ニュースイッチ

METI

安倍首相が国際会議で紹介したニッポンの高度外国人材

産総研研究員のソマワンさんにみる“内なる国際化”
安倍首相が国際会議で紹介したニッポンの高度外国人材

クンプアン・ソマワンさん(真は産総研LINK No.11より)

 人材は幅広く集めてこそ競争力を高められる。これは国内であれ、世界であれ変わりは無い。特に経済がグローバル化し、競争環境のボーダーレス化が進む現在であれば尚更だ。たとえ国内に拠点を構えていようが、人材は世界から集めなければ戦えない。“内なる国際化”は日本企業の競争力を測るメルクマールの一つである。

最先端分野に世界のトップクラスを


 「彼女のような方に暮らしやすく働きがいがあって、優しい日本にしていきたい」。昨年6月、安倍晋三首相は国際交流会議の晩餐会でのスピーチで、クンプアン・ソマワンさんを紹介しながら、こう強調した。彼女は国立研究開発法人産業技術総合研究所で、半導体の小規模生産に適した新しい製造技術「ミニマル・ファブ」の開発に取り組んでいる研究員だ。最先端分野になればなるほど、世界からトップクラスの人材を呼び込まなければ研究は効果的に進まない。だからこそ「この開発に不可欠だったのが、クンプアン・ソマワンさんでした」と安倍首相は言い切った。

 日本は世界から人材を集められるのだろうか。2017年6月末現在、わが国の在留外国人数は約247万人に達する。そのうち「専門的・技術的分野」の在留資格を有する外国人は約29万人と、過去最高を記録した。政府は高度な技術や知識を持った人材を海外から更に呼び込むため、外国人が家族で安心して暮らせるような生活環境の整備や外国人子弟の教育環境の充実、英語で生活情報を閲覧できるポータルサイトの整備なども進めている。

最短1年で永住許可も


 「外国人患者受入れ体制が整備された医療機関」は今年度中に100箇所程度に拡充する予定だ。実は在留管理制度でも日本は高度な技術や知識を持つ外国人に対して、労働市場テストに基づく労働許可制度や受入人数の枠数を設けていないなど、極めてオープンとなっている。政府は更に、最短1年の在留期間で永住許可が申請可能となる「日本版高度外国人材グリーンカード」を2017年4月に創設し、優秀な外国人材の獲得に力を注いでいる。

 高度外国人材を雇用する動きも一部では出てきている。労働政策研究・研修機構が2013年に行った調査によると、高度外国人材を採用した理由として、「国籍に関係なく人材を確保」、「外国語が必要」、「必要な能力の人材が外国人であった」と続き、能力本位での採用をしていることがうかがえる。

 2016年版中小企業白書によると、海外展開投資を行っている企業における売上高経常利益率を外国人材の有無別・海外展開投資の種類別に見た場合、輸出、直接投資、インバウンド対応のいずれの海外展開投資についても、外国人材を活用している企業の方が売上高、売上高経常利益率の水準が高くなった。

 現在、経済産業省は、ダイバーシティ経営の推進に向けて、企業が取るべきアクションを示した「ダイバーシティ2.0行動ガイドライン」の発表や、高度外国人材に関する施策について広報活動を実施している。

 また、外国人学生・留学生などを対象とした中堅・中小企業へのインターンシップの募集を昨年度からスタートし、128カ国・地域から約1万3000人の応募があった。高度外国人材の受入れを拡大するためには、生活情報の提供や教育機関、医療機関など生活インフラでの外国人対応などが重要となるが、企業の外国人材活用に向けた意識改革も要となるだろう。

成長には多様な人材


 政府が昨年6月に閣議決定した「未来投資戦略2017」では、「優秀な外国人材について、より積極的に受入れを図り、イノベーションを加速し、我が国経済全体の生産性を向上させることが重要である」と打ち出した。世界から有能な人材をどれだけ獲得できるかが、企業だけでなく日本の産業そのものの今後の成長を左右する。

 第4次産業革命によりグローバル競争が激しさを増している中、それは大企業だけに限る話ではない。中堅・中小、ベンチャー企業であっても、自らグローバル市場を見据え、新たなビジネスを切り拓いていかなければ成長は覚束ない。そのためにはグローバル人材が必要であり、多様な人材が欠かせない。
尾本憲由
尾本憲由 Omoto Noriyoshi 大阪支社編集局経済部
実は高度外国人材にとって日本は極めてオープンな国となっている。高度外国人材に対する永住権取得のハードルが低いことも、あまり知られていない。ただ日本の永住権に対して、どれだけ興味を抱いてくれるかが問題だろう。何かと“日本すごい”という言説があふれる昨今だが、外国の優秀な人材にとって働き、生活する場としての魅力は、まだまだ多くの国の後塵を拝している。

編集部のおすすめ