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富山にみる運河の業態転換

河川工事で生まれ、物流、観光と用途が変遷
富山にみる運河の業態転換

富岩運河公式サイトより

 紅葉は人を山にいざなう。富山県の立山連峰では今の季節、山頂付近の積雪と、中腹から麓(ふもと)にかけての紅葉を同時に楽しめる。ただ、富山の見どころは山だけではない。

 北前船の港町だった富山市岩瀬地区と富山駅北側を結ぶ富岩(ふがん)運河。そこを運航する観光船「富岩水上ライン」が、就航から8年余りで総乗船客25万人を達成した。乗客は年々増え、2017年の年間客数は過去最高となる見通しだ。

 運河を掘削した発端は、そばを流れる神通川の存在である。市中心部を蛇行し、たびたび氾濫したこの川の直線化工事は大正期に完成した。だが旧流路だった広大な廃川地(はいせんち)が都市の発展に障害となる。そこで運河を掘る土で廃川地を埋め、水運と新市街地を得る都市開発を進めた。

 1935年の完成後は沿岸に工場が建ち並び、資材運搬の役目を担った。高度成長期にその役目をトラックに譲った今は遊覧客を運ぶ。運河の船だまりを整備した富岩運河環水公園は、16年度の利用者が157万人に上る観光地になった。

 河川工事で生まれ、物流、観光と用途が変遷した軌跡は、山々が発する急流の治水・利水が命題だった富山の歴史を凝縮する。業態転換で時代に適応する様は企業経営にも通じるだろう。
日刊工業新聞2017年11月2日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
効率化を優先した過度なモータリゼーションによってあらゆる外出を車で完結させるようになった現代。米国ポートランド(オレゴン州)は早くから、モータリゼーションの悪い部分を是正し公共交通機関を戦略的に活用した街づくりを進めている先進都市として有名だ。日本では富山市がそれに近いかもしれない。

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