう)からの排気対策が欠かせない。そこで植物性の脱臭液を利用した装置と排気を屋外に出す速度を高めるジェットノズルを屋上に設置した。

 一般的に脱臭装置にはセラミックが使われる。しかし経年劣化してしまう課題があった。そのため、効果が持続する脱臭液を噴霧する同装置を導入した。飲食店の盛況を同社が黒子として支えている。

【施設メモ】ファッションを中心に店舗が入居し、6階に飲食店が集中している。能楽堂も設けられており、日本の伝統文化を発信する。このほかにオフィスフロアが整備され、1フロアの貸室面積は都内最大級を誇る。


東京都現代美術館 無線センサーで温度把握


 美術館の空調には訪れる来場者に加えて、展示品や収蔵品の状態を踏まえた制御が求められる。特に湿気は大敵だ。作品にカビが生えてしまったり、ひびが入ってしまったりする可能性もある。

 ジョンソンコントロールズ(東京都渋谷区)は、東京都現代美術館(同江東区)の設備更新工事で、作品を守る空調を徹底した。「(作品は)人とは違って『暑い、寒い』を示さない」(ジョンソンコントロールズ)だけに空調が難しい。湿度管理が肝で、除湿するには冷房を利用し、下がってしまった温度を暖房で戻すなど、きめ細かく制御している。

 一般的に美術館が作品を借りて展示している。作品の所有者は館内の湿度などの条件にこだわるという。

 また、企画展のスペースにはセンサーを利用し、温度や湿度を把握できるようにしている。常設展とは違って、企画展では作品の展示位置が変わってしまうためだ。仕切りの設置場所の変更に柔軟に対応できる。

【施設メモ】敷地面積が約3万3500平方メートル。地上3階、地下3階の建物で、現代美術の振興を目的に、約5000点の収蔵作品と約10万冊の図書資料が保管されている。ワークショップなども開かれている。


東京文化会館 音が出ない送風システム


 新日本空調は前川建築設計事務所(東京都新宿区)が設計した東京文化会館(同台東区)の空調改修工事に携わった。著名な演奏家によるクラシック音楽のコンサートをはじめ、数々の公演が開かれ、音響に定評がある。空調の稼働音にも細心の注意を払う必要があった。

 新日本空調首都圏事業本部リニューアル事業部の桑原哲副事業部長は「(空調の)音が出ないように送風システムを調整した」と説明する。しかも大ホールの収容人数が一般的なホールと比べて約2倍と多く、天井の照明に近いバルコニー席は温度が上がってしまう。ホール内の温度を一定に保つ必要があるが、送風音がネックになってしまう。「風を吹かせずに温度を均一に調整するのは大変」(桑原副事業部長)で、湿度を下げて暑さを感じにくくした。

 新日本空調は微風を測れる3次元超音波風速計やサーモカメラなども利用した。風速や温度の分布も徹底的にこだわって、質の高い音響と観客の快適さを両立した。

【施設メモ】JR上野駅に隣接し、敷地面積が約1万400平方メートル、延べ床面積が約2万2600平方メートル。大ホールの客席数が約2300席。国内外のオペラやバレエ、オーケストラなどの団体が公演を開いている。


新潟競馬場 雪国ならではの課題解消


 新潟競馬場(新潟市北区)のコースの内側に、レースの模様や着順を表示する「ターフビジョン(映像装置)」が設置されている。1060インチの大画面で、内部では冷房設備が稼働している。観客席の熱気と同様に、冷房が止まってしまうと、温度が50―60度Cに上昇してしまうという。装置が故障しないために空調が必要で、ダイダンが工事を手がけた。

 ターフビジョンに同設備が22台導入されており、冷房能力が約100キロワット。奥行きがあまりない構造だったが、技術や経験を生かしながら工事を進めた。室外機には雪対策も施しており、雪国ならではの課題を解消した。

 こうした設備を的確に管理できるように、温度や湿度の状況をセンサーで遠隔から把握できる仕組みも取り入れた。ターフビジョンの不具合にもスムーズに対応する。表示される出走馬の様子や着順に目を奪われてしまいがちだが、内部の同設備がレースの進行に一役買っている。

【施設メモ】コース(外回り)の1周が2223メートルで、国内唯一の直線競馬も行われている。夏場にかけてもレースが開催されており、競馬ファンが詰めかける。ポニーの試乗会やゴーカートなどで、子どもも楽しめる。
日刊工業新聞2018年5月8日
葭本隆太
葭本隆太 Yoshimoto Ryuta デジタルメディア局DX編集部 ニュースイッチ編集長
美術館の空調環境について、アメリカ空調学会は温度18.5~22.2℃、相対湿度50~55%と厳しい基準を示しているそうです。その上で、空調の気流が美術品に当たらないようにしたり省エネにも配慮したりした設計を行うなど、文化施設は空調工事会社にとってはまさに腕の見せ所です。

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