過労死問題で揺れたNHK、働き方改革急ぐ 切り札はAI
ニュース番組制作など軽減
NHKは人工知能(AI)や情報通信技術(ICT)を活用し、働き方改革を急ぐ。NHK放送技術研究所(放送技研、東京都世田谷区)が持つ聴覚障がい者向け放送技術を取材音声の書き起こしに応用するなど、多様なシステムを放送現場に導入。ニュース番組などの制作支援に役立てて業務の軽減につなげる。
「業務に携わる全ての人の健康を最優先に考え、これまでの慣行を打破して働き方を抜本的に見直す」。
NHKの上田良一会長は2017年12月の会見でそう宣言し、勤務環境の改善に向けて具体的な対策を発表した。その中で「番組のスタジオ収録は原則として午後10時終了」などの対策を講じるとともに、AIやICTを活用して放送現場を支援する施策を盛り込んだ。
放送現場では、すでに既存の技術を応用したシステムの試験的な利用が始まっている。その一つが、取材映像に登場する人物の発話内容を自動でテキスト化するシステムだ。AIの音声認識技術を活用して効率良く書き起こし、ニュース番組の制作などを支援する。NHKは聴覚障がい者向けに字幕放送を提供しており、その関連技術を応用した。
17年10月に報道局に導入し、試験運用を始めた。18年3月末までをめどにマイクと発話者の距離やノイズによる音声認識の精度への影響などを検証し、本格導入を検討する。放送技研のヒューマンインターフェース研究部に在籍する岩城正和部長は「当初の開発目的とは異なる方法で役立とうとしている。放送現場の期待も大きい」と力を込める。
また、地方局では河川の氾濫の可能性などを迅速に把握し、原稿を自動で作成するシステムの利用が17年夏に始まった。パソコン画面上に河川水位の変化状況や、その状況を踏まえた定型原稿などがリアルタイムに表示される。地方局では台風発生時に河川の氾濫に関する迅速な報道が求められる。人員が限られる地方局において、水位の把握や原稿作成などの作業を後押しする。
このほか、放送技研では1日800万件のツイッターをAIが解析し、事件や事故などに関するツイートを抽出するシステムを開発している。これと河川の自動原稿作成システムを18年内にも連携させる。これにより河川の水位などの定量的な情報に加え、河川の状況に関する定性的な情報も把握できるようにする。
一方、こうしたシステムの本格的な導入には設備投資が欠かせない。放送技研の岩城部長は「例えば、音声認識の書き起こしシステムを全国の記者が利用する体制を整えるには、相当の設備整備が必要になる。書き起こす速度も(システムを動かす)機械の性能によるため、予算次第の部分が大きい」と説明する。
NHKは18年度予算には本格導入に向けた費用を盛り込んでおらず、18年度も試験運用を続ける考えという。まだ本格導入の道筋が見えていないのが現状だ。
18年度からの次期3カ年経営計画でも「AIやICTを活用した業務支援の導入」を掲げたNHK。その実現に向けて予算をどう確保していくかが重要な課題になる。
(文=葭本隆太)
健康最優先に
「業務に携わる全ての人の健康を最優先に考え、これまでの慣行を打破して働き方を抜本的に見直す」。
NHKの上田良一会長は2017年12月の会見でそう宣言し、勤務環境の改善に向けて具体的な対策を発表した。その中で「番組のスタジオ収録は原則として午後10時終了」などの対策を講じるとともに、AIやICTを活用して放送現場を支援する施策を盛り込んだ。
放送現場では、すでに既存の技術を応用したシステムの試験的な利用が始まっている。その一つが、取材映像に登場する人物の発話内容を自動でテキスト化するシステムだ。AIの音声認識技術を活用して効率良く書き起こし、ニュース番組の制作などを支援する。NHKは聴覚障がい者向けに字幕放送を提供しており、その関連技術を応用した。
原稿を自動作成
17年10月に報道局に導入し、試験運用を始めた。18年3月末までをめどにマイクと発話者の距離やノイズによる音声認識の精度への影響などを検証し、本格導入を検討する。放送技研のヒューマンインターフェース研究部に在籍する岩城正和部長は「当初の開発目的とは異なる方法で役立とうとしている。放送現場の期待も大きい」と力を込める。
また、地方局では河川の氾濫の可能性などを迅速に把握し、原稿を自動で作成するシステムの利用が17年夏に始まった。パソコン画面上に河川水位の変化状況や、その状況を踏まえた定型原稿などがリアルタイムに表示される。地方局では台風発生時に河川の氾濫に関する迅速な報道が求められる。人員が限られる地方局において、水位の把握や原稿作成などの作業を後押しする。
このほか、放送技研では1日800万件のツイッターをAIが解析し、事件や事故などに関するツイートを抽出するシステムを開発している。これと河川の自動原稿作成システムを18年内にも連携させる。これにより河川の水位などの定量的な情報に加え、河川の状況に関する定性的な情報も把握できるようにする。
設備投資必須
一方、こうしたシステムの本格的な導入には設備投資が欠かせない。放送技研の岩城部長は「例えば、音声認識の書き起こしシステムを全国の記者が利用する体制を整えるには、相当の設備整備が必要になる。書き起こす速度も(システムを動かす)機械の性能によるため、予算次第の部分が大きい」と説明する。
NHKは18年度予算には本格導入に向けた費用を盛り込んでおらず、18年度も試験運用を続ける考えという。まだ本格導入の道筋が見えていないのが現状だ。
18年度からの次期3カ年経営計画でも「AIやICTを活用した業務支援の導入」を掲げたNHK。その実現に向けて予算をどう確保していくかが重要な課題になる。
(文=葭本隆太)
日刊工業新聞2018年2月2日