METI
もはや中国では現金いらず
アジャイル経営でフィンテック大国に
世界でもっともフィンテックが進んでいる国として、にわかに注目が高まっているのが中国だ。スマートフォン1台あれば、決済から送金、融資まで、あらゆる金融サービスが受けられる。生活のすみずみにまでフィンテックが浸透し、日本どころか、シリコンバレーを擁する米国さえも遠くに引き離す独走ぶり。フィンテックの世界で中国が今後も主要プレーヤーを演じることになりそうだ。
「いまの中国は、携帯電話の充電器、傘、バスケットボールまでシェアリングサービスの対象になっていた」と、野村総合研究所の上級コンサルタントである李智慧さんは話す。この数年で自転車のシェアリングサービスが急拡大した中国だが、とうとう傘さえもスマホ一つでレンタルできる。財布どころか、天気も気にすることなく出かけることができるわけだ。
中国はいまや世界で、もっともキャッシュレス化が進んだフィンテック大国だ。その中国市場を抑えているのが、この10月に初めて米アマゾンを時価総額で抜いたeコマース最大手のアリババグループのAnt Financialが展開する「支付宝(アリペイ)」と、インスタントメッセージで中国最大手のテンセントの「微信支付(ウィーチャットペイ)」。ともに、スマホを使ってオンラインショッピングや実際の店舗に代わって決済を代行する第三者モバイル決済で、この2雄が中国モバイル決済市場に君臨している。
アリペイもウィーチャットペイも、オンラインショッピングだけでなく実際の店舗でも幅広く決済できるのが特徴だ。スマホでQRコードを読み取るだけと手軽に、「ショッピングや飲食、タクシー、映画館など都市サービスを利用できる。屋台で焼き芋や果物も買えるし、寺で賽銭も払える」(李さん)という。もちろん電気代などの公共料金も支払える。最近ではアリペイによって、杭州市のバスにスマホで乗れるようになっている。シェア自転車やシェア傘のほか、中国版ウーバーである配車サービス「滴滴出行」があっという間に広がったのは、これらモバイル決済が中国で普及しているからこそだ。
人民日報によると、今年4-6月期の中国での第三者モバイル決済市場は約391兆円にも達する。実店舗での決済割合は50.3%と過半数を超え、農村地域でさえ31.7%に達するという。まだまだ現金で支払うのが一般的な日本では、ちょっと想像もできない水準である。この背景には、中国でのスマホ普及と、それまでの金融インフラの遅れがあり、どちらも後発であることの強みを生かしている。
現在、中国のインターネット利用人口は7億人を超え、その9割以上がモバイルユーザーとされる。後発であるが故に、携帯電話であればフィーチャーフォン(いわゆるガラケー)、インターネット利用であればパソコンの時代を瞬く間に通り過ぎ、一気にスマホの時代が到来してしまった。この数年で中国メーカーが次々と台頭し、若者でも購入できる格安スマホが登場したことも大きい。
また中国では金融サービスが充実していない上、高額紙幣も100元(約1700円)が上限。クレジットカードの普及率も低く、より便利な決済方法が求められる気運が高まっていた。そのため大都市だけでなく、むしろ内陸部のように身近にATMもないような不便なところほど、モバイル決済が急速に広がっている。
中国新興企業のインターネットの特性を生かしたスピード感を持った経営戦略も無視できない。アリババ、テンセントとも伝統的な金融企業ではなく、新興のネット企業。「日本企業だと投資対効果はどうだろうかと時間をかけて検討しがちだが、中国のネット企業は、まずはやってみようというアジャイル経営の発想」と李さんは指摘する。市場を予想するのではなく、利用者起点の革新的なサービスや大規模なキャンペーン等で消費者の習慣を変え、市場を作り出す発想である。さらにサービスで蓄積したビッグデータを活用して、付加価値サービスを提供し、利用者をさらに引きつける。
そんなサービスの一つに、アリペイがスタートした個人の信用情報「芝麻(ごま)信用」がある。モバイル決済によってデジタル化された生活の履歴をベースに個人の信用をスコアリングするもので、このスコアによって受けられるサービスが変わってしまう。「生活がデジタル化し、それが金融のデジタル化を引き起こし、さらに生活のデジタル化が進む。そんな好循環に入っている」(李さん)。
中国人の海外旅行が増えるとともに、アリペイやウィーチャットペイも国境をまたいで広がっている。人民日報によると、アリペイが33の国と地域、ウィーチャットペイが13の国と地域ですでに利用可能だ。さらにアリペイがインド企業に出資したように、現地サービスへも本格的に乗り出している。もちろん国によって金融サービスの水準も千差万別で、ニーズも異なる。そのため求められるフィンテックサービスも国によって異なり、中国モデルが世界を席巻するとは限らないだろう。ただ、すでに世界のフィンテック市場を左右する存在となっていることだけは間違いない。
スマホで傘やバスケットボールもシェア
「いまの中国は、携帯電話の充電器、傘、バスケットボールまでシェアリングサービスの対象になっていた」と、野村総合研究所の上級コンサルタントである李智慧さんは話す。この数年で自転車のシェアリングサービスが急拡大した中国だが、とうとう傘さえもスマホ一つでレンタルできる。財布どころか、天気も気にすることなく出かけることができるわけだ。
中国はいまや世界で、もっともキャッシュレス化が進んだフィンテック大国だ。その中国市場を抑えているのが、この10月に初めて米アマゾンを時価総額で抜いたeコマース最大手のアリババグループのAnt Financialが展開する「支付宝(アリペイ)」と、インスタントメッセージで中国最大手のテンセントの「微信支付(ウィーチャットペイ)」。ともに、スマホを使ってオンラインショッピングや実際の店舗に代わって決済を代行する第三者モバイル決済で、この2雄が中国モバイル決済市場に君臨している。
生活のすみずみまで浸透
アリペイもウィーチャットペイも、オンラインショッピングだけでなく実際の店舗でも幅広く決済できるのが特徴だ。スマホでQRコードを読み取るだけと手軽に、「ショッピングや飲食、タクシー、映画館など都市サービスを利用できる。屋台で焼き芋や果物も買えるし、寺で賽銭も払える」(李さん)という。もちろん電気代などの公共料金も支払える。最近ではアリペイによって、杭州市のバスにスマホで乗れるようになっている。シェア自転車やシェア傘のほか、中国版ウーバーである配車サービス「滴滴出行」があっという間に広がったのは、これらモバイル決済が中国で普及しているからこそだ。
人民日報によると、今年4-6月期の中国での第三者モバイル決済市場は約391兆円にも達する。実店舗での決済割合は50.3%と過半数を超え、農村地域でさえ31.7%に達するという。まだまだ現金で支払うのが一般的な日本では、ちょっと想像もできない水準である。この背景には、中国でのスマホ普及と、それまでの金融インフラの遅れがあり、どちらも後発であることの強みを生かしている。
格安スマホが追い風に
現在、中国のインターネット利用人口は7億人を超え、その9割以上がモバイルユーザーとされる。後発であるが故に、携帯電話であればフィーチャーフォン(いわゆるガラケー)、インターネット利用であればパソコンの時代を瞬く間に通り過ぎ、一気にスマホの時代が到来してしまった。この数年で中国メーカーが次々と台頭し、若者でも購入できる格安スマホが登場したことも大きい。
また中国では金融サービスが充実していない上、高額紙幣も100元(約1700円)が上限。クレジットカードの普及率も低く、より便利な決済方法が求められる気運が高まっていた。そのため大都市だけでなく、むしろ内陸部のように身近にATMもないような不便なところほど、モバイル決済が急速に広がっている。
中国企業はアジャイル経営
中国新興企業のインターネットの特性を生かしたスピード感を持った経営戦略も無視できない。アリババ、テンセントとも伝統的な金融企業ではなく、新興のネット企業。「日本企業だと投資対効果はどうだろうかと時間をかけて検討しがちだが、中国のネット企業は、まずはやってみようというアジャイル経営の発想」と李さんは指摘する。市場を予想するのではなく、利用者起点の革新的なサービスや大規模なキャンペーン等で消費者の習慣を変え、市場を作り出す発想である。さらにサービスで蓄積したビッグデータを活用して、付加価値サービスを提供し、利用者をさらに引きつける。
そんなサービスの一つに、アリペイがスタートした個人の信用情報「芝麻(ごま)信用」がある。モバイル決済によってデジタル化された生活の履歴をベースに個人の信用をスコアリングするもので、このスコアによって受けられるサービスが変わってしまう。「生活がデジタル化し、それが金融のデジタル化を引き起こし、さらに生活のデジタル化が進む。そんな好循環に入っている」(李さん)。
中国人の海外旅行が増えるとともに、アリペイやウィーチャットペイも国境をまたいで広がっている。人民日報によると、アリペイが33の国と地域、ウィーチャットペイが13の国と地域ですでに利用可能だ。さらにアリペイがインド企業に出資したように、現地サービスへも本格的に乗り出している。もちろん国によって金融サービスの水準も千差万別で、ニーズも異なる。そのため求められるフィンテックサービスも国によって異なり、中国モデルが世界を席巻するとは限らないだろう。ただ、すでに世界のフィンテック市場を左右する存在となっていることだけは間違いない。