「近大マグロ」いよいよ世界へ

2020年に東南アへ2000匹輸出

 豊田通商と近畿大学は、卵から成魚まで人工育成する完全養殖クロマグロ「近大マグロ」の海外輸出を本格的に始める。まずは今月以降、香港や台湾、シンガポールやベトナムといった東南アジアを中心に冷蔵での空輸を開始。2020年に約2000匹の輸出を目指す。

 近大発の稚魚を使った完全養殖ブリの輸出も併せて実施。和食ブームで水産物需要が拡大するアジア地域で、資源を損なわない完全養殖魚の市場を開拓する。

 豊田通商は10年にツナドリーム五島(長崎県五島市)を設立し、マグロの養殖事業に参入。豊田通商のマグロ養殖の特徴は「ヨコワ」と呼ばれる体長30センチメートル程度の幼魚に特化している点だ。

 近畿大から稚魚を仕入れ、長崎県五島列島の福江島にある海上いけすでヨコワに育てて養殖業者に販売する。豊田通商の養殖はあくまで中間養殖で、ヨコワの販売先には双日や三菱商事など他の商社もある。

 豊田通商がヨコワの養殖に特化した理由は「マグロが減少して養殖の必要性が増しているが、稚魚からの育成が最も難しく、困っている業者が多かった」(北山哲士農水事業部水産養殖グループリーダー)ためだ。

 多くのマグロ養殖は天然の幼魚を仕入れて、2―3年間育てて出荷しており、「養殖も結局は天然に頼っている」(同)。乱獲による天然幼魚の減少や国際的な漁獲規制の強化で、幼魚の確保が養殖業者の生命線となっている。

 全くノウハウがないまま飛び込んだ養殖事業は、当初、当然のごとく技術の壁にぶつかり、稚魚の生存率は2%。仕入れてもほとんどが死んでしまう状態だった。

 だが、近畿大と協力してえさのやり方や輸送方法を工夫し、いけすを円形にするなど研究を重ね、生存率を35%まで向上した。

 近大マグロの直近の生産量は年間3500―4000匹。現在、6基の水槽で養殖しているが、20年をめどに16基まで拡大する計画。「足元は生存率25%程度で推移しているが、50%を目指している」(同)。改善を進め、強い種苗の生産を目指す。天候や潮流など蓄積したデータを生かし、効率化やコストダウンも図る。
                 

 

日刊工業新聞2017年10月6日

高屋 優理

高屋 優理
10月08日
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 国連食糧農業機関(FAO)によると、世界の天然の水産物の漁獲量は90年代から、8000万―9000万トンで推移しており、変わっていない。一方、水産物の消費量は年々拡大し、90年代は1人当たり14・4キログラムだったが、14年に20キログラムを超えて上昇が続く。漁獲量に大きな変化がない中で、資源状態が評価されている漁業資源の31・4%は乱獲の状態にあるとされる。マグロやサンマなどは、各国間で取り合いとなっており、天然資源に頼らず、養殖で水産物を確保する必要性が年々増している。
 双日は08年に双日ツナファーム鷹島を設立し、商社としては初めて、クロマグロの養殖事業に参入した。10年からは出荷を開始し、販路を広げている。三菱商事も傘下の東洋冷蔵を通じて13年に参入している。いずれも、幼魚を仕入れ、成魚に育てる事業だ。双日も当初は苦戦したが、水揚げ量は10年度の41トンから16年度は400トンと約10倍に拡大した。幼魚から成魚への養殖技術はほぼ確立。30基のいけすで養殖可能な上限まで生産できている。さらに増産したいが、幼魚から成魚への養殖は天然の幼魚を保護する規制があり、養殖事業者ごとに生産量が決められている。これ以上生産量を増やすのは難しい。
 完全養殖であれば規制に触れない。マルハニチロや極洋などの水産大手は完全養殖の技術の確立と事業化を進めている。ただ、完全養殖の技術的なハードルは依然高く、コストとの折り合いが付かないのが現状だ。双日ではNTTドコモなどと組み、IoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)を活用して、養殖の期間を短くするなど、収益性を高める方向にかじを切っている。

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