「ルネサス再生」深層レポート。非難された官民ファンドの救済は成功したか?
産業革新機構のナンバー2、朝倉COO「神懸かり的なスケジュールでリストラを実行した」
2015年3月期連結決算で10年の会社発足以来、初めて当期黒字を確保したルネサスエレクトロニクス。「神懸かり的なスケジュールでリストラを実行した」―。再建を主導した産業革新機構のナンバー2、朝倉陽保専務取締役最高執行責任者(COO)はこう話し、“日の丸半導体”の復権に手応えを示す。ただ半導体業界は国際競争が激化しており、これからが正念場。ルネサスは真に強い組織に生まれ変わったのか、このままスムーズに成長段階に歩を進められるのか。再生の足取りを振り返りつつ探った。
あの収益事業を売るとは・・
ルネサスの業績が回復したのは、為替の円安が進んだこと、そして人員削減や工場閉鎖、事業売却といった構造改革に依るところが大きい。この構造改革を振り返ると同社の変化が見えてくる。14年3月にソニーに売却した鶴岡工場(山形県鶴岡市)。実はルネサスは13年8月、いったんは自主閉鎖する方針を掲げた。その計画に待ったを掛けたのがソニーだった。
ルネサスは車、産業機器分野の半導体に絞り込んで経営再建を進める方針で、民生機器向けLSIを手がけていた同工場は早くから売却対象に上がっていた。13年に入ってからはソニーのほか、台湾TSMCなどとも交渉してきたが、「だらだらと長引いていた」(元ルネサス幹部)。
そこでルネサスが決断したのが、自主閉鎖だった。問題を先送りにし改革がなかなか進まなかったルネサスが「シビアな経営判断を下せる自律した組織へと生まれ変わる兆しが見えた」(同)瞬間だった。
交渉を先延ばしにするような動きをみせていたソニーは、予想外の展開に慌てた。本気を出したソニーは、ジャパンディスプレイ(JDI)の案件に携わったエース級のM&A(合併・買収)チームをルネサスの「鶴岡案件」に投入し、その後、スピーディーに交渉がまとまった。
「あの収益事業を売るとは」―。子会社だったルネサスエスピードライバ(RSP)を、米シナプティクスに14年10月に売却した決断も業界に変化を印象付けた。中小型液晶パネル向け駆動ICを手がけるRSPは、米アップルを主要顧客に抱え、一定の利益を出す優良子会社だった。しかし中長期戦略に基づき、非中核事業との位置付けは変わらないと判断し切り出した。
日立製作所、三菱電機、NECを母体とするルネサスエレクトロニクス。10年の発足後も親会社3社が約25―34%の株式を握り、各社の1事業部門のように運営されてきた。このため「ガバナンスが欠如した状態」(業界関係者)に陥り、製品群の絞り込みや工場の集約が進まず、赤字を垂れ流してきた。
再生請負人が見た「日本の現場力は世界一」
ルネサスが生まれ変わった理由は何か。産革機構が実施したのは、約1383億円を出資し支配株主となり、コーポレートガバナンス(企業統治)を効かせるという「非常にシンプルなこと」(朝倉専務)だった。「その後は、社員自らがプランを策定し実行してくれたので、口を出す必要はなかった。日本企業の現場力は世界一だと感じた」と朝倉専務は振り返る。
今後、ルネサスが成長軌道に移行するのは容易ではない。半導体業界では、市場の成熟化が進んだ結果、世界的な再編が加速している。ルネサスと車向け半導体でしのぎを削るオランダ・NXPセミコンダクターズが米フリースケールセミコンダクタを買収するなど、ライバルが規模拡大によって存在感を高めている。
またスマートカー(近未来自動車)や、モノのインターネット(IoT)といった新領域では、半導体からアプリまでシステム構成が幅広いため、半導体だけを提供しても顧客ニーズには十分に応えられない。このためアプリケーション(応用ソフト)やサービスまで含めて提供するソリューション展開という新たな競争が始まっている。
ルネサスがこれらの課題を乗り越えるためには、他社との効果的な提携戦略が欠かせない。24日付で就任した遠藤隆雄会長兼最高経営責任者(CEO)は、「弱い技術や市場を補完する足し算ができる会社がターゲット。プレーヤーが少なくなっているので焦りはあるが、慎重かつ大胆に提携戦略を進める」と意欲を示す。
特に注目されるのは、インターネットに常時接続される“つながる車”や先進運転支援システム、自動運転を巡ってビジネスチャンスが急拡大する車分野だ。ルネサスは車向けマイコンで世界首位にあり、車関連企業への販路拡大を目指す企業を巻き込んでいける可能性はある。
調査会社ガートナージャパンの山地正恒半導体/エレクトロニクス・グループ主席アナリストは、「ルネサスが自社の製品ラインアップを補完する目的で、自動運転の頭脳となる高機能プロセッサーや、センサー関連メーカーと組むメリットは大きいのではないか」と指摘する。
あの収益事業を売るとは・・
ルネサスの業績が回復したのは、為替の円安が進んだこと、そして人員削減や工場閉鎖、事業売却といった構造改革に依るところが大きい。この構造改革を振り返ると同社の変化が見えてくる。14年3月にソニーに売却した鶴岡工場(山形県鶴岡市)。実はルネサスは13年8月、いったんは自主閉鎖する方針を掲げた。その計画に待ったを掛けたのがソニーだった。
ルネサスは車、産業機器分野の半導体に絞り込んで経営再建を進める方針で、民生機器向けLSIを手がけていた同工場は早くから売却対象に上がっていた。13年に入ってからはソニーのほか、台湾TSMCなどとも交渉してきたが、「だらだらと長引いていた」(元ルネサス幹部)。
そこでルネサスが決断したのが、自主閉鎖だった。問題を先送りにし改革がなかなか進まなかったルネサスが「シビアな経営判断を下せる自律した組織へと生まれ変わる兆しが見えた」(同)瞬間だった。
交渉を先延ばしにするような動きをみせていたソニーは、予想外の展開に慌てた。本気を出したソニーは、ジャパンディスプレイ(JDI)の案件に携わったエース級のM&A(合併・買収)チームをルネサスの「鶴岡案件」に投入し、その後、スピーディーに交渉がまとまった。
「あの収益事業を売るとは」―。子会社だったルネサスエスピードライバ(RSP)を、米シナプティクスに14年10月に売却した決断も業界に変化を印象付けた。中小型液晶パネル向け駆動ICを手がけるRSPは、米アップルを主要顧客に抱え、一定の利益を出す優良子会社だった。しかし中長期戦略に基づき、非中核事業との位置付けは変わらないと判断し切り出した。
日立製作所、三菱電機、NECを母体とするルネサスエレクトロニクス。10年の発足後も親会社3社が約25―34%の株式を握り、各社の1事業部門のように運営されてきた。このため「ガバナンスが欠如した状態」(業界関係者)に陥り、製品群の絞り込みや工場の集約が進まず、赤字を垂れ流してきた。
再生請負人が見た「日本の現場力は世界一」
ルネサスが生まれ変わった理由は何か。産革機構が実施したのは、約1383億円を出資し支配株主となり、コーポレートガバナンス(企業統治)を効かせるという「非常にシンプルなこと」(朝倉専務)だった。「その後は、社員自らがプランを策定し実行してくれたので、口を出す必要はなかった。日本企業の現場力は世界一だと感じた」と朝倉専務は振り返る。
今後、ルネサスが成長軌道に移行するのは容易ではない。半導体業界では、市場の成熟化が進んだ結果、世界的な再編が加速している。ルネサスと車向け半導体でしのぎを削るオランダ・NXPセミコンダクターズが米フリースケールセミコンダクタを買収するなど、ライバルが規模拡大によって存在感を高めている。
またスマートカー(近未来自動車)や、モノのインターネット(IoT)といった新領域では、半導体からアプリまでシステム構成が幅広いため、半導体だけを提供しても顧客ニーズには十分に応えられない。このためアプリケーション(応用ソフト)やサービスまで含めて提供するソリューション展開という新たな競争が始まっている。
ルネサスがこれらの課題を乗り越えるためには、他社との効果的な提携戦略が欠かせない。24日付で就任した遠藤隆雄会長兼最高経営責任者(CEO)は、「弱い技術や市場を補完する足し算ができる会社がターゲット。プレーヤーが少なくなっているので焦りはあるが、慎重かつ大胆に提携戦略を進める」と意欲を示す。
特に注目されるのは、インターネットに常時接続される“つながる車”や先進運転支援システム、自動運転を巡ってビジネスチャンスが急拡大する車分野だ。ルネサスは車向けマイコンで世界首位にあり、車関連企業への販路拡大を目指す企業を巻き込んでいける可能性はある。
調査会社ガートナージャパンの山地正恒半導体/エレクトロニクス・グループ主席アナリストは、「ルネサスが自社の製品ラインアップを補完する目的で、自動運転の頭脳となる高機能プロセッサーや、センサー関連メーカーと組むメリットは大きいのではないか」と指摘する。
日刊工業新聞2015年06月26日深層断面