「エッジヘビーコンピューティング」で共鳴するファナックとPFN

ロボットでイノベーション創出

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本社ビル地下にあるPFNのロボットルーム。左のロボットでパウチを掴む
**ファナック・稲葉清典専務インタビュー
 ―ロボット事業が好調に推移してます。
 「米国、欧州、日本など世界で順調に伸びており、中国は突出している。産業別では自動車関連向けのロボットが堅調に推移するが、伸び率では車以外の一般産業向けの方が高い。一般産業では電子関連が伸びているほか、医療、食品、建設、住宅など新規に市場が加わる。地域でも産業別でも新たなロボット需要が生まれているのが特徴だと思う」

 ―好調な市場環境は今後も続きますか。
 「引き続き堅調だとみている。国内は車や電子部品を中心に需要が継続し、食品や物流などさまざまな分野で需要が伸びている。海外は下がる要因が今のところない。中国は伸び率が徐々に穏やかになると思うが、電気自動車やスマートフォンなどのIT産業が伸びており高原状態が続く。ロボットの生産能力も現状の月6000―7000台から、新工場が稼働する18年に同9000台、最終的に同1万1000台へと引き上げていく」

 ―10月に工場用IoT(モノのインターネット)基盤「フィールド・システム」の運用をはじめました。
 「ロボットなど工場内のあらゆる機器やセンサーをネットワークでつなぎ、デジタル化された情報をクラウドではなく現場に近い『エッジ』側で集約するインフラがフィールド・システムで整った。今後は集めた情報をリアルタイムに分散学習するAI(人工知能)技術に強みを持つプリファード・ネットワークス(東京都千代田区)と連携したアプリケーションなどを順次提供する計画で、29日開幕の『国際ロボット展』でも主要展示する」

 ―安全柵を設けず人のそばで作業できる「協働ロボット」も注目されています。
 「IoTやAIと連携する上でも協働ロボットは重要で、ラインアップを拡充する。FA(工場自動化)など各事業本部との連携では、加工機とロボットを組み合わせた自動化システムを簡単に導入できる『簡単スタートアップパッケージ(QSSP)』や、ファイバーレーザー発振器とロボットを組み合わせた溶接システムなどもアピールする」
ファナック取締役専務執行役員ロボット事業本部長・稲葉清典氏

【記者の目】
今後は組み付けなどこれまでロボットの導入が難しかった作業の自動化が求められ、協働ロボットはこうした人がメーンで手がける工程への導入が期待される。またこうした作業は人との連動やロボット同士の連携など柔軟性も必要になり、フィールド・システムやプリファード・ネットワークスとのAI技術の重要性がさらに高まりそうだ。
(西沢亮)

日刊工業新聞2017年11月24日



PFN、世界を変える物語は続く


 「深層学習により、それらを使う応用分野もITの分野も根本的に変わろうとしている。私たちとしては、こうした変化の波を重ね合わせ、より大きな波を起こしていきたい」

 日本を代表する人工知能(AI)関連スタートアップのプリファード・ネットワークス(PFN、東京都千代田区)。同社が7月24日に開いたメディア説明会の冒頭、西川徹社長はこう言葉に力を込め、自分たちの進む方向をしっかり指し示しました。

 PFNの強みは何より、深層学習のアルゴリズムの開発力。それに加えて力を入れているのが、IoT(モノのインターネット)と深層学習とを融合させた応用分野であり、①自動運転などの交通システム②産業用ロボットなどの製造業③がん診断などライフサイエンス-という3つの分野に的を絞っています。

 それぞれトヨタ自動車、ファナック、国立がん研究センターおよび産業技術総合研究所という強力なパートナーとタッグを組んで研究開発を進めていますが、西川社長によれば、各分野の専門家を社内に揃えているところにも強みがあるといいます。

 例えば、東京・大手町のオフィス街ど真ん中に位置する本社ビルの地下に、ロボットルームを設置しているほど。レストランの並びにあるこの一室にはファナック製の黄色いロボットが4台置いてあり、そのうち1台は、パウチ製品のように柔らかく不定形のモノをエアで吸引して掴むための研究用。カメラ画像をもとにどの部分を掴みに行ったらいいか、深層学習で予測するアルゴリズムを採用しています。

 このほかにも、ロボットがゼロから学習しながらカゴにバラ積みされた部材を取り出したり、ロボットや機械の故障予知、工作機械を起動間もない状態でも使えるようにする熱変異補正、消耗品の寿命予測、製品のキズ検査-といった技術開発に取り組み、今年中の商品化に向けて最終調整を進めているとのこと。

 ライフサイエンス分野の取り組みでも、血液などからがんの遺伝子変異を診断する「リキッド・バイオプシー」を深層学習と組み合わせることで、99%以上の診断精度が得られる可能性があると言います。

 さらに、同社がIoT関連で重要視しているのは、データ分析だけでなく分析データを制御に使えること。特に自動運転車の関係では、「雪山や雨の中でもロバスト(安定的)にクルマを制御できる汎化性能(未知データに対して正解を出せる能力)を持たせられる可能性がある。それが深層学習の大きな利点」と西川社長は説明します。

 一方で、そんな同社に課題があるとすれば、人材集めかもしれません。昨年出場したドイツ・ライプチヒでのアマゾン・ピッキング・チャレンジは惜しくも2位に終わったものの、同じ部門で1位だったオランダのデルフト工科大学チームから2人ほどが入社し、思わぬ収穫だったと言えるでしょう。

 ただ、西川社長によれば、グーグルやフェイスブック、ウーバーなどと優秀な人材の取り合いになることもあるという。そうした事情からか、今年5月に発表した米マイクロソフトとの深層学習ソリューション分野での戦略的協業にも、両社共同による人材育成プログラムが含まれていました。

 人材面では、8月1日付で米カリフォルニア大学バークレー校(UCバークレー)のピーター・アビール教授がテクニカルアドバイザーに就任の予定。同教授はロボットに機械学習を適用する最適化・自動化分野の第一人者で、深層強化学習によるロボット制御で世界最先端の研究成果を数多く発表しているのだそうです。

 「互いによく知っていたのですが、アビール教授は理論に加え、実用化のマインドも強い。彼にいろいろアドバイスを受けながら、深層学習や強化学習の実用化を進めていきたい」。岡野原大輔副社長はこう期待しています。

 ではこの先、PFNは具体的にどんな会社を目指していくのでしょうか?

 「世間からはソフトウエアの会社と見られているが、ソフトウエアの会社で終わるつもりはない。これからはソフトウエア、ハードウエアの境界がどんどん曖昧になり、コンピューターサイエンスの概念も変わっていく。そうした中で、多様性と成長を結び付けられる環境を用意して世の中の流れにフレキシブルに追従し、変化を巻き起こしていく」と西川社長。

 岡野原副社長も、個人の能力を生かしつつ、新しい重要な課題にチームで挑戦し、いち早く実用化することの重要性を掲げながら、同社が提唱する「エッジヘビーコンピューティング」でのイノベーション創出を視野に入れています。エッジヘビーコンピューティングとは、ネットワークのエッジ(末端)にあるデバイスで分散協調的にデータを処理する技術のこと。

 「最終的には、さまざまなデバイスに知能が埋め込まれた知能化システムが、生のデータを共有せずに学習済みモデルを共有できる世界を目指す」(岡野原副社長)。

 PFNが設立されて3年余。AIを通して日本から世界を変える挑戦の物語は、まだまだ続きます。
プリファード・ネットワークスの西川徹社長

(文=藤元正)

日刊工業新聞2017年7月31日



<国際ロボット展主催者イベント>
               

COMMENT

明豊
執行役員 DX担当
デジタルメディア局長

ファナックの清典専務は「フィールド・システム」の陣頭指揮をとっており、西川社長を始めとするPFNと気脈が通じ合っています。来週開幕する国際ロボット展(東京ビッグサイト)の初日29日には、ファナックの清典専務ほか主要産業用ロボットメーカーの責任者や、ユーザー企業としてトヨタなどが参加するパネルセッションがあります。そのほかにもさまざまな関連イベントがありますので、ロボットの最新事情を触れに来て下さい。

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