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AIベンチャー育成・誘致は産業競争力に直結!

今、問われる国の戦略
AIベンチャー育成・誘致は産業競争力に直結!

有望企業の一つ、ABEJAの岡田陽介社長

 経済産業省が描く産業の未来像「コネクテッド・インダストリーズ(CI)」では、若きベンチャー企業が重責を担う。イノベーション(技術革新)の速度が過去と比較できないほど高まり、ベンチャーならではの機動力が生きるからだ。特に人工知能(AI)やIoT(モノのインターネット)など、重要技術を手がけるベンチャーをどれだけ育成・誘致できるかは、産業競争力に直結する。国の戦略が問われている。

 「コネクテッド・インダストリーズの牽引役になってほしい」-。世耕弘成経産相は2017年春にCIを発表して以来、何度も有力ベンチャー経営者と懇談。その度に、各社へ新産業のリーダーとしてさらなる飛躍を求めている。CIは企業間連携や非連続的なイノベーションなどにより、新たな価値を生む戦略。とりわけイノベーションの担い手として、ベンチャーにかかる期待は大きい。

ABEJAはAIの基盤づくりで実績


 有望企業の一つが、独自のAIプラットフォーム(基盤)を展開するABEJAだ。AI技術を、あらゆる企業が利用できるプラットフォームとして商品化し、データの収集・解析システムなどを簡単に構築できるようにした。実装の速さなどが評価され、製造業大手をはじめ100社以上の顧客を相手に、実績をあげている。

 設立は2012年9月。当時と比べると、「AIの市場認知度が相当高まってきた」と岡田陽介社長は手応えを口にする。基盤提供型の「ABEJA Platform」と、業界特化型パッケージサービス「ABEJA Insight」が2本柱。今後はABEJA Insightで小売り、製造といった分野の中小企業を深耕することで、「一気に売り上げを伸ばせる」(岡田社長)とさらなる成長を見込む。

政策パッケージ「J-Startup」


 1月、経産省はAI、IoT、ロボットなどさまざまな先端分野を代表するベンチャー経営者と、新たな支援策を議論した。これを踏まえ、技術やビジネスモデルの面で将来有望な企業を選定し、官民連携で集中的に支援する政策パッケージ「J-Startup」を取りまとめることとした。

 官の側からは優先枠や加点制度などを通じ、資金支援や規制緩和など諸施策を活用しやすくする。また、協業機会の提供や専門家による伴走支援など、民からのアプローチも促し、あらゆる角度から事業拡大を後押しする戦略だ。この仕組みにより「ベンチャー支援のエコシステム(複数の組織が連携し共存共栄する仕組み)を形成したい」とCI関連施策を推進する河野孝史情報経済課長補佐は意気込む。将来的に、評価額が10億ドル以上の超優良ベンチャー「ユニコーン企業」を日本から多数輩出することが狙いだ。

国際競争も激しく


 ベンチャー育成をめぐり、国際競争も激化している。例えば、フランス政府が進めるベンチャー育成策「フレンチテック」。支援機関、投資家、起業経験者などで構成するベンチャーコミュニティーが〝超成長期〟の企業を選び集中支援するなど、世界に先駆けた取り組みを展開する。選定企業は資金、海外へのPR、人材雇用といった支援メニューを1年間活用可能。既に約200社がこの施策を利用している。

 海外起業家をこの支援パッケージの対象に含むなど、施策をグローバル化しているのも特徴だ。実際、パリ市内の年間創業数が1000件を超え欧州大都市でトップ級に躍り出るなど、その成果は著しい。「フランスに先を越された感がある」(国内ベンチャーキャピタル関係者)といった声も上がる。

 言うまでもなく、米国ではシリコンバレーを中心にベンチャー発のイノベーションが加速。また、中国でも深圳市などに世界中から起業家が集まり、エコシステムが形成されつつある。第4次産業革命で世界が激変する中、IoTやAIなど重要技術を担うベンチャーの育成・誘致は、国の急務だ。CIを旗印に、経産省がどれだけ大胆に施策を実行できるかがポイントとなる。
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
ディープラーニング技術を使って、具体的にどんなことができるのか? ABEJAのウェブサイトでそれがよくわかります。ぜひ検索してみてください。

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