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ソニーから“第2のウォークマン”が生まれる香りが漂い始めた?

新規事業創出プログラムは製品化がゴールではない
ソニーから“第2のウォークマン”が生まれる香りが漂い始めた?

携帯型アロマディフューザー「アロマスティック」

 ソニー新規事業創出部統括課長の藤田修二は、ふと横の女性社員に目をやった。彼女はハンドクリームを塗った後の手の香りを嗅いでいた。話を聞くと、20本ほどを使い分けている女性もいるという。「嗅覚を使って『わくわくする』最終製品を作りたい」と考えていた藤田は「香りを持ち運ぶ」という案を思い付く。そして2015年1月、新規事業創出プログラム「SAP」のオーディションの扉をたたいた。

 既存領域外の新しいアイデアを事業化しようと始まったSAP。このプログラムを通じ、藤田は「アロマスティック」を開発した。携帯型のアロマディフューザーで、5種類の香りを気分によって楽しめる製品だ。14年の発足以来、バンド部分に機能を搭載した腕時計や、あらゆる家電を操作できる端末など、順調に製品を市場投入し続けている。

 一般的にハードウエアを事業化するベンチャーの壁は、サプライチェーンの構築に時間がかかってしまうことにある。SAPはソニーが築いてきたモノづくりの基盤や製品化までのノウハウなど、大企業ならではの資産を利用できるプラットフォームを作り込んだ。プラットフォームの運営は専門部隊が担っており、新規事業チームは立案に多くの時間を割ける。

 SAPを立ち上げた新規事業創出部統括部長の小田島伸至は「このプラットフォームを作るのに精力を傾けた」と成果創出の秘訣(ひけつ)を打ち明ける。「大企業から新しい事業の芽が生まれる大きなエコシステム(生態系)を作りたい」―。小田島は目を輝かす。

 SAPは製品化がゴールではない。藤田は「収益化が第1」と気を引き締める。ブランディングと販路開拓を同時並行で進め1台でも多く売れるよう走り回っている。目標は街中でアロマスティックを使っている人を見かけるまで普及させることだ。一方、小田島は「世に出始めた製品が、ゆくゆくは経営の柱の一つになれば」と期待を寄せる。

 事業創出のうねりは大きくなりつつある。SAPの中から、かつてのウォークマンやプレイステーションのように市場を席巻する製品が生まれるかもしれない。(敬称略)

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日刊工業新聞2017年1月31日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
大手企業での新規事業はそう簡単ではない。でも今のソニーにおいて平井社長や現在、ソニーモバイルの社長の十時さんなどのマネジメント層がとても理解があるのは大きい。そのあたりの経緯は関連記事を。

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