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AIがヒトの感情を理解できる日は来る?

脳波や表情、体温などのバイタル情報を分析し、感情を推測
**職場活性化・身だしなみに応用
 感情を理解する人工知能(AI)の開発が進んでいる。脳波や表情、体温などのバイタル情報を分析し、感情を推測する。消費者の嗜好(しこう)に合わせた商品開発や、機械と人の意思疎通手段、仕事がはかどるよう人の感情を操るなどの利用方法が期待される。人間同士でも思い通りにならない感情を、AIが理解する日が来るのだろうか。

どう測定する? 脳波で感情判別


 そもそも感情は、何を測定すればわかるのか。専門技術を持つベンチャー企業のリトルソフトウェア(東京都渋谷区)は、主に脳波を分析し、そのものずばり感情や感性を認識する「リトルAI」と「ブレインプラットフォーム」を開発している。

 脳と感情の関係は近年急速に研究が進み、特に米軍関連機関が先行しているといわれている。同社は米国で明らかになった7―8種類の感情をベースに研究している。リラックス状態に関わるα波やβ波、デルタ波、シータ波がどう出ているかを分析。同社が脳波から判別できる感情は現在、67種類に上る。

 リトルソフトウェアは、大学や研究機関、企業などから集めた膨大な脳波のデータを持つ。川原伊織里代表取締役は「1日当たり、300−1000件の脳波の情報が集まっている」という。

 川原代表取締役は2014年に会社を立ち上げる前から、自ら計測デバイスを装着。普通に生活している状態で研究してきた。具体的には、ヘッドセットを装着し、脳の中でも感情との関係が深い前頭葉(FP1)と、リラックスなど人の状態と関係する側頭葉(T4)から、脳波を測定する。また、脳波と人の動きの相関関係の研究も行っている。これを基に「将来は、機器を装着せずに、人の動きだけで感情の情報を取得できるようにしたい」(川原代表取締役)という。

 日常生活での感情と脳波の研究は例が少なく、同社の研究は早くから電機や飲料など多くの企業に注目されている。例えば、自動運転車に乗っている人が、恐怖心を感じないようにするにはどうしたらいいか。複数の自動車メーカーと、自動運転車への搭載を視野に入れて共同研究している。快適な車も研究対象だ。

 病気になる一歩手前である「未病」との関係も、興味深い研究テーマ。子どもはインフルエンザで熱が出る前にイライラした状態になるが、感情は熱などのバイタルサインが表れる前に、身体の中の変化をキャッチしているのかもしれない。

アイデア次第 ロボが人の心整える


 大企業の若手・中堅社員の有志団体「One JAPAN」は、リトルソフトウェアのリトルAIをロボット「CRE―P(クリップ)」に搭載し、人を効果的に「マインドフルネス」の状態に導く研究をしている。マインドフルネスは心を整える考え方で、米グーグルなどが集中力向上のため研修に導入している。

 具体的にはクリップが、人が装着した脳波を測るヘッドセットと通信して、AIで人を理解する。日本にマインドフルネスを導入した専門家が監修した言葉の中から、クリップがその人の状態に合わせた最適な言葉を選び、効果的にマインドフルネスに導く仕組みだ。

リトルAIを搭載した「CRE−P」

 愛嬌(あいきょう)のあるロボットであれば、人間も会話を受け入れやすい。感情の理解が人とロボットの意思疎通を助ける手段にもなりそうだ。

 また、クリップはシンプルなため、感情認識以外の技術を組み合わせて、機能を拡張しやすい。One JAPANの大川陽介さんは、「クリップを使って、創造性を民主化したい」と話す。ロボットの専門家でない人も、アイデア次第で新しい機能を持つロボットを開発できるかもしれない。

 パナソニックは、非接触での感情理解に挑んでいる。カメラとサーモカメラで表情や瞬き、脈拍、皮膚温度、放熱量といった複数の情報をAIで分析する。人は笑い顔をしていても、実は怒っていたり、悲しんでいたりする。そこで表情以外の情報を組み合わせて、感情の理解を目指す。

表情や放熱量、瞬きなどさまざまな情報から、非接触で感情を読み取ることに挑戦

 温感や冷感、眠気といった身体の状態も同じシステムでセンシングする。眠気は現在だけでなく、15分後の眠気も推定できる。自動車で眠くなりそうな状態を検知すると、空調を調節して眠気を覚ますこともできる。

 非接触で感情や身体の状態を可視化できれば、アイデア次第で利用方法は広がる。パナソニックは、社員のストレスを見える化して働き方改革に活用したり、店舗にいる顧客の好みを分析したり、理解度に合わせた教育などに利用できるのではないかと見ている。
(文=梶原洵子)
日刊工業新聞2017年10月12日深層断面一部抜粋
松井里奈
松井里奈 Matsui Rina 総合事業局イベント事業部 副部長
AIの進歩は人の手助けになるのか脅威になるのか。。。気になるところだ。

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