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Uターン就職、地方で必要とされる東京での経験とは?

外需向けの事業を創る「世界最大のマーケット」での体感
 将来、地方で働きたい人にとって東京で働く最大のメリットは「世界最大のマーケット」の中で常に生活できることです。意外に知られてないのですが、東京経済圏は世界最大のGDPを誇り、ニューヨーク経済圏や上海経済圏を大きく上回っており、今後のしばらく続くと予想されています。

 デパートやショッピングモールに行けばマーケティングされ尽くした商品・サービスが並び、電車に乗れば魅力的なコピーとビジュアルの広告が目に飛び込んできます。これらは世界最大の東京圏マーケット向けに様々な企業が多くのデータを分析し、あの手この手で消費者の購買欲求を刺激してきます。

 将来、地方で働きたいのであれば東京の大企業で様々な経験を積むことが大事だ、と言われることがありますが、残念ながら東京の大企業で得られる経験は地方の中小企業で役に立つとは限りません。

 東京の大企業で働いたところで部署、役職ごとに分割されたタスクをこなすことが多く、バリューチェーン全体に関わることができるまで10年以上かかることは珍しくありません。

 対して地方の中小企業は担い手不足という要因も重なり、一人で何役もこなさなければ会社がまわりません。広報・人事採用・総務や、マーケティング・営業・企画を一人で担当している企業も珍しくありません。大企業は狭く深く業務を行い、中小企業は広く浅く業務を行っているのが現状です。

 たしかに、大企業だと研修制度が整っていたり、会議の進め方が形式化されていたりするので、どの会社でも通用するいわゆる社会人基礎スキルが上がりやすいという側面はあります。

 しかし、普段の業務ではビジネス全体の細分化された一部分を担うことなり、深い専門知識は付いたとしても幅広い知識が得られるとは限りません。

 某広告代理店に勤務する友人はかれこれ7年間もテレビCMの枠買いをしており、各番組のCM枠の相場や安く購入する手法について専門知識を持っていますが、広告主が作る商品の顧客設定やクリエイティブ、販路開拓、プライシングなど、その他の領域に関する知識は持ち合わせていません(そもそも、そういう知識を持ち合わせることを会社からも期待されていません)。

 しかしながら「将来は地元で仕事をしたいけれど、一度東京で経験を積んだほうがいいですか?」という質問を大学生から受けることがありますが、「絶対に東京で仕事をしたほうがいい」と答えています。

 それは、東京の会社で得られるビジネススキルよりも、東京の巨大マーケットの中で消費生活をすることができる経験が、将来地方で働く時にものすごく使えるものからです。

 よく地方に行くと「地元にはいいものがたくさんあるけど、売り方が下手だ」と言われます。それは言い方をかえると「地方の人達は地元のどういうモノ、コトが東京のマーケットで評価されるかが分かってない」ということです。

 僕は仕事の中で地域資源を活用したビジネスプランコンテストの運営を行うことがあります。参加者は地元の人を対象にしているケースと、都会のいわゆるよそ者のケースがありますが、仮に同じ地域資源を題材にしても、全く違うターゲットを想定したビジネスプランが提案されます。

大企業で狭く深い専門スキルは…


 地元の人が提案するビジネスプランは地元の人たちを顧客設定したものなのに対し、都市部の人たちが提案するそれは、都市部の人たちをターゲットにしたビジネスプランになるのです。それは、ビジネスプランを作る時に顧客をターゲッティングしたとき、普段自分が馴染みのある消費行動をイメージしやすい顧客を選ぶからでしょう。

 やや尖った言い方をすると、普段から東京のマーケットに触れてる参加者は地方のどんな地域資源がどのように評価されるのかが分かっているが、地元の人たちはそれが分からないので地元向けのビジネスプランに行き着くのでしょう(言わずもがなですが、どっちがいい悪いの話ではありません)。

 いま地方で求められているのは「仕事を自ら創れる人」です。仕事を創るためには顧客を知らなければいけません。地元の地域資源を活用した商品を都市部に販売するビジネス(=外需型のビジネス)が生まれると地域の経済はとても潤います。

 僕が生活する宮崎県日南市の場合、外需型のビジネスでの雇用が1人分できると3人の地元を顧客にしたビジネスの雇用が生まれます。それは都市部から入ってきたお金が地域内で循環するためです。

 例えば地元の芋焼酎を東京に売ることで、仕入れ先の芋農家が潤い、芋農家が仕入れている肥料業者が潤い…と地域内で経済が繋がっているからです。

 東京で働くことで得られる最大の経験は、大企業に所属して狭く深い専門スキルを得られることではありません。地方で必要とされているのはそういった細分化された専門スキルではなく、世界最大の東京圏マーケットでどういうモノ、コトが評価されるのか、を体感値で知っていることです。

 東京に住み、消費活動をする中で、あなたに対してあの手この手で消費させようとする商品・サービスに簡単に触れてきた経験値がものすごい価値なのです。

 その経験値が地元の商品を東京圏のマーケットで売るための仮説をたてる力につながります。外需向けの事業を行う10人の企業ができれば、地域に30人の雇用が生まれることになります。

 地域で求められるのは縮小する地域内マーケットでパイの奪い合いをすることではなく、外需を取り込む事業をつくることです。そういったスキルや感覚値を持っている人たちは地方に移住したり、Uターンで戻っても多くの仕事が舞い込んでくる可能性があるわけです。
(文=田鹿倫基・日南市マーケティング専門官)
田鹿倫基
田鹿倫基 Tajika Tomoaki 日南市 マーケティング専門官
地方のビジネスにとって、インバウンドも輸出も大事かもしれませんが、世界最大の市場に時差もなく関税もかからず同じ言語を使ってリーチできることを忘れてはいけません。

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