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“クルマ下請け”大変革、中小4社の実像を追う

“クルマ下請け”大変革、中小4社の実像を追う

古賀金属工業はコイル材を用いたプレス加工などを手がける

**【睦特殊金属工業】樹脂製品、伸び顕著
 睦特殊金属工業(東京都町田市、池田修二社長)は、粉末冶金と樹脂成形で自動車部品や含油軸受などを製造する。1社で金属と樹脂、両方に対応できるのが強み。金属と樹脂を合わせたインサート成形にも対応する。

 同社でも自動車業界の変化を受け、電気自動車(EV)関連の部品は注文が増えており、工場の稼働率は高まっている。センサー部品やコネクターなどの樹脂製品の伸びは顕著で、品目によっては数量が50%程増えた部品もあり、全体的に売上高も増加傾向だ。

 同社は1994年、中国に合弁会社を設立した。多品種少量生産の国内に対し、中国では大型製品や大量生産に向く製品の生産体制を構築する。

 池田社長は中国でのEVの盛り上がりを目の当たりにするが、それでも「EVシフトが本格化するのはまだ先ではないか。EVの展開を見定めるため、情報を集めている」と話す。

 一方で、中核事業である粉末冶金については、「自動車のエンジン部品量は多いが、EV化による変化でモーターの部品点数は相当減るだろう」と危機感を募らせる。

 粉末冶金の市場は大きな成長は見込めない中、「中小企業は淘汰(とうた)されていく」予想。同業はM&A(合併・買収)を積極的に進めており、業界の変化に備える。

【古賀金属工業】電動化の情報収集


 古賀金属工業(福岡県八女市、古賀幸司社長)はプレス加工による自動車部品製造や金型設計を手がける。製品にはマフラーやエンジン関連もある。自動車の電動化の流れに対し、古賀雄大取締役は「環境に合わせてシフトしていく体制を整えなければ」と語る。ただ、現状は「(電動化対応への)情報を取りに行っている段階」。製造ラインや金型設計の現場での具体的変化には至っていない。

 背景の一つには九州にある完成車メーカーの動向がある。トヨタ自動車九州(福岡県宮若市)や日産自動車九州(福岡県苅田町)などで生産する車種は、ガソリン車やハイブリッド車が主体。現状では電動化の流れを「実感に乏しい」と口にする。

 現在、生産設備のネットワーク化による稼働状況の収集、分析を進めている。少人数体制での生産性向上が主な目的だが、今後、九州でEV生産の動きが加速すれば、完成車メーカーの要求に合わせた供給体制構築の必要性を感じている。

【アポロテック】製造範囲広げる


 アポロテック(横浜市都筑区、齋藤孝行社長)は、フォーミング加工による曲げ形状の自動車部品を手がける。ブレーキ関連の部品やゴムホースとパイプとを締結するホースクランプなどを数多く製造する。電動化でブレーキ構造の変更やオイルホースが不要になるなど、既存部品の需要が落ち込むと予想される。

 齋藤社長は「来年、再来年に多くの車がEVに切り替わるほど国内の環境は整っていない」と指摘する一方、「他社同様、将来に向けてEV関連の試作などに関与していくことが必要」と主張する。同社はEVなどに搭載するDC/DCコンバーターの周辺部品の試作品も開始した。

 また、専門のフォーミング加工だけでなく、金属加工全体の知識やノウハウの蓄積にも努める。将来的に「自社以外の専門業者に加工を依頼するなど、加工集団のまとめ役のような存在になりたい」と明かす。対応できる製造範囲を広げることで、ビジネスチャンスを広げる狙いだ。

【繁原製作所】EV向け部品提案


 繁原製作所(大阪府東大阪市、繁原秀孝社長)は、2月に約1000万円を投じ、精度の高い歯車を作るセンター穴研削盤を1台導入した。同社は歯車部品の試作メーカー。EV向けの減速機も試作する。本来、EVに減速機は必要ないものの、減速機のギアを切り替えてモーター効率の良い領域を使えば、EVの電力効率が高まる。

 繁原秀和取締役は、設備導入の理由に「音への対応」を挙げる。加工物(ワーク)を切削し、熱処理するとワークが歪む。歪みを残したまま加工基準となるセンター穴をつかみ研削すると、歯車に求める高い精度が出ない。「精度が悪いと歯車同士がかみ合った時に金属音が発生」し、車内に騒音として響く。

 そこでセンター穴研削盤を使い、穴を数マイクロメートル(マイクロは100万分の1)の精度で加工する。ギアの歪みやぶれが修正され、騒音を抑えられるという。取引先に「高精度の歯車ができることをアピール」し、受注拡大につなげる考えだ。
日刊工業新聞2018年4月20日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
100年に一度と言われる大変革が自動車業界に訪れている。電動化や自動化、環境対応などに併せ、自動車の仕組みや構造、部品に加え、周辺システムも大きく変わろうとしている。この流れはメーカーとともに歩んできた中小・中堅の下請け企業にも影響を与えつつある。各社は何を重視し、どう変わろうとしているのか。

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