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期待の洋上風力、経済性も難易度も高い巨大タービンブレード

長さ73mを超える巨大ブレードはどのように移送されたのか
 2017年10月、スペインのカステリョンにあるLMウィンドパワーの工場から、全長241フィート(約73.5m)にもなる巨大構造物を送り出した。それは、ボウリング・レーンの4倍の長さにもなる風力発電のブレード(羽根)で、スペインの地元の港から、北海沖にあるドイツ、メルキュール・ウィンドファーム(66機のHaliade 150-6MW、合計396MW)に向け運搬船に積載するためだ。

 洋上風力発電向けの風力タービンにとってブレードは、大型であるほど発電に好ましいとされる。一般的に、上空高くあればあるほど強い風が安定して吹くため、より長いブレードを備えた、より高いタワーの風力タービンが高効率で安定した発電にはもってこいなのだ。

 例えばLMウィンドパワーが製造した長いブレードを用いたタービンは、平均4分の1と短いブレードを備えた1980年代の前モデルより100倍の発電を行う。

 しかし、風力タービンの大型化は設計や建設時の難易度がより高くなる。なぜなら超大型ブレードは重量があり、絶え間ない強風に耐えるため、より強靭でかつフレキシブルに可動するよう製造される必要があるからだ。

 その点、LMウィンドパワーの新たなブレードは複雑な中空構造で設計され、素材も軽量ポリエステル繊維で製造されており、重さは27トンに抑えられている。根元近くのもっとも太い場所でも幅は約14フィート(約4.2m)、ブレードは空力学に従って工場で精密に研磨されているために、低風速域でも風をしっかりとつかまえて、発電用ローターを滑らかに回転さる。

 ブレードの製造精度如何で最大で2パーセントも発電効率が下がってしまうため、ブレードは、湿度や温度を厳密に制御された作業室で研磨される。

 さらにこうして出来上がった巨大なブレードを運搬することが、もう1つの悩ましい課題だ。電柱の7倍ほどの長さになるブレードを運搬することには入念な準備が必要。

 LMウィンドパワーのカステリョン工場の責任者であるホセ・ルイス・グラウ氏と彼のチームは、13ヶ月にわたって、工場から、スペイン・バレンシア北部の地中海にある港まで29マイル(約46.7km)にわたって巨大なブレードを運ぶ準備を州と自治体、および港湾当局の協力を得て行った。

 この準備作業の一部には、道路標識や街の標識を取り除くだけではなく、「ラウンドアバウト」(環状交差点)に沿ってトレーラーを運転せずに、直進して進めるような準備もされた。

 なぜ、ここまでするのか。特に洋上風力では基礎やタワーにかかるコストが大きい。巨大で生産性の高いブレードがあれば、より少ない基数の風力タービンで同量の発電が可能となる。

 現在、風力発電はヨーロッパにおける電力の11%を占め、この値は2030年には25%にまで増加すると試算されている。ヨーロッパでは陸上風力がより安価な再生可能エネルギー発電源ですが、洋上で風は常時強く吹くために望ましいというだけでなく、建築物の高さ制限や騒音規制があり、利用できる土地が少ない陸上風力では実現しえない高さとスケールメリットがある。洋上風力は今後、さらに成長を遂げていくことが予想される。

 風力発電の事業者も、センサー機器とGEデジタルのアセット・パフォーマンス・マネジメント(APM)システムなどのソフトウェアを加え、風力タービンの発電効率向上に向けて取り組んでいる。

 このAPMはデータ分析を駆使して潜在的な問題をより早期に発見し、保守担当者が故障発生前に修理できるようにする。GEはリアルタイム分析などの新たなテクノロジーにより、メンテナンス費用の15%削減を見込む。これによって、大型海洋クレーンを稼働させて、機器の補修を行うコスト削減に役立つ。

 LMウィンドパワーは2017年始め、GEリニューアブルエナジーの一員となった。同社はGEと共に他のメーカーのタービンブレードも製造している。風力発電に高い関心があるのはヨーロッパだけではない。

 主に風力や太陽光発電の増加によって、米国ではこの10年間で再生可能エネルギーの発電容量は3倍にまで増加している。タービンブレードが長くなることによって、ますます発電コストは下がり、世界中で発電をおこなうウィンドファームが増加することだろう。
GE REPORTS JAPAN
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
羽根がボーリングレーンの4倍、これは何メートルでしょうか。きっと巨大なはず(日立の風車5MWが136メートル)。日本では洋上風車を建設しようなんて話も聞かれなくなりました。新潟・村上で浮上した日本最大プロジェクトも、日立造船が撤退してどうなることか。日本メーカーにとって、国内にマーケットがなく、世界から技術でも遅れていきます。

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