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商社マンからスポーツビジネスへ。「Bリーグ」の魅力を伝える

トヨタアルバルク東京・林邦彦社長
商社マンからスポーツビジネスへ。「Bリーグ」の魅力を伝える

©ALVARK TOKYO

 2016年に発足し、2年目のシーズンが開幕したプロバスケットボール「Bリーグ」。アルバルク東京の運営会社、トヨタアルバルク東京には、大株主のトヨタ自動車のほか三井物産も出資している。社長の林邦彦氏は三井物産から出向し、商社マンから未知の世界であるプロスポーツビジネスへ転身した。林社長にBリーグの事業性と今後の戦略を聞いた。

 -1年目に最も苦労した点は。
「選手にプロとしての意識を変えてもらうのが大変だった。Bリーグが始まる前は、あくまでトヨタ自動車の実業団チームだったので、給料はトヨタから出ていた。ファンが増えても給料は変わらないが、プロはファンやスポンサーのお金が、給料の財源になるので、いろんな人に見てもらい、ファンになってもらう必要がある。また、実業団チームは勝てばいいが、プロは勝つのが当たり前で、プレーの内容も問われ、ファンが喜ぶプレーをしないといけない。例えば、バスケットボールでは、ダンクシュートが盛り上がるプレーの一つだが、昔はフリーでもそのままシュートを打っていた。今は意識がだいぶ変わって、フリーならダンクシュートをするなど、観客に見せるプレーを心がけている。選手も1年で意識が変わった」

 -観客動員など事業面での成果はどうでしたか。
 「1年目は収容人数3000人程度の代々木第二体育館をホームとして使用し、約30試合を開催した。平均観客動員率は82%。85%から満員となるので、ほとんどの試合が満員だったということになる。千葉や栃木など、人気チームとの試合は前売りで完売した。1年目としては良かったと捉えている。」

ほとんどの試合が満員©ALVARK TOKYO

 -2年目はいかがでしょうか。
「今年は代々木第二体育館が改修工事に入ってしまうため、アリーナ立川立飛(東京都立川市)と駒沢オリンピック公園総合運動場体育館(東京都世田谷区)がホームになる。ホームタウンが変わるので、地域活動には力を入れており、50以上のイベントを企画し、すでにいくつか実施した」

 -1年目の結果を踏まえた今後の戦略は。
 「バスケットボールは観客の女性比率が60%と、男性より高いのが特徴だ。他のスポーツは男性比率がサッカーで68%、野球はそれ以上と、男性の方が多い。女性へのアプローチは課題で、今年から女性の社員を3人増やした。ツイッターやインスタグラムを中心に、SNSの発信も女性が担当するなど、女性に直接働きかけるように工夫している」

 -Bリーグのスポーツビジネスとしての課題は。
 「バスケットボールはインドアで、観客が雨にぬれることもないし、試合時間が決まっていて、予定も立てやすい。プロスポーツとして非常に魅力があり、1年目は3000人の施設では小さく、機会損失が多かったと考えている。1年目でかなりの観客が入っていることを踏まえれば、将来的には収容人数5000人以上の大きな施設で試合を開催する必要がある。ただ、都内には要件を満たしている施設があまりない。自治体が運営する体育館は地域住民が心身を鍛える目的のもので土足厳禁というところも多く、プロの試合を開催するのは難しい。インドアスポーツに対する意識を変えてもらわないと、Bリーグの発展はない。そのためにも2年目以降、バスケットボールの可能性を広げるべく、努力していかなければならない」

 -放映権の収益についてはいかがでしょうか。
 「Bリーグの放映権は、地上波のキー局については、リーグとして一括管理されており、バスケットボール協会などが出資する、Bマーケティングという会社が契約の窓口になっている。利益は36のクラブに配分されるので、クラブ単体の収益には寄与しない。ただ、ローカル局は直接、契約ができる。ローカル局ではないが、三井物産グループのBS放送局である、トゥエルビには5試合、放送してもらった。ただ、トゥエルビは他のチームの試合も放送しているので、放送枠にも限りがある。世代別にどのメディアを利用しているかと言う調査では、どの世代もテレビが多いが、30代以下の若い世代はインターネットも多い。テレビへの露出だけでなく、ウェブやSNSをどれだけ活用するかというのも重要だ」

 -商社マンとしての経験が、どのような場面で生きていますか。
 「最初に声をかけてもらったときは、プロスポーツの経験もなく、社長をやるのは無責任だと考え、断った。ただ、何度も誘ってもらい、以前からプロスポーツに携わりたいと言う気持ちがあったので、受けることにした。商社ではBtoCの川下の分野で仕事をしてきた。実際にお客様と会って仕事をしてきたこともあり、アルバルク東京の社長となってからは、試合終了後、必ずお客様をお見送りしている。出口に立っていると、どういう人が来ているのか分かるし、感謝の気持ちを伝えられる。毎試合出口に立っていると、何度も来てくださっている方と話すようになり、いろんな意見も聞けた。お客様の声をスタッフに伝えることもできた。商社は商品をもっていない。人とのつながりで仕事をしてきたので、三井物産で鍛えてもらったところを、アルバルク東京で生かしている」

観客を見送る林社長©ALVARK TOKYO

-2年目に向けた抱負は。
「リーグ戦に先駆けて開催された、トーナメント方式のアーリーカップでは、優勝することができた。すると、SNSでの書き込みやファンクラブの入会も増えた。やはり勝つと言うことが非常に大事だと改めて感じた。まず試合に勝っていきながら、認知度を上げ、コアのファンを増やしていく。バスケットボールは誰もが体育の授業でやった経験があり、知らない人はいない。今後は、テレビなどを通じて、Bリーグを見てもらう機会をどれだけ増やすかにかかっていて、いろんな仕掛けをしていきたい」
ニュースイッチオリジナル
高屋優理
高屋優理 Takaya Yuri 編集局第二産業部 記者
バスケットボールはリーグ分裂問題で、プロスポーツとして後れを取っていたが、誰しもやったことがあるスポーツであり、競技人口も多い、人気スポーツの一つです。そのため、プロとしてのポテンシャルは高く、今後は、露出を増やして認知度を上げ、より多くの層に魅力をアピールできるかが非常に重要。とはいえ、プロスポーツとしてはまだまだ駆け出し。リーグ草創期の関係者は、草の根的な活動も含め、かなり汗をかかなければならないだろうなと感じました。

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