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Bリーグに学ぶ、スマホファーストのマーケティングで入場者が1.5倍に

700万人の潜在来場者、「若者」「女性」をメインターゲットへ
 2020年東京大会も間近に迫り、日本のスポーツ業界は今、ビジネスモデルの変革を迫られている。チケット・グッズの販売方法、協賛企業との契約、テレビ放映権など従来のようなアプローチでは、新規ファンの獲得や収益増にはつながらなくなってきているからだ。2016年に新設された国内の男子プロバスケットボールリーグ「B.LEAGUE」も、新たなスポーツビジネスの在り方を模索して奮闘する組織の1つ。同団体が掲げる、DMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)を活用したデジタルマーケティング戦略の事例を、B.LEAGUE常務理事・事務局長の葦原一正氏の講演から紹介する。
葦原 一正氏              

 B.LEAGUEは、日本の男子プロバスケットボールリーグを統括するために設立された団体です。野球・サッカーに次ぐ第三の団体競技プロリーグとして2016年9月に開幕しました。

 現在、B.LEAGUEには北海道から沖縄まで34都道府県45クラブが所属しています。サッカーのJリーグが10クラブで発足し、25年かけて38都道府県54クラブが所属するようになったことと比べると、その規模が既に大きいことがお分かりいただけると思います。

 ただ、Jリーグと違うのは「選手・チームの認知度の圧倒的な低さ」です。B.LEAGUEにはNBAのコートに立った唯一の日本人である田臥勇太選手(栃木ブレックス)がいますが、彼を除いた選手の認知度は残念ながら高くはありません。

 2015年にB.LEAGUEの準備室を立ち上げた時、私たちは「B.LEAGUEを盛り上げるためにはどうするべきか」を検討し、2つの特徴に着目しました。

 まずは「競技者人口のポテンシャル」です。実はバスケットボールは、全世界で競技者人口が一番多いスポーツです。一方、国内での競技者登録人口はサッカーに次いで2番目(注1)ですが、男女での差がないことが特徴です。

 もう一つの特徴は男性が中心の野球・サッカーと比べて「女性の来客数が圧倒的に多い」ことです。B.LEAGUEファイナルでは、女性の観客数が過半数を超えました。

 また、調査の結果、市場規模や来客数はJリーグの10分の1程度ながら、バスケを観戦したいと思っている人の数は競技経験者260万人を含めた700万人も存在し、観戦意向は特に若い世代で高いことが分かりました。
                  

 私たちは、この潜在来場者となる700万人に来ていただくために「若者」「女性」を主なターゲットとする施策を打つことにしました。そこで的確にアプローチをするため、世界最先端のスポーツビジネスモデルの取り組みである「デジタルマーケティングの徹底推進」を事業方針の一つに掲げました。
(注1)競技者登録のない野球は除く

スマホ1台で全てできる仕組みへ


 多くのプロスポーツでは「チケット販売」「中継放送」「スポンサー」「グッズ」が4大収入源となっています。B.LEAGUEでは、ターゲット層と親和性の高い「スマートフォン(スマホ)」1台で、その全てを完結できる仕組みを確立しようと考えました。

 具体的には、Webサイト直販による電子チケット制を導入し、インターネット放送での中継を行いました。さらに、グッズ販売もECサイトを積極的に活用しました。
                      

 また、B.LEAGUEでは、個人情報を統合して有効活用するためのDMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)の構築にも着手しています。殆どのプロスポーツではCRM(顧客管理システム)という概念がなく、データ活用という観点でも他の分野に比べてかなり遅れています。
                     

 現在、B.LEAGUEはリーグ内で各クラブと連携する統合データベースを活用する「ステップ3」フェーズに取り組んでいます。各クラブが保有する来場者、チケット、グッズなどのデータを統合することで、ホームでもビジターでもチケットが取りやすいなど来場者にとっても様々なメリットを提供しています。

 また、DMPを構築することでデータ分析や比較、ナレッジ共有などが可能になります。さらに、蓄積されたデータを活用することで新規ビジネスを発掘するチャンスにもつなげています。私たちは、今後1年半の間で「ステップ5」に掲げる、競技者データベースとの連携までを目標としています。

"選手を強く、観客も楽しく"


 現在、スポーツ分野における実績が数多くある富士通と一緒に、競技者データベースの構築に取り組み、スポーツと最新技術を融合させた新しいビジネスを一緒に作り上げています。
                

 そのひとつが、バスケットボールのプレイヤー戦歴や指導者などのキャリア情報などの一元管理が可能な「データ・マネジメントサービス」の提供です。それぞれのデータを簡単に検索できるようにすることで、強化選手や日本代表選手を効率的に選出することができます。

 2つめが、データを分析することで、よりファンの趣味・嗜好にマッチした情報提供を可能にする「デジタルマーケティング」の取り組み。そして、富士通が持つIoTセンシング技術等を活かした最先端の「スマートアリーナ(注2)」の実現にも取り組んでいます。

 前回のB.LEAGUEファイナルでは、スマホ専用の応援アプリを作成しました。ペンライトのような光の応援演出ができるアプリです。入場者数1万人のうち、7000人にダウンロードして利用していただきました。

 また、2018年1月にはオールスター戦を熊本で開催します。今回は、東京の恵比寿に特設会場を設けて「パブリックビューイング」を実施します。富士通の最新技術を駆使して、光・音・振動によって現場に近い感覚を来場者に届けることを予定しています。
(注2)富士通研究所で開発中の高精度な3Dレーザーセンシング技術やプレイヤーモーショントラッキング技術などのスポーツIoT、自由視点映像生成技術を活用した「スマートアリーナソリューション」のこと。これにより、世界に通用する選手やチームの輩出、夢の実現とともに、各チームの拠点となるアリーナを中心としたコミュニティーの創造やまちづくりにも貢献する。

データから見えたファンの気持ち


 B.LEAGUEの1年目となったB1の2016~2017シーズンを振り返ると、入場者数は旧リーグのシーズンと比べて50%アップし、全体で200万人を突破することができました。また、各種データを活用することで、沢山の面白い気づきを得ることができました。

 そのうちの1つが「テレビとネットとの相関性」です。2016年9月の開幕戦は、地上波ではフジテレビ、BS放送ではNHK、ネットはスポナビライブで中継していただきました。

 中継前は「テレビは年配、スマホは若い人が見る」と想定していましたが、実際には地上波でも20代男性が多く視聴したことが分かりました。また、試合後のリアルタイム検索では上位20キーワード中、19ワードがバスケット関連になり、SNSのトレンド検索でも上位の半数以上を占めました。

 選手の動きに合わせたCG演出が可能な「LEDコート」を導入した効果もありますが、チケットも売れてSNSでも「バズる」ことができました。ネットとテレビは対立ではなく補完関係にあり、両者を融合させて新しい価値を提供することが重要だと分かりました。

 もう1つが「スマホユーザーの分析軸の違い」です。当初は、データ分析の軸を来場回数が多い「コアファン」、または来場回数が少ない「ライトファン」に置いていました。しかし、スマホの利用率は圧倒的に東京などの都市圏が高く、またスマホチケットの購入率が高いなど、「エリア軸」が想定以上に影響力があることが分かりました。

 また、分析を進めるにつれ、マーケティングにおける「ライトファン分析」に対する見方が変わってきました。ライトファン属性の分析に基づいた施策の多くが、失敗に終わることが多いからです。

 ライトファンに「なぜ、会場まで足を運んだか」を質問すると、最終的には「誘われたから」とほぼ全員が答えます。ライトファンの属性分析ではなくて、コアファンが「誰を誘いたくなるか」「どういう情報を伝えれば誘おうと思うのか」というメカニズムを解釈することの方が大切だと気づかされました。

 これからは、ファンと対峙するインターフェースにも変化が必要です。ライトファン向けのデザインも大切ですが、「コアファンが気楽にチケットを同時に多く買えて、一緒に行きたい人とのシェアできる」仕組みであることが、より重要だと考えています。
                

 私たちB.LEAGUEは、まだまだ1年目が終わった「ひよっこ」です。さらにデータを蓄積して、富士通との協業による改善を進めていきます。その成果をまたこうした場で発表できればと考えています。皆さんもぜひ一度アリーナに足を運んでみてください。
【主な経歴】
葦原 一正(あしはらかずまさ)氏
B.LEAGUE常務理事・事務局長/JBA理事/B.MARKETING取締役/B3理事
1977年生/早稲田大学院理工学研究科卒業。
2003年 外資系戦略コンサルティング会社「アーサー・D・リトル(ジャパン)」入社。
2007年 プロ野球チーム「オリックス・バファローズ入社(正式名称:オリックス野球クラブ)」に入社。パ・リーグ6球団共同出資会社「パシフィック・リーグ・マーケティング」にてセールス&マーケティングディレクターも兼務。
2012年 「横浜DeNAベイスターズ」入社。新規参入直後の社長室長として、主に事業戦略立案、プロモーション関連などを担当。
2015年 「ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ」入社。男子プロバスケの新リーグ立ち上げに参画
【Fujitsu Insight 2017「デジタルマーケティング」講演レポートより】
FUJITSU JOURNAL2018年1月9日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
リーグ全体での取り組みの一方で個々のチームでもデジタルマーケティングで努力がいる。例えば参考になるのがサッカーの香川選手が所属するドイツ・ブンデスリーグのボルシア・ドルトムント。ドルトムントの人口は約60万人だが、約8万人を収容するホームスタジアムの観客入場率は世界一を誇る。それに専用スマホアプリが大きな威力を発揮している。

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