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老舗の中小印刷会社が確信した、「SDGs」からのビジネスチャンス

大川印刷、社会の課題を解決する印刷目指す
老舗の中小印刷会社が確信した、「SDGs」からのビジネスチャンス

SDGsについて話し合う社員

 「これ、いいな」。大川印刷(横浜市戸塚区)の大川哲郎社長がSDGs(持続可能な開発目標)を理解した瞬間の感想だ。それまで名前は知っていたが、2017年春の国際会議でSDGsがあらゆる課題解決につながると分かった。

 同社の創業は1881年(明14)、従業員は約40人。2005年に“ソーシャル・プリンティング・カンパニー(社会的印刷会社)”になると宣言し、企業の社会的責任(CSR)に力を注いできた。

 本業を通した社会課題解決を目指してきたが、10年ほどして「印刷だけでは限界がある。印刷のメリットを生かした課題解決があるはずだ」と感じた。

 例えば、地域課題解決プロジェクトを立ち上げると、その活動を知らせるチラシが必要となって印刷の需要が生まれる。従業員には「『印刷の仕事をしたいなら、CSRをしなさい』と言ってきた」という。

 そのため国際会議でSDGsを理解すると「本業を通した課題解決のアイデアを枯渇させない」と直感。すぐに経営計画にSDGsを取り込もうと従業員との議論を始めた。

 ただし「言いっ放し、一方通行にしない」と手を打っている。取り組みたいテーマが同じ社員が集まる活動を開始。毎日、社員が発表する場も設けた。

 すでに本業に効果が出ている。同社は生態系や地域社会に配慮した調達を示す森林管理協議会(FSC)認証の紙を調達している。

 全使用量の3割がFSCに達していることが評価され、環境非政府組織(NGO)を顧客に持つ外資系企業との新規取引が実現した。SDGsの目標12(持続可能な生産・消費)に貢献したい思いをNGOや外資と共有でき、事業につながった。

 紙をくくる金属製の輪に代わりに紙製リングを採用した卓上カレンダーは、他の外資系企業の目にとまって公式カレンダーに選ばれた。廃棄時に輪と紙を分離する手間を省けるだけでなく、目に不自由がある人でも読みやすいデザインも評価された。

 市民団体や不動産会社と協力して作成した4カ国語の薬手帳も、大企業や大使館に購入してもらっている。言葉の通じない外国人に重宝されている。

 大企業が次々とSDGsへの貢献を宣言しており、SDGsを基準とした取引が広がりそうだ。中小企業がSDGsに取り組むことは「大企業から発注を受ける準備となる」とビジネス機会と確信する。そして「中小企業からイノベーションが起きる」と強調する。
日刊工業新聞2018年3月27日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
「印刷の仕事をしたいなら、CSRをしなさい」。そう言われて、社長の意図をすぐに理解できる社員がいる会社ってすごいと思います。社会の課題を解決する印刷(森林認証紙、ユニバーサルデザインのカレンダー・・)が、大企業と取引を始めるきっかけになっています。中小企業もSDGsを知っているとビジネスチャンスを獲得できます。

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