ニュースイッチ

元グーグル副社長・村上憲郎氏から見た「Googleが考える近未来」

「IoT、ビッグデータ、AI、が切り拓くスマートコミュニティ」基調講演より

IoTのアプリケーションはまだ分からない。ヒントはビッグデータにある


 ここで少し別の話をすると、インターネットの世界における大きなデバイスで取り残されているのがテレビ。これがスマートテレビという方向を今模索しつつある。これは、新しい受像機の話をしているのではない。エコシステムの話だ。エコシステムというのは生物学上の用語で、ある区切られた空間で植物とか生物とかがお互いに助け合ったりという全体像のことを生態系エコシステムと呼ぶ。スマートテレビというのもエコシステムで、なぜこんな話をしているかというと、インターネットをベースとしたビジネスはエコシステムとして捉えるのが最も捉えやすい。

 このエコシステムというのは層をなしたレイヤー構造をつくる。下からプラットホームレイヤー、その上が物理レイヤー。その上がアプリケーションレイヤー、その上がコンテンツレイヤーという形だ。スマートテレビは新しい受像機ではなくて、こういう4つのレイヤー構造をもったエコシステムである。

 このスマート化の大きな動きを前に、一気に出てきたのがスマートグリッドという考え方だ。「賢い電力網」と呼ばれるアイデアで、オバマ政権がリーマン・ショックの後で打ち出したグリーンニューディールの中で、ITにかかわる3本柱の1つとしてスマートグリッドというものを推し進めることにした。これは決して今ある送電網を全部つくりかえる、といった話ではない。電力網に対してインターネットが寄り添う考え方だ。日本では2020年の東京オリンピック・パラリンピックあたりまでにこれを実現しようという動きがあり、スマートコミュニティーを大きくみせていくために電力システム改革が5年かけて始まり、その中でスマートグリッドを実現していくのだろう。

 現在、電力網に接続している電気機器は2020年にはスマートグリッドに接続していることになる。スマートグリッドの情報網はインターネットなので、2020年には電気機器はインターネットに接続しているのが当たり前という時代を迎える。それで実現されるのが、モノのインターネット(IoT)だ。IoTにつながるもののネーミングは、現存するものの前に、“スマート”とつけさえすればいい安直なものだ。家はスマートハウス、電力計はスマートメーター、家電品はスマートアプライアンス、自動車はスマートビークル、別名コネクティッドカーといった言われ方もする。
 
 今はインターネットでいう黎明期の1995年。ラリーもサーゲイも出会っていない

 これによって一体何が実現してくるかというと、過去二十数年でインターネットが人と人とのコミュニケーションに供されてきたが、今後はIoTによって人と物。もっというと、物と物がコミュニケーションをとっていくという時代が登場してくる。2018年には全世界で80億台のIoTデバイスが登場するという予測がある。急速に物がインターネットにつながってくるということは、従事されているさまざまな産業に大きな影響を与えてくるだろう。

 IoTのアプリケーションというのは一体何だろう?ということになるが、まだ分かっていない。上のほう3つくらいがやっと分かっている。まずはつながっている電気機器などが、どのような消費電力を今使っているかがリアルタイムに測定可能できることが最初のアプリケーションだ。2つ目のアプリケーションはデマンドレスポンスの考え方。東日本大震災まで私たち需要家は、それこそ湯水のごとく電気を使ってきた。しかし日本でも電力需給が逼迫するという時代を迎えつつあり、そろそろデマンドサイド、我々需要家、一般家庭、あるいは会社、あるいは工場が需給の逼迫に対し、それなりの応答をしなければいけなくなっている。

 3つ目として、まぁそうだろうな、といわれているのが見守りサービス。高齢者の生活を遠隔地でも確認したいというものだ。例えば息子がニューヨークに住んでいて、おやじがひとりでちゃんと暮らしているかをスマート炊飯器で見たり、トイレからヴァイタルシグナルを取ったりする。

 4つ目以降のアプリケーションとして私は、大学の後輩たちに「君たちがつくりなさい」と言っている。IoTの今、2015年は、インターネットでいうと黎明期である1995年のようなもの。グーグルのラリーとサーゲイもまだスタンフォードで会っていない時代。だからこの4つ目以降のアプリケーションをもし思いついたら、それこそ大化けする可能性を秘めている。そのヒントを、一言でいうとビッグデータということになる。

ニュースイッチオリジナル
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
以前、グーグルの日本法人の社長を務めた某氏が「グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた」という本を出した。でもグーグルのことなら「そうだ、村上さんに聞いてみよう」である。

編集部のおすすめ