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健康診断の提出で2割引きも。大手参入で「健康増進保険」は広がるか

国の医療費や介護費の圧縮に期待も
健康診断の提出で2割引きも。大手参入で「健康増進保険」は広がるか

「ジャスト」を発表する第一生命の稲垣精二社長(左)

 定期的な運動など健康を増進させる活動にインセンティブを与える新型の生命保険が、2018年度に本格普及しそうだ。第一生命保険は健康診断を提出するだけで保険料が安くなる保険「ジャスト」を3月末に発売。住友生命保険も、海外で実績を持つ健康増進保険「バイタリティー」を7月にも発売する。明治安田生命保険や日本生命保険も同種保険の発売を計画。健康増進保険は従来もあったが、知名度は低く加入者もまだ少ない。大手の参入で市場は広がるか。

一石投じる


 死亡や病気に対し保険金が支払われる一般的な生命保険は、加入時の審査を通れば保険料は年齢や性別で決まる。食事や運動を通じ健康に気をつけている人も、自堕落で不健康な生活をしている人も保険料を算定する上で同じ扱いになっており、「保険に加入しているから健康なんて気にしない」と考える人も一部に存在する。

 健康増進保険は、この状況に一石を投じる商品だ。定期的な運動などにより保険料の割り引きやキャッシュバックがあるため、保険契約者の健康増進活動を促す。健康に気をつける人は生活習慣病にかかるリスクが低いことが多く、保険金の支払いも減少。さらには国民の健康度が広く向上することで、国の医療費や介護費の圧縮につながる期待もある。

コンセプト進化


 健康増進保険を業界で先んじて発売したのが、東京海上日動あんしん生命保険や第一生命グループのネオファースト生命保険だ。あんしん生命の「あるく保険」は、ウエアラブル端末とスマートフォンを使い、定期的なウオーキングに対し還付金を支払う。ネオファースト生命の「からだプラス」は、健康診断の数値などを元に「健康年齢」を算出、健康状態が良ければ、実際の年齢より保険料が割安になる。

 損保系生保では損保ジャパン日本興亜ひまわり生命保険も、健康増進活動により保険料を割り引く収入保障保険「リンククロスじぶんと家族のお守り」を4月2日に発売。病気やケガによる収入の減少をカバーする商品で、加入後に禁煙するか、身長と体重のバランス(BMI)、血圧などを改善すれば保険料が最大3割安くなる。いずれも保険代理店を中心に販売しているが、本格的な普及には至っていない。

 ネオファーストが作った「健康診断で保険料を割り引く」というコンセプトをさらに進化させたのが、第一生命の「ジャスト」だ。契約時に健康診断を提出するだけで保険料を割り引き。体格指数(BMI)や血圧、血糖値などが基準を満たしていれば、最大20%割り引かれる。稲垣精二社長は「健康診断割りを通じて顧客の健康づくりをサポートしたい」と開発の狙いを語る。

海外で先行普及


 海外で先行普及しているのが、住友生命の「バイタリティー」。南アフリカの同業ディスカバリーが開発した健康増進保険で、日本では住友生命がパートナーとなり販売する。同保険はスポーツジムを運営する企業などと連携するのが特徴。加入するとジムの利用料などが割り引きされる。割引率は数%といった小さいものではなく「海外をロールモデルにして、数十%程度というエッジの効いた割り引きにする」(住友生命)考え。さらにこれらの行動をポイント化し、一定数ためることで翌年の保険料が変化する。

加速度的な普及


 明治安田生命も19年4月に健康増進保険を発売する。詳細は今後詰めるが、根岸秋男社長は「当社らしい健康増進保険にしたい」と思いを巡らせる。日本生命も健康増進保険の研究を進めている。

 これまでの健康増進保険は代理店を通しての販売のみであり、知名度や普及も限定的だった。だが、大手4社が持つ約15万人の営業職員で販売すれば、加速度的な普及も期待できる。

生活様式の変化


 各社は健康増進保険を通じ、若年層を中心とした新市場の開拓を見据えている。共働き世帯の増加などライフスタイルの変化もあり、1980年代に約5割だった20代の保険加入率は足元で2割近くまで低下。健康増進保険は商品自体を通じて新たな価値を提供するだけでなく、健康診断データの提供や、キャッシュバックの請求などを通じて接点が増え、新たな保険加入につながる効果も期待できる。健康増進活動に熱心な契約者は、将来の保険金の支払いが少ないと見込まれるため、優良顧客の囲い込みにもつながる。
定期的な運動で保険料の割り引きなどがあるため、契約者の健康増進活動を促す
日刊工業新聞2018年5月4日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
ただ、結果的に健康状態が良い加入者を優遇してしまう健康増進保険は、健康面で不安を抱える弱者の切り捨てにつながり、生命保険が持つ相互扶助の精神に反するとの意見も根強い。保険が本来持つ役割をきちんと守りつつ、国民の健康意識を喚起するような、バランスの優れた商品開発が求められている。 (日刊工業新聞社・鳥羽田継之)

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