「画が出ない、画にならないカメラ」で介護業界の負担を減らす!
【連載】挑戦する地方ベンチャー SEtech(神奈川県藤沢)
イメージセンサ技術を応用し、新規カメラ機器を開発するベンチャー「SEtech」。その軸となっているのが、「画が出ないカメラ、画にならないカメラ」だ。一体どのようなものなのか、社長の関根弘一氏に話を伺った。
関根社長はもともと東芝で長年イメージセンサの研究開発に携わっていた。定年退職後、何かビジネスに展開したいと開発したのが「SEカメラ」だ。これは「画が出ないカメラ」=「特定の領域で動きがなければ画を表示しないカメラ」である。東芝時代に「画が出るセンサ」しか作ってこなかった反省の元、その経験を生かし特許を取得したものだ。
例えばSEカメラをある区域に監視カメラとし設置するとする。通常時は画を出さず、カメラの特定領域(例えば立ち入り禁止区域など)に侵入者があった時のみ静止画を複数枚Wi-Fi経由で出す。これにより空き巣や不審者の動きを記録することができる。常に動画を出し続けるような監視カメラとは違い、動きがあった時のみ出力するため、後のデータ処理が容易であり、データ容量も少なく済む。周期的に電源を入り切りする省エネ駆動モードも付加した。さらに撮影条件指示(特定領域の設定、駆動する周期など)はSDカードで行い、ネットワークを経由しないので、外部からハッキングされる心配もない。
このカメラの開発は、介護施設の課題解決を意識して取り組んできた。「介護施設を見学に行った際、部屋にカメラが取り付けてあったのですが、すべての部屋の映像を職員が常にチェックするのには限界があると実感しました。また被介護者側も、プライバシーが保たれていないことを気にしていました」(関根社長)。そこで、何かがあった時のみ映像が撮影されるカメラを思いついた。これにより、例えばプライバシーに配慮し室内の動きは感知せず、徘徊を防止するためドア付近の動きのみをカメラで感知するなどといった使い方ができるという。
さらに「画にならないカメラ」も開発した。画素を一列に配置したカメラで、移動物体以外は画にならない。これを便座に複数個取り付けて便の潜血を感知する。全方向から便を検査するので見落としが少なく、かつ被検者の採取が不要のため、毎日の検査も負担なく行えると期待。従来の健康診断で行われる検便キットによる検査だと、便表面一部からしか採取しないため、初期段階の大腸癌の見落としが半分ほど発生してしまうという。現在、大学病院と臨床試験に向けた準備を進めている。
前者のSEカメラは多くの場所への導入やコスト削減をめざし、小型化も計画している。来年以降、専用センサの開発にチャレンジすることで、現在35mm程度の大きさのSEカメラから、東芝時代に開発した技術を用いて大幅なサイズ縮小も構想している。
さらにこの専用センサでは、背景の静止画を消し、動きのベクトルを出力する機能も構想している。例えば、撮影領域内に手を動かし入れると、動きのある手の輪郭だけが表示されるという仕組みだ。スポーツゲームや、VRと組み合わせたリハビリゲームなどへの応用ができるのではと考えているという。
介護・ヘルスケア業界以外での幅広い応用も見込めるSEカメラ。例えば街中、建設現場や私有地などでの防犯のための監視。ビルや店舗内での人の流れの管理や、マーケティングへの応用する、などとさまざまな展開が見込める。関根社長は「幅広いお客さんにカメラを見てもらい、何に使うのか、どのようなシステムに組み込むかなどを考えてもらいたい。自分だけでは考え付かない分野に広げていきたい」と話す。大手へのライセンス供与も視野に入れている。
エンドユーザーが何を本当に必要としているか、を考えるようになったきっかけは東芝時代に内視鏡用センサの開発に携わった経験にあるという。「内視鏡では医師の過去の経験が活きるように色再現性を良くすることを意識していたのですが、本当に必要とされていたことは『色を鮮やかにする』ではなく『病気を見つける』ということだったんです。そこから、目の前の客でなく、エンドユーザーの声が重要なんだ、と実感しました」。ベンチャー企業を立ち上げてからは、とにかく現場の声を聞くことを重点的に行い、そこで見えてきた課題をもとに開発を進めるというスタイルを重視している。
東芝時代から神奈川県にゆかりの深い関根社長。出身が湘南藤沢だったこともあり、「湘南からビジネスを発信したい」と意気込む。国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の2016年度研究開発型ベンチャー起業家支援補助金に採択され、「画が出ないカメラ」と「画にならないカメラ」を試作した。この開発ワークを通じNEDOネットワーク以外に、現在入居している湘南藤沢インキュベーションセンターのルートも活かし、湘南地域での起業家ネットワークや、慶應藤沢イノベーションビレッジとの繋がりも広がってきたという。
神奈川県としても大手電機メーカーの拠点があることも関係し、力のある中小企業や技術ベンチャーが多い。さらに近年ではロボット、未病などのテーマをもとに技術を集積する例も増えている。関根社長は神奈川県が主催する「シニア起業家ビジネスグランプリ2017」にて神奈川県知事賞を受賞した。「これがきっかけでマスコミに掲載され、シニア起業家としての知名度が上がった」と関根社長は話す。「周りの元同僚は現役で活動している人も多いが、シニア起業家はまだまだ少ない。若い頃に比べしがらみも少ないし、もっと起業する人が増えればと思います」。
動きがある時だけ出力
関根社長はもともと東芝で長年イメージセンサの研究開発に携わっていた。定年退職後、何かビジネスに展開したいと開発したのが「SEカメラ」だ。これは「画が出ないカメラ」=「特定の領域で動きがなければ画を表示しないカメラ」である。東芝時代に「画が出るセンサ」しか作ってこなかった反省の元、その経験を生かし特許を取得したものだ。
例えばSEカメラをある区域に監視カメラとし設置するとする。通常時は画を出さず、カメラの特定領域(例えば立ち入り禁止区域など)に侵入者があった時のみ静止画を複数枚Wi-Fi経由で出す。これにより空き巣や不審者の動きを記録することができる。常に動画を出し続けるような監視カメラとは違い、動きがあった時のみ出力するため、後のデータ処理が容易であり、データ容量も少なく済む。周期的に電源を入り切りする省エネ駆動モードも付加した。さらに撮影条件指示(特定領域の設定、駆動する周期など)はSDカードで行い、ネットワークを経由しないので、外部からハッキングされる心配もない。
このカメラの開発は、介護施設の課題解決を意識して取り組んできた。「介護施設を見学に行った際、部屋にカメラが取り付けてあったのですが、すべての部屋の映像を職員が常にチェックするのには限界があると実感しました。また被介護者側も、プライバシーが保たれていないことを気にしていました」(関根社長)。そこで、何かがあった時のみ映像が撮影されるカメラを思いついた。これにより、例えばプライバシーに配慮し室内の動きは感知せず、徘徊を防止するためドア付近の動きのみをカメラで感知するなどといった使い方ができるという。
さらに「画にならないカメラ」も開発した。画素を一列に配置したカメラで、移動物体以外は画にならない。これを便座に複数個取り付けて便の潜血を感知する。全方向から便を検査するので見落としが少なく、かつ被検者の採取が不要のため、毎日の検査も負担なく行えると期待。従来の健康診断で行われる検便キットによる検査だと、便表面一部からしか採取しないため、初期段階の大腸癌の見落としが半分ほど発生してしまうという。現在、大学病院と臨床試験に向けた準備を進めている。
前者のSEカメラは多くの場所への導入やコスト削減をめざし、小型化も計画している。来年以降、専用センサの開発にチャレンジすることで、現在35mm程度の大きさのSEカメラから、東芝時代に開発した技術を用いて大幅なサイズ縮小も構想している。
さらにこの専用センサでは、背景の静止画を消し、動きのベクトルを出力する機能も構想している。例えば、撮影領域内に手を動かし入れると、動きのある手の輪郭だけが表示されるという仕組みだ。スポーツゲームや、VRと組み合わせたリハビリゲームなどへの応用ができるのではと考えているという。
介護以外にも展開
介護・ヘルスケア業界以外での幅広い応用も見込めるSEカメラ。例えば街中、建設現場や私有地などでの防犯のための監視。ビルや店舗内での人の流れの管理や、マーケティングへの応用する、などとさまざまな展開が見込める。関根社長は「幅広いお客さんにカメラを見てもらい、何に使うのか、どのようなシステムに組み込むかなどを考えてもらいたい。自分だけでは考え付かない分野に広げていきたい」と話す。大手へのライセンス供与も視野に入れている。
エンドユーザーが何を本当に必要としているか、を考えるようになったきっかけは東芝時代に内視鏡用センサの開発に携わった経験にあるという。「内視鏡では医師の過去の経験が活きるように色再現性を良くすることを意識していたのですが、本当に必要とされていたことは『色を鮮やかにする』ではなく『病気を見つける』ということだったんです。そこから、目の前の客でなく、エンドユーザーの声が重要なんだ、と実感しました」。ベンチャー企業を立ち上げてからは、とにかく現場の声を聞くことを重点的に行い、そこで見えてきた課題をもとに開発を進めるというスタイルを重視している。
東芝時代から神奈川県にゆかりの深い関根社長。出身が湘南藤沢だったこともあり、「湘南からビジネスを発信したい」と意気込む。国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の2016年度研究開発型ベンチャー起業家支援補助金に採択され、「画が出ないカメラ」と「画にならないカメラ」を試作した。この開発ワークを通じNEDOネットワーク以外に、現在入居している湘南藤沢インキュベーションセンターのルートも活かし、湘南地域での起業家ネットワークや、慶應藤沢イノベーションビレッジとの繋がりも広がってきたという。
神奈川県としても大手電機メーカーの拠点があることも関係し、力のある中小企業や技術ベンチャーが多い。さらに近年ではロボット、未病などのテーマをもとに技術を集積する例も増えている。関根社長は神奈川県が主催する「シニア起業家ビジネスグランプリ2017」にて神奈川県知事賞を受賞した。「これがきっかけでマスコミに掲載され、シニア起業家としての知名度が上がった」と関根社長は話す。「周りの元同僚は現役で活動している人も多いが、シニア起業家はまだまだ少ない。若い頃に比べしがらみも少ないし、もっと起業する人が増えればと思います」。
ニュースイッチオリジナル