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ラジカセのつまみが象徴するアナログのポテンシャル

松崎順一氏に聞く「デジタルは100%以上の力を出すことが難しい」
 ―ラジカセに焦点を当てる理由は。
 「今はデジタル全盛の時代。モノを介して生活を楽しむという意識が希薄になっている。もちろんデジタル製品はどこでも手軽に使えるなど多くの長所があるが、使う楽しさという意味ではアナログ製品が勝っているのではないだろうか。ラジカセはアナログの時代を象徴する製品だと思う」

 ―題名にフューチャー(未来)という言葉が入り、懐古趣味にとどまっていない点が印象的です。
 「我々の世代にとってはラジカセは懐かしいもの。ただ若い人には、(つまみを回すなど)直接五感を生かしながら音を出すという行為が新鮮に感じられるはずだ。『こういう楽しみもあるんだ』と気付いてほしい。最近モノを多く持たない人が増えているようだが、アナログの良さを広めることで、モノを所有し“愛でる”ことの喜びを伝えたい。この本は『これからの生活でラジカセがこんな役割を果たせるのではないか』という提案でもある」

 ―“人間と機械の心地よい関係にはインターフェース(接点)としての「モノ」が必要”という箇所も印象に残りました。
 「今の家電製品は洗練されすぎていて、どこをどう操作すればいいかなどが意外と分かりづらい。またボタンからは『押した!』という感触があまり伝わってこないため、少し頼りない感じもする。その点、ラジカセなどは誰が見ても直感的に動かし方が分かるし、機械を操作している感じをじかに味わえるのが魅力だ」

 「工夫次第でポテンシャル(可能性)を最大限に引き出せることも、アナログの良さだと思う。例えば二つのつまみを同時に回しながら再生するなど、さまざまな“遊び方”がある。場合によっては200―300%の力を出すことも可能だ。デジタルはアナログより安定感があるが、100%以上の力を出すことは難しい」

 ―アンビエント、ドローン、ヒップホップといった音楽ではカセットの新譜が増えています。データ化された音楽への反動でしょうか。
 「アナログはゆったり感がありリラックスできる。もっと良さを広められるはずだ。14日に東京や大阪で開かれるイベント『カセット・ストア・デイ・ジャパン2017』を大いに盛り上げたい。私自身も、今まで以上にイベントを積極的に開いていく。従来は大都市中心だったが、今後は地方もどんどん回りたい。インターネットも活用するが、直接話して考え方を伝えることを大事にしていきたい」

 ―かつて世界中に大量のラジカセを供給していた日本の家電産業は迷走しています。
 「自分たちの技術や製品力を過信し、旧態依然とした体制を続けてしまったことに原因があると思う。それと需要側の変化も大きい。この多様化の時代に、大企業が家電で勝ち続けるのは難しいのかもしれない。主要なメーカーは大きくなり過ぎて、ニーズへの反応が鈍くなっている。半面、中堅・中小のメーカーでは元気なところもあるので、頑張ってほしい」
(聞き手=藤崎竜介)
松崎順一氏・デザインアンダーグラウンド代表

【略歴】
デザインアンダーグラウンド代表。80年(昭55)日本デザイン専門学校(現日本デザイン福祉専門学校)卒、同年ローザ入社。退職後、03年に自らの工房「デザインアンダーグラウンド」を設立。近代工業製品(主にラジカセ)の発掘・整備・販売を営む傍ら、イベントやアート展なども開く。東京都出身、57歳。『ラジカセ for フューチャー 新たに根付くラジカセ・カセット文化の潮流』(誠文堂新光社)」
日刊工業新聞2017年10月9日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
先日、NHKで「たけしのこれがホントのニッポン芸能史 JーPOPvs昭和歌謡」という番組を放送していてとても興味深く見た。今のアーティストが曲作りで昭和の歌を聴きインスピレーションを受けていると。単なる懐古主義でもなく、単純なアナログvsデジタルというのでもないだろう。以前、ニュースイッチでソニー創業者、井深さんの記事を掲載してとても反響があった。 「デジタルだ、アナログだ」なんてのは技術革新にも入らない」(井深氏)。パラダイムシフトの本質をもっと考えてみたい。

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