仕事のチームワークはアリに学ぼう

女王はむしろワーカーの奴隷だ/虫の声を聞け!(1)長谷川英祐さん

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 エサを運ぶアリを見て、「がんばって働いてるな」と思ったことはないだろうか?働いているのは人間だけではない。いつもと違う角度から働くことを考えてみよう。識者4人に驚きに満ちた虫の活動を聞いた。第1回目は進化生物学者で北海道大学大学院農学研究院准教授の長谷川英祐さん。

働かないアリもいる


 -働き者のイメージのあるアリですが、7割が働いてない瞬間もあるそうですね。
 「アリは個体間で〈働きやすさ〉に違いがある。働きたくないアリではない。どの程度の刺激を受ければ働き始めるかが個体によって違う。例えば、子どもが泣きはじめて、すぐに世話をするアリと、しないアリがいる。世話が間に合わなかった子どもは、もっと大声で泣く。すると、次に敏感なアリが世話を始める。そうやって働くアリが増え、疲労したアリは交代する。『閾(いき)値分散システム』のメリットだ」

 -指示役がいなくても労働力を調節できるのは効率的ですね。
 「もうひとつ見事な例がある。ハチの研究では、巣の材料のパルプを運ぶ個体はパルプを巣作り役に渡し、もう一度取りに行っていた。だが、パルプを受け取る役がいなければ、運び役が巣作りに回る。待ち時間の長さで役割を変えている」

 -効率的なやり方を人間の組織に応用できませんか。
 「人間は難しい。働きアリや働きバチはみんな女王の娘で、女王を通して遺伝子を残せる。働いていない個体がいても気にしない。だが、人間は血縁がなく、誰かが働かなければ不利益を感じる。ただ、考えはある。ごく一部の人の社長賞よりも、能力別の細かな階級の中で成果を出した人を表彰するといいのではないか。また、上にくだらない人がいると集団はだめになるため、人間にも下が上を選ぶサイクルがあれば、全体のパフォーマンスを上げられる」

長谷川英祐さん

女王は偉くない


 -アリやハチの女王が全く偉くないのは、人間と違いますね。
 「女王は卵を産むだけで、集団を統治しない。アニメとは違う。しかも、子どもの雌雄の比率は、娘であるワーカー(働きアリや働きバチ)が自分の利益になるようにオスの卵を食べて、比率を調整している。女王はむしろワーカーの奴隷だ」

 -どんな仕組みですか。
 「アリやハチは、女王が1回しか交尾しない場合、父と女王の両方の遺伝子を持つ受精卵はメス、女王だけの未受精卵はオスになる。オスの遺伝子の量はメスの半分。女王にとって娘も息子も血縁の濃さは同じで、雌雄半々で卵を産む。だが、娘ワーカーから見て、妹は平均で4分の3、弟は4分の1の遺伝子を共有する。血縁の濃い妹が多い方が自分の遺伝子を残す点で有利なため、ワーカーはオスの卵を食べて、オスを全体の4分の1にしている」

働かないアリがピンチを救う!


 -昆虫から学べるチームワークのこつはありますか。
 「誰が働いているか、働いていないかを気にしないことだ。それぞれ貢献できる場所が違う。目立った活躍をしていなくても、ピンチの時に素晴らしいアイデアを出し、会社を救う人もいる。私が調べた中で、普段働かないアリが、みんなが疲れた時に、誰かが必ずやらなければならない仕事をやるからコロニー(集団)が長続きしていた。一方、人間は単純な作業でも能率的にやるなど、さまざまな貢献を給料で評価する必要がある。また、誰と誰を組み合わせられるかなどの点で、中間管理職にまともな人を置くことが重要だ」

 -アリは普段は働いていない個体のおかげで集団が長続きする一方、人間は常に高い効率を求めています。
 「そんなことを続けては、死んでしまう。全員が精いっぱい働くことは無理だと、居酒屋チェーンなどの労働問題からわかる。人が離れ、持続性がなくなる。刑事ドラマに『事件は会議室で起きているんじゃない。現場で起きているんだ』というせりふがあるが、会社も現場が動かしている。管理職は現場がスムーズに働けるようにするのが役目だ」

アリ1匹ずつをマーキングし、行動を観察、研究している(山本達紘氏撮影)

新しい発見の楽しさ


 -昆虫の魅力は何ですか。
 「研究室では他の生き物も研究するが、昆虫は野外にたくさんいて、しっかりデータを集められる。新しいことを発見するのが、科学の楽しさ。一種のエクスタシーだ」

 -今後、どんな研究をしていきますか。
 「生物は群集の中で、いろいろな関係の中で生きている。だが、どの関係が重要か、今はわかっていない。現在、どの関係が群集を維持するために重要かがわかる研究をしている。これができると、何が滅びるとダメで、何が滅びても大丈夫かわかってしまう」

次はダーウィンに挑む


 -生物学に新しい視点を与えそうですね。
 「研究生活の最後に、増殖能力の高い生物が増えるという、ダーウィンの唱えた生物適応進化と逆のことを示したい。ダーウィンの考え方の通りに、増殖効率が高い生物が選択されて残るならば、どんなに残り資源が少なくても多くの資源を使って増える生物が残る。資源を使い果たせば絶滅してしまうが、地球上の生物は40億年間、滅びていない。このことから、自然選択とは別に、生物の絶滅を回避するメカニズムがあると考えている。だいたいわかってきた。そのメカニズムは、ニュートン力学と相対性理論との関係と同じように、自然選択説の上のパラダイムに存在しているはずだ」

 

【略歴】1961年生まれ。85年東邦大理卒。民間企業に5年間勤務後、東京都立大学(現首都大学東京)で生態学を学ぶ。95年博士課程修了。東京都出身、56歳。著書に、ベストセラーとなった「働かないアリに意義がある」(メディアファクトリー新書)などがある。
 趣味の一つは映画鑑賞で、北野武監督作品などを好む。映画の中に隠されたメッセージがわかった瞬間の喜びは、「科学の新しい発見と同じ」と話す。

日刊工業新聞2018年5月1日

COMMENT

梶原洵子
編集局第二産業部
記者

虫と働き方…?意外な組み合わせですが、知れば知るほど虫はおもしろい存在。個性的な4人の話から、何か一つでも新しい発見をしてもらえればうれしいです。

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