お金を分ける時、公平に振る舞う人と、自分の分を多くする人の違いは“脳”にあった?

社会行動を生み出す脳内メカニズムとその個人差を研究

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 人間と他の動物を分ける大きな特徴に、さまざまな社会集団の形成と他者との関わり方の多様性を挙げることが出来る。この「関わり方」に関与する脳機能の解析研究も脳情報通信融合研究センター(CiNet)で進められている。

 CiNetは、人間の社会行動を生み出す脳内メカニズムとその個人差を研究対象にしている。自己と他者との比較は、自己を向上させる駆動力にも、ストレスや疾患の原因にもなる。この比較に関わる脳内プロセスに大きな関心を持って、長年にわたり研究が進められている。

 自己と他者の間でお金や物を分ける分配行動において、公平に振る舞う人もいれば、自分の取り分を多くする人もいる。このような個人差はなぜ生じるのか?

 従来は「脳内の利己的な情動・報酬システムを、熟慮を行う前頭葉が抑制することで公平に振る舞う」とする考え方が支配的であった。しかし、原始的な脳である情動・報酬システムが不公平を避けることで公平に振る舞う可能性もある。

 CiNetではこの難問に答えを出すべく実験を行った。具体的には、64人の被験者に、匿名の相手とのお金の分け方を約10秒で三つの選択肢から選んでもらった。自分と相手の報酬の和を最大にして差を最小にする、つまり公平な選択をした被験者(社会的)が25人、自分の報酬を最大にする選択をした被験者(個人的)が14人いた。

 公平な被験者は、なぜ公平に振る舞うのか。この課題に答えるために、fMRI(機能的磁気共鳴イメージング)による実験を行った。その結果、社会的被験者では、脳の深部にあり、情動に関係する部位である扁桃(へんとう)体の脳活動と“公平さ”の間に相関があった(図a)。

 さらに、この扁桃体の活動から、それぞれの社会的被験者が、不公平さを嫌がる程度を予測できた(図b)。このように社会行動とその個人差には、大脳皮質と深部の皮質下構造(例えば、扁桃体)が複雑に関わっている。
   

 CiNetは実験とモデル化により脳内メカニズムの基礎的な知見を蓄積すると同時に、これらの知見とSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)上の実社会行動や各自のストレスレベルとの関係を調べる研究を進めている。

 複雑な現代社会で、人間が幸福に生きるヒントが得られるものと期待される。
 

◇脳情報通信融合研究センター研究マネージャー 春野雅彦
93年京大院修了、同年NTT入社。03―04年ロンドン大神経学研究所リサーチフェロー、08年ケンブリッジ大研究員。計算論的神経科学、特にヒト社会行動の神経メカニズムに興味を持つ。

日刊工業新聞2017年10月17日

COMMENT

昆梓紗
デジタルメディア局
記者・編集者

なぜこのような脳の差が出るのか、気になります。

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