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シンクロするソニーとaiboのミッション

人々の好奇心を刺激し続けるー。イノベーションを創出する土壌着実に
 ソニーが再びペット型ロボット事業に挑む。平井一夫社長がロボット事業への参入を表明してから約1年半、満を持して披露したのは、2006年に販売を終了したペット型ロボット「AIBO(アイボ)」の後継機「aibo」だ。「ソニーらしさ」を掲げ、“新しい文化”を創出したいとしてきた平井社長にとって、新型アイボは「新たなソニー」を作り上げる布石となるか。

 「99年のAIBOの登場は、エンターテインメントを核に人と共に暮らす、新たなロボット文化を生み出した瞬間だった」―。1日にソニー本社で開かれた会見で、平井社長は断言した。99年に生まれたAIBOはコミュニケーションロボットの先駆けとなり、計約15万台を販売した。社会現象にまでなったが、経営不振に伴う構造改革の一貫で撤退を決断。06年に生産・販売を停止していた。

 構造改革の総仕上げを託され、12年に就任した平井社長。就任から5年が経過し、31日には画像センサーやテレビ事業がけん引して大幅増収増益となった17年4―9月期決算を発表した。

 合わせて18年3月期を営業利益が8月予想比1300億円増の6300億円、当期利益は同1250億円増の3800億円、売上高は同2000億円増の8兆5000億円に上方修正。営業利益は20年ぶりの過去最高となる見通しだ。

 ソニーは復活したのか。決算会見や経営方針説明会などで繰り返されてきた問いだ。足元の業績では復活の色が鮮明になっている。

 だが決算会見で“復活”を問われた吉田憲一郎副社長は「20年ぶりに達成できたというより、過去20年間超えられなかったと認識した方がいいかもしれない」と控えめだ。

 それは「新たなソニー」を作り、成長軌道に乗せる、という大きなミッションが残っているからだ。aiboの再登板は、そのための土壌作りと言えそうだ。
                

 平井社長は16年6月にロボット事業への再参入を表明した。FAや物流、介護などBツーB(企業間)も視野に入れるが、ロボット事業を統括する川西泉執行役員は「もう一度ロボットビジネスをスタートする意味では、いったん打ち切った『アイボ』から始めたかった」と明かす。

 さらに現場でも「ソニーの強みであるメカトロニクス技術を生かせるロボットを開発したい、という機運は高まっていた」(川西執行役員)。

 一方、平井社長が繰り返してきたソニーのミッションは「ユーザーに感動をもたらし、人々の好奇心を刺激し続けること」。構造改革後のソニーに最も必要だったのが、イノベーションを創出する力だった。人とコミュニケーションし、愛情の対象となりうるロボットは「ミッションを体現する存在だと確信した」(平井社長)。

 約1年半前、平井社長は開発を指示。人工知能(AI)や駆動技術、センシング技術などが高度化し、動作や学習機能などの性能をより高めたaiboが誕生した。aiboはソニーに「イノベーション」の風土を取り戻すための象徴だ。

 有機エレクトロ・ルミネッセンス(EL)テレビや、高音質ワイヤレスイヤホン、超高解像度の画像センサーなど、既存事業でも「ソニーらしい」と評価される製品は増えている。

 ただし今も「ウォークマンやAIBOで爆発的な社会現象を起こした」という過去のソニーの印象は強い。平井社長が掲げる「ソニーを変える」の実現には、これを打ち破ることが重要。新規分野での“ヒット”の積み上げが必要になる。

川西執行役員はaiboの復活について「ソニーのチャレンジを分かりやすい形で示す」と宣言した。「過去のソニー」「新たなソニー」のはざまで生まれたaiboは、挑戦しやすい風土を取り戻しつつあることを証明する製品とも言えそうだ。

 今後はロボットのシリーズを増やすことや、教育や見守りなどBツーB(企業間)向けビジネス、プラットフォームを生かした課金型のリカーリングビジネスへの展開など「さまざまなレパートリーを検討している」(川西執行役員)。

 aiboの事業が今後どこまで広がり社会へ浸透するかは、次世代のソニーを見通す試金石の一つとなる。その先に新たなソニーの姿が見えてくるかもしれない。
アイボを抱く平井社長
日刊工業新聞2017年11月2日
政年佐貴惠
政年佐貴惠 Masatoshi Sakie 名古屋支社編集部 記者
 イノベーションの風土を醸成するための取り組みとして、新規事業創出プログラム「シード・アクセラレーション・プログラム(SAP)」も進んでいる。14年に社長直轄事業として始まって以来、「香りを持ち運ぶ」というコンセプトを生み出した携帯型アロマディフューザー「アロマスティック」や、バンド部分に機能を搭載した「wena wrist(ウェナ・リスト)」など、10を超す新製品を生み出した。全てに共通するのは「既存事業の枠にとらわれない、新たなコンセプト」であることだ。  ただし収益に貢献するまでには育っていない。幹部社員の一人は「個々の事業を黒字化するのはもちろん重要だが、チャレンジできる雰囲気や土壌を作るといった数字以外の効果を狙っている」と説明する。元々、社員一人一人のオーナーシップメントが強いのがソニーの特徴。小さなプロジェクトを回すことで、事業体を運営できる人材を増やすのも、目的の一つだ。「最大のテーマであり重要なのは、事業を興すカルチャーを根付かせること。その目的は実現されてきた」(吉田副社長)と手応えはある。  復活したソニーがどんな成長路線を描くのか、消費者からの期待は高まっている。ソニーは生まれ変われるのか―。その答えは徐々に見えてきそうだ。

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