介護現場でロボットの導入が進まないのはなぜ?作り手と使い手が一緒に考える

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海光園「サンデイふれ愛デイ」
 さまざまなロボットが開発され、実証が進んでいる介護現場。しかし本格的に導入している現場はまだ少ない。ロボットの使い手側、作る側両方から介護ロボットをはじめとするサービスロボットの今後を考えるイトークイベントが、「2017 国際ロボット展」にて開催された。

左から、鵜久森洋生社長、長谷川みほ施設長、近藤那央さん

場の空気感を作るのはロボットの方が優れている?


 まず「使い手」として登壇したのは、静岡県熱海市にある社会福祉法人海光会の指定介護福祉施設「海光園」施設長の長谷川みほさん。ここは2013年に導入したアザラシ型ロボット「PARO(パロ)」を皮切りに、さまざまなロボットを活用し、日々の業務改善に役立てている。現在はパロ、移乗リフト、ベッドが車いすに変換する「リショーネ」、睡眠状態を把握するセンサ「眠りSCAN」を導入している。さらに2017年にぬいぐるみに付けるボタン型スピーカー「Pechat(ペチャット)」を導入。スマートフォンで文字や音声を入力することで、ぬいぐるみがしゃべっているかのように声が出る仕組みだ。実際にペチャットを付けたぬいぐるみと触れ合った入所者はおしゃべりが進んだり、一緒に歌を歌ったり、活発になったという。

 海光園では10月22日に「サンデイふれ愛デイ」というイベントを開催。トークショーや体験コーナーを設け入所者だけでなく地域の方々や学生たちとコミュケーションを取っている。そこに参加したのが、水中を泳ぐペンギンロボットを開発しているチーム「TRYBOTS」。今回のトークイベントでは「作り手」として代表の近藤那央さんが登壇した。海光園でペンギンロボットを披露した時の様子を振り返り、「今まで子供向けのイベントを中心に行ってきたので、大人向けのイベントは初めてだった。お年寄りの方々に笑顔になってもらい、純粋に楽しんでいただけたので良かった」と話した。長谷川さんは「普段のお年寄りに比べ表情や歓声が出ていて、そういった場の空気感を作ることができるのは実はロボットの方が優れているのかもしれない」と指摘した。

ペンギンロボット

人の手で行うことが逆にリスクを高めていることも


 介護ロボットの現状に関して、近藤さんから「サービスロボットや可愛いロボットを作るとなると半ば決まり文句のように『福祉施設での利用』を謳っていることが多い。またサービスロボット系では福祉介護向けが多く開発されているが、その割にまだ導入例は少ない。導入に至るまでの壁があるのではないか」という問題提起がされた。長谷川さんはそれに対し、「作り手側はモノありきで開発しているのではないか。マーケティングができていない気がしている」と話す。

 海光園ではロボット導入の際、「課題に対しどう対応するかという観点で、人の手を機械に置き換えるためにロボットを導入している」(長谷川さん)。人の手で苦労している仕事を機械に置き換えることによりサービスの質が高まる、従業員の仕事の質も向上する。そういった実例を作ることで、どんどん新しいものを取り入れたとしても従業員の抵抗なく進められるのだという。また2カ月に1回ロボットの稼働状況などのヒアリングの機会を設けている。「常に入所者や職員の声を聞くことがズレを起こさない鍵」と長谷川さんは話す。近藤さんも「ロボットというだけで壁を感じてしまう方がすごく多く、それを解かしていく活動を行ってきた。福祉施設側も土壌づくりから始める必要がある」と実感する。

 ロボットを介護施設に導入する際のハードルの1つが安全性の問題だ。お年寄りは転倒したりけがをしやすく、安全性にナイーブになる施設も多い。「けがには避けられるものとどうしても避けられないものがあるが、それを『人の手で、量をこなす』ことで最小化しようとしているのが現状。でもムダな動きや比重のかけ方のバランスが悪かったりしている。人の手で行うことが逆にリスクを高めていることもある。介護施設側はそういったムダを分析できていない」(長谷川さん)。海光園ではそこに着目し、改善を重ねている。安全性とは何かをもう一度考え直す必要があるのだと、長谷川さんは強調する。

 ロボットの作り手側としても安全性の問題は大きい。実際に導入される製品になるまでには認証に時間がかかることもある。「実証の段階で施設の方の意見を取り入れながら改善をしていくことで、製品化したり本格導入時する際のハードルを下げていけるのでは」と近藤さんは話す。認証に関しては司会の鵜久森社長も「現実問題に対しどうアプローチできるかが重要」と話す。

もっと明るく、ポジティブに


 ロボット導入に対し、使い手側の変革も必要だと話す長谷川さん。海光園ではオペレーションの見直しを積極的に行っている。まず、すべての業務の時間を計測。そこから時間がかかっている業務にメスを入れていった。例えば排泄介助ではおむつの交換が必要だが、いちいちおむつがまとめて置いてある「おむつ台車」まで取りに行くムダが発生していたことが判明。一人ひとりにカートを用意したところ、1日あたり約2時間の削減に成功した。その生まれた時間でレクリエーションを行うようになったという。
 この結果に対し「時間の余裕が生まれたからこそ、ロボットなど新しいものを取り入れることができているのではないか」と近藤さんは指摘する。「こういった事例を作り手が知ることで変わってくることがもっとあると思う」(近藤さん)。
 
 「介護用に作られたロボットではなく、ペチャットのような誰でも喜ぶようなロボットが介護現場で活躍しているなと実感した。これが『お年寄りを喜ばせよう』と開発されたロボットだったらこんなに受け入れられなかったのでは」と海光園の事例を見て近藤さんは話す。誰かが喜ぶ、とピンポイントに開発するのではなく、誰もが喜んでくれるようなものを目指し開発することが求められているのだろう。誰もが喜ぶ、という観点からは、長谷川さんは「介護はどうしても暗いイメージを持たれがち。もっと明るく、ポジティブに、楽にサービスができるようにしていきたい」と意気込む。

ニュースイッチオリジナル

COMMENT

昆梓紗
デジタルメディア局
記者・編集者

海光園さんの事例がどんどん広がっていけば、作り手も使い手も本当に現場にあったロボットが何か、何を改善すべきかが見えてくるのではないかと思いました。

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