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「ロスーパリ」3時間、世界初の超音速ビジネスジェットへの期待

「AS2」最高速度マッハ1.4、2023年に初飛行を目指す
「ロスーパリ」3時間、世界初の超音速ビジネスジェットへの期待

アエリオンはビジネス航空と民間航空に新しい分野を開拓し、市場を掘り起こそうとしている(提供:アエリオン)

 7年間にわたって、パリ、ロンドン、ニューヨークといった大都市を行き来した、尖った鼻先が特徴的な超音速航空機、コンコルドは今から14年前に営業運航を終了した。

 コンコルドは、ロシアのTU-144型機を除き、唯一、音速を超えて就航した民間航空機で、その後も、超音速の民間航空機は現れていない。

  「コンコルドは技術的には成功しましたが、経済面ではオペレーションコストが高すぎたため、その飛行範囲は限られていました。また騒音がひどく、燃費も悪かったのです」とアメリカの超音速ビジネスジェット開発会社、アエリオンのマーケティング担当副社長、ジェフ・ミラー氏は語る。

 しかし、アエリオン、ロッキード・マーティン、GEアビエーションのエンジニアたちは、この問題をなんとか解決しようと手を取り合った。

 2017年12月、ワシントンDCで署名された覚書によれば、この3社は「世界初の超音速ビジネスジェットの共同開発の可能性を検討する」ことに合意し、今後12ヶ月間お互いに協力し、「エンジニアリング、許認可、生産などあらゆるプロセスのフレームワーク開発に貢献する」としている。

 AS2と呼ばれるこの航空機は、音速より40%も速い最高速度マッハ1.4、または時速約1,000マイル(時速約1,600km)で、最大12名の乗客を乗せることができる。

 超音速で飛行することで発生する衝撃波は、「ソニックブーム」と呼ばれる轟音を生じさせる。しかしAS2は特別な設計により、規制で許可された領域を超える「ソニックブーム」が地面に届くことなく、マッハ1.2で飛行することが可能になった。

 AS2はロサンゼルスからパリまで、ノンストップで飛行することができきる。飛行時間もわずか3時間にまで短縮され、エグゼクティブや各地を飛び回っているジェットセッターらの大西洋横断や米国東海岸への日帰り旅行を可能にする。

 アエリオンは既に、このAS2の開発に15年間を費やしているが、これはロンドンからシアトルまで12名の乗客を安心して運ぶことができる超音速航空機を完成させるため、とミラー氏は話す。

 「私たちは効率の向上に注力しています。オペレーションコストを下げ、飛行距離を広げることにより、大西洋横断のみならず様々な場所へ行けるようになります。これによって、どこにでも連れて行ってくれる理想の航空機となるのです」。

 同社はNASAとエアバスの防衛宇宙ユニットと協業し、航空機に最適な設計に取り組み、またGEアビエーションとは最高のエンジンを開発するために連携している。

 「エンジンの設計を白紙から始めることは不可能だという結論に達しました」とミラー氏。 「それはあまりにも多くの費用と長い時間がかかります。GEとともに、既存のエンジンコアを採用して適応させることに大きな可能性を見出しています」(同)。

 アエリオンの設計の鍵は、空力学者でアエリオンの創設者であり、ボンバルディア・チャレンジャーやロックウェルX-30単段式再利用型シャトル・コンセプトのような、多様で先進的な航空機開発にも参画していたリチャード・トレイシー氏が提案した自然層流と呼ばれるコンセプトだ。

 超音速自然層流は、空気の滑らかな層が乱気流のない翼の上を移動することを可能にする。 アエリオンは独自のソフトウェアを使用して、戦闘機の翼に似た「低アスペクト比」の、薄い複合翼を設計した。

 コンコルドのデルタ翼とは異なり、アエリオンの翼のデザインは、適度に尖ったリーディングエッジを持ち、層流を促進する。このデザインにより、アエリオンは翼の抗力を60%も軽減した。

 層流翼と最適化された機体と合わせて、航空機全体の正味の摩擦抵抗は最大20%も低くなります。「これは我々にとって飛躍的な数字です」とアエリオンの関係者は話す。

 抗力が抑えられることで、より小型で効率的なエンジンを使用しても、マッハ1.4までの速度を達成できることを意味する。 「明らかに、GEの超音速エンジンの技術や経験は、私たちにとって非常に貴重なものになるでしょう」。
アエリオンは航空機のフルスケールモデルを制作中(提供:アエリオン)

 GEアビエーションは、ドリームライナーやボーイング777のような長距離旅客機向けの巨大なターボファンエンジンのメーカーとしてよく知られている。

 しかし、第二次世界大戦中には米国初の戦闘機用ジェットエンジンを提供した企業でもある。その超音速エンジンは現在、 ロッキード社製F-16ファイティング・ファルコン戦闘機にも使われている。

 GEアビエーションのビジネス航空部門を担当するブラッド・モティエ氏は次のように話す。「アエリオンはビジネス航空と民間航空に新しい分野を開拓し、市場を掘り起こそうとしています。彼らの目標は、半世紀の間に民間初の超音速航空機の設計をし、認可を受けることです」。

 これらのタイプのエンジンは最新のターボファンよりもずっと小さく、アエリオンに適している。 「4,50年前と比較すると、航空業界は燃料効率の大幅な向上を達成しました。これは主にバイパス比の向上、またはエンジンコア周りの空気流量の増加によるものです」とミラー氏。

 「一方、超音速機用の最も効率的なエンジンは、現在の戦闘機で使われる低バイパス比エンジンですが、これは民間用にはあまりにも騒がしいものです。このソリューションが、現代の厳しい騒音規制を満たす適度なバイパスエンジンの開発で GEとの協業の焦点になるでしょう」(同)

 AS2は、2023年に最初の飛行を行い、その2年後にFAAから認証を取得する予定だ。
ロンドンからシアトルまで12名の乗客を安心して運ぶことができる超音速航空機

アエリオンの翼のデザインは、適度に尖ったリーディングエッジを持ち、層流を促進
GE REPORTS JAPAN
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
今年も夢のある記事をできるだけ多く発信していきます。よろしくお願いします。

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