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数式で見る、地方が移住者を増やすための戦略

居住地決定の公式は 期待イメージ ×(仕事+生活)
 人口減少に悩む多くの自治体が移住者を増やすために様々な施策を行っています。例えば東京有楽町にあるふるさと回帰センターにブースを設置したり、移住情報をまとめた専門サイトを解説したり、移住体験ツアーを行ったりしています。しかしながら、自治体人口全体からすると微々たる影響で、決して人口減少に対する効果的な施策とはいえないのが現状です。

 そもそも人はどういう基準で住む場所を決めるのでしょうか。それを理解せずに「うちの街に移住してくださーい!」とPRをしても効果は限定的です。

 移住する可能性のある顧客を見つけるところから、自分の町を選んでもらうまでの一連の流れをつくり、それぞれに合わせた施策を打っていくことが大切なのです。

 数学に公式があるように人が居住地を決める公式もあります。公式はどのようなケースにも対応できる数式の定理といういみですが、居住地決定における定理を導き出せれば、あとは計算するだけ。つまり施策を実行するだけなので無駄な努力を省くことができます。

 居住地決定の公式は以下の数式です。

期待イメージ ×(仕事+生活)

 この数値が最大になるところが居住地として選ばれます。

 期待イメージ = その地域で楽しそうな未来を具体的に想像できる度合い
 仕事 = 収入とやりがい
 生活 = コンビニやスーパー、駅など生活インフラの充実度合い

 移住を検討している人に対して「地方は給料は下がりますが、物価も安いので可処分所得は変わりません」と話す人がいますが、それは「仕事」の数値は下がりますが、「生活」の数値が上がるのでプラマイゼロですよ!と言っているに過ぎず、効果的ではありません。

 さらに最も大事なのは「期待イメージ」と「仕事、生活、地域の和」が掛け算になっていることです。いくら(仕事+生活)の合計が高くなっても、「期待イメージ」がゼロだと人は動きません。

 たとえ、今より魅力的な仕事があって、生活インフラが充実していても、その地域で具体的に期待できるイメージができないと移住しないわけです。

 高給でやりがいがあっていい物件に住めるからアルメニアのエレバンに移住しませんか?と言われてもほとんどの人が躊躇するのは、エレバンで生活する将来的に楽しそうな具体的イメージが沸かないからですよね。

 逆に同じ条件で地域ブランド調査2017で1位に輝いた京都市に住めるのであればエレバンよりは移住する人が多いはずです。それは具体的な楽しい生活イメージができるからです。つまり、仕事と生活が高くなっても、期待イメージがゼロだと人は動きません。

最も勝算があるのは28歳前後


 移住者やUターン者を増やすのであれば、上記の公式の合計値が誰にとっていつ最大になるのかを考える必要があります。地方都市が首都圏から移住者、Uターン者を獲得する上で、最も勝算があるのは28歳前後です。それは28歳前後で居住地決定の公式を当てはめた時、東京が相対的に低い値になるからです。

年齢別引っ越しグラフ

 上記のグラフからみても、多くの日本人にとって自分の意志で居住地を決めれるのは、高校卒業時の18歳、専門学校or大学(院)卒業の20~24歳、転職者が多い25~35歳、定年の60歳の4回があります。40歳以降ではほとんど引っ越しをしていません。

 ケースを一般化するために地元(地方都市)VS東京で居住地決定の公式を当てはめてそれぞれのライフステージで見ていきます。
居住地決定の公式

 まずは高校卒業時の18歳。このときは刺激の少ない地元から華やかな都会に憧れているときです。有名な大学に通ったり、渋谷で買い物したり、アーティストのライブに行ったり、アルバイトしたり。仕事(≒大学)も生活も数値が高くなっている上に、テレビやネットを通して東京で楽しく生活している具体的なイメージもできます。

 ですので、このタイミングで地方が東京に勝つことは難しそうです。実際に多くの若者が高校卒業を機に都会に引っ越しています。

 次に大学卒業時の22歳。始めて社会人として働く人も多いタイミングです。有名な企業や大手の企業で働いたり、将来就きたかった仕事につけ、不安と期待が入り交じるときですね。東京のビジネスマン、キャリアウーマンとしてファーストキャリアを歩みだします。

 次が28歳前後。社会人生活も5年目ほどになり、若いベンチャー企業などでは既に中堅的なポジションについているころです。この頃になると心境にある変化が起こり始めます。

 社会人として一定の経験をしており、基礎的なビジネススキルは身についています。なので、新卒~3年目頃までのように目の前の仕事に追われることも少なくなり、中長期的な将来設計を考え始めます。 
  
 結婚、出産、子育て、それに伴う住宅の購入などこれから発生するであろうライフイベントを想像したとき、片道1時間以上満員電車で通勤し、保活に追われ、給料が上がる保障もないのに35年もローンを組まされ、老いゆく地元の両親に会えるのは年に1回か2回という半ば無理ゲーに挑まなければならないことを悟ります。

 東京生活も10年くらいしていると、このまま東京で働き続けてもこの先に輝かしい将来があるとは限らない現実にも薄々と気がついています。

 この結婚から始まるライフイベントを意識する28歳前後というのが、居住地としての東京の評価最も下がるタイミングなのです。この28歳前後というのが地方が東京に勝ちうるタイミングなのです。
 

医療の問題がネック


 最後が定年の60-65歳。すでに子どもは独立しており、夫婦二人暮らしが多いでしょう。このタイミングで新しく発生するのが医療の問題です。

 医療制度が充実していると高齢になっても安心です。医療に関しては人口が多い東京の方が充実しているのは現実です。そうすると自然豊かな地方での生活に興味があっても二の足を踏んでしまうこともあるでしょう。

 このように、移住者を増やすのであれば、闇雲に移住動画や移住キャラなどを作ってPRをするのではなく、どういう人達が移住する可能性が高く、自分たちの地域はどういう人に移住してほしいのか、ということを考え、戦略的に施策を実施する必要があります。

町のポジショニングを意識する


 地方と一言で言っても地理的、歴史的、経済的要件により様々です。だからこそ、自分たちのまちのポジショニングを意識し社会環境や競合する自治体を意識して戦略を作らなければなりません。

 [仕事+生活]の数値を高めるための取り組みはよく見られますが、期待イメージを高める施策はあまり行われてないません。自分がその地で生活している楽しい具体的なイメージを持ってもらうためには、知らない誰かが載っているWEBやパンフレットだけでは弱いです。

 最も効果的なのは自分の身近な人の体験談です。現代はSNSもあるので、先に移住した人、Uターンした人たちが情報発信を積極的に行ってもらえる体制を整えることは移住やUターン者を増やすための有効な施策となるのです。
(文=田鹿倫基)
田鹿倫基
田鹿倫基 Tajika Tomoaki 日南市 マーケティング専門官
 移住者増加を目指して多くの自治体が頑張ってますが、移住相談所にブースを出すとか、WEBサイトを作るとか、同じ施策ばかりをやっています。同じ施策になるとレッドオーシャン化してしまい、頑張っても移住者が増えない→もっと頑張ろう!という悪循環にはいるので、施策も差別化しなければいけません。差別化するためにはちゃんと移住市場がどうなっているのかをマーケティングする必要があるのです。

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