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日本発「フィンテックベンチャー」が立ち上がる

個人向けに市場拡大、進む金融機関との連携
日本発「フィンテックベンチャー」が立ち上がる

フィンテックイベントには国内外から参加相次ぐ

 ITと金融の融合領域では「フィンテックベンチャー」と呼ばれる新興企業が続々と登場している。その多くは事業規模がまだ小さいものの、成長力はずば抜けて高く、金融デジタル革新に新風を吹き込んでいる。当初、静観していた金融機関らもこぞってフィンテックベンチャーとの連携に動き出し、仲間作りに奔走する。欧米に比べて出遅れ感のあった日本のフィンテックはようやく地に足のついたビジネスとして、根を下ろしつつある。
 
 フィンテック企業は家計簿アプリや少額の決済サービスなどが先駆けとなり、個人向けに市場を拡大。さらに株式投資のアドバイスや融資などへと用途が拡大する中で、企業向けでもユニークなサービスが相次いでいる。

売掛債権を早期現金化


 電子記録債権を活用した新たな資金調達手段を提供するのはTranzax(東京都港区)。中小企業が大手企業から受け取った売掛債権を電子記録債権化して、早期に現金化するサービスを2016年に始めた。発注元である大手企業の信用力を生かし、中小企業にも低金利の恩恵をもたらすことが可能となる。
 
 同社は、資金調達の際に大企業に比べて条件が厳しくなる中小企業やベンチャー企業に対して、「トランザクション・ファイナンス」と呼ぶ資金調達を提供するフィンテックベンチャー。2009年創業で、小兵ながらも、中小企業金融のイノベーションの担い手として注目されている。
 
 従業員が働いた実績に応じて「欲しいタイミング」で給与を受け取れる即払い給与サービスを提供するのはドレミング(福岡市中央区)。このほどセブン銀行と提携した。同行が今秋から始めるリアルタイム振込機能を活用し、サービスを拡大する。

フィンテックで給与はその日に


 このサービスを企業が採用すれば、従業員は当日働いた分の給与をその日のうちに受け取ることや、立替経費の即日精算が可能となる。働き方改革で雇用形態や勤務時間などが弾力化する中で、新しい給与払いを通じて多様なニーズに応える方針だ。
 
 お金の形や流れが変わることで、信用やリスクのとらえ方が変わる―。Tranzaxやドレミングの取り組みはこうした流れに沿ったものであり、今後の展開が注目される。
フィノラボ会員にはフィンテックベンチャーのほかに大企業も


大手町にベンチャー拠点


 フィンテックベンチャーの育成に向けて、金融機関やITベンダーはもとより、さまざまな企業が動き出している。日本初のフィンテック拠点として活動するのは、東京・大手町にある共同利用型施設「FINOLAB(フィノラボ)」(東京都千代田区)だ。運営主体は電通、電通国際情報サービス(ISID)、三菱地所。開設2年目を迎える今年2月にリニューアルして拡大。フィンテックベンチャーのほか、みずほフィナンシャルグループをはじめ大手企業数社が会員企業として加盟する。みずほFGはフィノラボ内にラボ施設を設置して話題を呼んだ。
 
 フィノラボは英国の「レベル39」や米シリコンバレーの「プラグ&プレー」などの著名なインキュベーション(起業支援)センターとも交流があり、また国内外の投資家なども出入りしている。みずほFGの大久保光伸シニアデジタルストラテジストはラボ開設の理由について「フィノラボならば実証実験をやるときに、海外の業界団体に声をかけて一斉にテストができる。入居しているフィンテック企業などとも気軽に話ができ、そうしたことに魅力を感じた」と語る。
 
 フィノラボには現在、フィンテックベンチャー40社が入居中で、経営者は逸材そろいだ。「先行きが分からない中で活路を見いだすにはアーティストのような感性が重要」と語るのは日本植物燃料(神奈川県小田原市)の合田真社長。

モザンビークで銀行設立狙う企業も


  合田氏は縁あって2011年にアフリカのモザンビークでバイオ燃料開発プロジェクトに参加。翌2012年には現地法人を設立し、無電化の村に地産地消でバイオ燃料の生産・供給の仕組みを根付かせた。その一環で金融機関とは無縁だった現地の人々に電子マネーカードを配布。これを土台に現在、モバイルバンキングサービスの提供に向けて、モザンビークで銀行の設立を準備している。
 
 Liquid(東京都渋谷区)の久田康弘社長は、投資銀行を経て26才で起業した。ウェブアプリ開発などで起業と売却を繰り返しながら軍資金をため、満を持して2013年にLiquidを設立。スマートフォンを組み合わせた生体認証サービスで先駆け、イオン銀行やハウステンボスなどで実証実験を数多くこなしている。生体認証サービスの海外展開にも力を注いでおり、3月には、指紋を使った決済サービスでインドネシアに進出した。同社にとってはスリランカ、フィリピンに次いで3度目の海外市場参入となる。
 
 これら元気印のフィンテックベンチャーに共通しているのは皆、志が高く、グローバル展開を見据えており、海外のベンチャーキャピタルなどにも社名は知れ渡っていること。
 
 フィンテックベンチャーにとっては、自分たちの存在や独自技術を世の中にアピールし、投資家にも知らしめることが必須だ。その舞台として、プレゼンテーションで競う「ピッチコンテスト」が世界各地で行われている。

全編英語のフィンテックイベント


  国内最大級のフィンテックイベントはISIDが主催する「金融イノベーションビジネスカンファレンスFIBC」。プレゼンを含め、全編を英語で行う本格的なグローバルイベントだ。海外フィンテック企業にとっては対日進出の登竜門としても注目されている。
FIBC2017ではオースリートが国内部門で大賞受賞

 今年3月には6回目となる「金融イノベーションビジネスカンファレンスFIBC2017」が都内で開催された。海外企業の登壇は前年比3倍の15社、国内を含めた合計数も前回を7社上回る29社となり、過去最大となった。FIBC以外でもフィンテック関連のピッチコンテストやハッカソンの開催は相次いでいる。フィンテックベンチャーの台頭により、融資や決済などひとつひとつのサービスが、新たに革新的なサービスへ置き換わっていけば業界の景色は一変する。
尾本憲由
尾本憲由 Omoto Noriyoshi 大阪支社編集局経済部
 フィンテックというとビットコインやICO(新規仮想通貨公開)など、ちょっとバブル気味な話がどうしても取り上げられがち。ただ実際には、ネット企業と言ってもさまざまな企業があるように、フィンテック企業の事業も幅広い。その中で何社がグローバル企業として成長を遂げられるのか。そういう側面から、もっと騒がれても良いように思う。

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