さらば「技術力優位」の発想、シリコンバレーからの警鐘

「シリコンバレーD―Lab」井上氏ロングインタビュー

 グーグル、アップル、フェイスブック、ウーバーなどデジタル企業がひしめく米シリコンバレー。日々勃興するスタートアップ企業がもくろむ破壊的なイノベーションは、電機や自動車産業といった伝統的な産業を巻き込んで拡大している。

 こうした中、シリコンバレーで今起こる変化の本質を伝える日本人の有志活動が注目を集めている。「シリコンバレーD―Lab(Dラボ)」。在サンフランシスコ総領事館、パナソニック、日本貿易振興機構(ジェトロ)、トーマツベンチャーサポートに所属する4人が、シリコンバレーを中心とするキーパーソンに次々とインタビュー。日本企業がイノベーションの中心地で存在感を増し、また将来的に日本でイノベーションを起こすためには何が必要なのか、自問自答しつつメッセージを送り続けている。2017年春に第1弾のレポートを発表。これまでに計17万ダウンロードを超えた。1月30日には、日本の経済産業省と連携して同省内で第2弾となるレポートの説明会を開く予定だ。

 ニュースイッチでは、Dラボメンバーの1人である在サンフランシスコ総領事館の井上友貴領事にインタビューした。シリコンバレーの実態をよく知るDラボの活動は、日本企業が今後イノベーションを起こすために行動するためのきっかけを提供してくれている。ロングインタビューでお送りする。

「想像できない変化がすぐ来るかもしれない」


 ―17年春、自動車業界の変化を描いたレポートを発表しました。寄せられた反響と、その後の業界の変化をどう見ていますか。
 「自動車メーカーからの反響は大きかったし、部品メーカーからも新規開拓の相談などが寄せられた。本レポートの根底にある時代の変化、既存事業への危機感といったレベルで、素材会社、製薬会社など異業種からも反応があった。現在は大企業から進出の相談を受けたり、金属加工を手がける中小企業数社のシリコンバレー進出をサポートしたりと、Dラボの活動の幅が広がってきている」

 「シリコンバレーでの自動車関連の動きは非常に早い。IT企業がどんどん入ってきていて、これまでの車を作る人たちが頂点にいる構造が変わり、サービスやITに主導権が移りつつある。産業が変わる転換点を迎えていると感じる。その辺りは自動車会社も相当気付いていて、(1月上旬の米家電・IT見本市「CES」で)トヨタ自動車がe-Paletteというコンセプトやそのサービス用のモビリティーを発表するなどの動きが出てきた。日本企業の動きは確かに速くなっているが、米国や中国企業の動きは驚くほど速い。(日本企業よりも)もっと明確にビジョンを出し、投資し、人を集めている」

 ―Dラボの目的のひとつは、シリコンバレーで感じる危機感を日本国内の人に伝えることです。伝わっていると思いますか?
 「半々だ。納得し、すぐさま行動に移す人もいれば、そんな時代は来ないとタカをくくる人もいる。ただ、現在は想像できないほどの変化がすぐ来るかもしれない時代だ。10年、20年前は技術の進展スピードも今ほどは速くなかった。ただ半導体が出てきた辺りから、一度差が付いたら追いつけず、一気に市場から追い出されるのが当たり前になっている。おそらくこの世界(自動車)も同じだ」

 「自動車メーカーも、すべてを社内でやるのは難しい。技術的にも、事業のスピードでも、いちから作り出そうとするのでは間に合わない。パートナーシップをどう組むかが大切だ。次のモビリティー社会でプレーヤーとして参加するには最低3要素あると思っている。ひとつはハードづくり。ひとつは自動運転のためのAIソフト。あとはサービスだ。この三つが、ひとつのエンティティー(主体)でなくても、アライアンス(連合)として提供しないと、そもそもプレーヤーになれない。競争で勝つか負けるかはその次の段階。これまで当社は素晴らしい部品を、というだけでは不十分で、3つの要素を持ったグループを形成していかなくては、競争への参加資格がない」

 「そう考えると、日本はサービスのところで手当てが進んでいないと感じる。だれがやるか。プレーヤーがだれになるのか。既存の自動車産業にいないプレーヤーでも結構だが、それを作っていかないと、そこが外国のプレーヤーになってしまう。そこに美味しいところを取られて、モノやソフトを供給するだけになってしまうという世界になる。3点セットを育てていくことは、産業政策上も不可欠ではないか」

イノベーションは掛け算


 ―特に、サービスを作ったところが勝つという傾向が強まっていると感じます。例えばライドシェア大手のウーバー。さまざまな場所で言及される企業ですが、技術自体はそれほど難しくないのではないですか。
 「サービスを作るということは、顧客の課題を見つけるということ。日本企業は課題を解決する馬力、能力はすごいある。製品を一ついくらで作る、性能を満たすといった、課題設定後の解決能力は非常に高い。一方で課題そのものの設定は苦手だ」

 「不確実性が高い時代というのは、課題設定が容易にできないということを意味している。従来の延長線上に課題がないという中で、非連続的なプロダクトが必要になってくる。本質的な課題を見つけないといけない。もっと課題探索に時間をかけるような組織作りが日本企業にとって大きなテーマになってくるのではないか」

 ―どうしても、目の前の課題をどうこなすかに集中してしまいがちですよね。
 「例えば社長さんが『イノベーションが大事だ』と言っても、担当役員一人が頑張るだけで残りの大多数の役員が動かないケースが多かったりする。これでは会社全体として動きが遅くなる。会社のマジョリティーが、イノベーティブなアイデアを理解して動けるようになることが必要だ。日本の組織がイノベーティブになるのが難しい理由の一つは、トップだけが理解していてもダメだし、トップの下の役員だけが分かっていてもダメだし、部長クラスや若い人まで理解していないと、組織全体が回らないという点だ」

 「私がよく言うのは、イノベーションにはいろんな要素があって、これは全部かけ算ですよと。どこか一箇所でもイノベーションについてゼロの要素があると、そこで止まってしまう。つまり、他の要素でいくら大きな値が入っても計算結果はゼロになってしまう。それほどまでにもろいのがイノベーションだと思う。全部をきちんと育てていかなくちゃ行けないところに難しさがあり、裏を返せばそれを早く実行できた企業が伸びていく」

 ―シリコンバレーには日本の大企業も数多く進出しています。新規事業開発の様子を見ていて思うことはありますか。
 「駐在員の方とお話をすると、いろいろもがいて頑張っているが、最後は本社とのコミュニケーションがうまく行かずに頓挫するというケースが多い。一方、日本の本社の人に聞くと、『うちもお金出したり人を張ったりしているけどうまくいかないんですよ』と。お互いにかみ合っていない感じがしている。やっぱり、本社のマインドセットを、きちんと新規事業開発ができるように変える必要がある。これまでの日本のやり方は、従来の市場に対してはうまくいっていたが、新規事業にあたっては失敗を許容しないといけないとか、長期的にものを考えないといけないとか、いろいろ課題がある。こうした課題をきちんとトップが理解した上で組織内のルールを変えないと、どれだけ駐在員をシリコンバレーに人を派遣しても成果はなかなか出ないのではないか」

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杉本 要

杉本 要
01月28日
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最も激しい変化の場所に身を置くと、日本や日本企業に対する課題が山のように見えてくるのだろう。目に見える課題、仕事をやり遂げるという美徳は持ち続けながらも、現状を変える勇気、変わり続けるスピード感をつけなければ置いていかれる。とにかく猛烈な危機感が伝わってきた。

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